A New Fighting Adventurers第10話
そうして迎えた翌日の朝。晴れ渡った青空が窓から見えるが、この屋敷はもうすぐ火の海になるのだ。
「さて、ここを捨てるにしてもこれからの旅で必要な物はありそうだな」
屋敷のエントランスを見渡してヘルツが呟く。
「ああ。僕も全てを捨てる訳じゃない。必要な書物や食材などは持って行く事にしよう」
「追っ手が来るかも知れないから、僕等もなるべく早く済ませよう。それからこの屋敷は燃やすんだっけ?」
「そう、証拠隠滅だ。僕は地下の資料庫へ向かう。……マルニス、着いて来てくれるか?」
「わかった。それじゃブラインとヘルツは他の所をお願いね」
「ああ」
一旦二手に分かれ、屋敷中を捜索して旅に必要な食材や金目の物、それから
奴等が持ち去って行った資料の手がかりになりそうな資料や書物も袋に詰める。
(……これ、あいつの許可がなかったらコソ泥と同じだな……)
袋にせっせと物を詰めつつ、苦笑を浮かべるヘルツ。
主に食材と、レディクからもらった鍵で開けた金庫の金、そして高そうな貴金属類等を集めていれば
自分でもそう思わざるを得ないものだ。
「余り多く持つと、移動の時疲れるからな」
「わかってる」
一方のマルニスとレディクも終え、次はこの屋敷を燃やす算段に入る。
とは言っても……。
「魔法でばーっと燃やす訳じゃないんだな」
「俺はそこまでの魔法は使えない。誰かさんはどうか知らないけど」
「……僕も無理だ。良いからさっさと油を撒け」
魔法は自分の魔力を使う為、使いすぎるといざと言う時に使えなくなってしまう。
魔力は休めば回復するのだが、戦闘の時はそうも行かないのが実情だ。
そうして全ての部屋に油を巻き終え、裏口からレディクが火を点ける。
それは瞬く間に屋敷の中へと燃え広がって行った。
「よし、さっさと逃げよう。北だったな?」
「ああ。行こう」
裏口から脱出し、そのまま近くに止まっていた馬車に乗せてもらえる様に頼んで
セーメインの街を後にする。
ちらりと馬車の窓から街を見てみると、遠くの方で大きな炎が上がっていた。
「本当に良かったのか?」
「問題は無い。僕も追いつめられていた事だし、殺される位ならああやった方がマシだ」
「はぁ……」
苦もなくそう言い放つレディクだったが、その横顔は何だか哀愁を帯びている。
「ところで、これから先はどうするんだ? 北って言うと……」
「アレデルンの街かな。そこ位しか行く場所が無い」
「ああ、また川を越えて行く訳だな。しかし馬車を手配できて良かったぜ。
歩きだったらカーヴィリック平原を抜ける前にまた野宿する所だったよ」
「本当だな」
そんな事をぼやきながら、4人は屋敷から持って来たパンやミルクを口にする。
それと同時に、地下の資料庫から持って来た書物も確認し始めた。
書物は魔術関係の物が中心であったが、それ以外に1つ気になる物をブラインが発見する。
「ん? 何だこれ……古代遺跡に関する研究?」
「遺跡?」
「それは僕の先祖が研究者だった時に、独自にまとめた物だ」
古代遺跡と言えば、3人には思い当たるフシがある。
アレデルンの街から更に北西へ進み、地図上では行き止まりになっている場所にその古代遺跡があるのだ。
「遺跡の名前は確か……クレイジール遺跡だっけ?」
「ああ、そうみたいだ。ここには人間の言葉を話すと言われた伝説の飛竜が太古の時代に
封印されたと聞いていたが、今回は全く関係ないと思う。だけどそれよりも
その騎士団長達はここに向かう可能性がなきにしもあらずって事じゃないか?」
そのマルニスの指摘に、他の3人も頷きを返す。
「それも一理あるかも知れないけど、でも確定した訳じゃないからな」
「……とにかく、これから向かうアレデルンで情報を集めよう」
アレデルンは川のほとりに位置する街であり、川から捕れる魚を売りにしている。
それからここの街には、帝都近くまで人や物資を運ぶ直通便の船も出ているのだ。
「着くのは夕方位になるそうだし、一眠りしよう」
「ああ、そうだな」
「僕は書物を読む。話しかけないでくれ」
「ああ。誰も話しかけないから心配すんなよ」
そんなやりとりの後にぐっすり眠っていた3人は、レディクに叩き起こされた。
「おい、いつまで寝ているつもりだ!!」
「は……うぅぅう……よく寝た」
「着いたぞ、起きろ!!」
起きてみれば確かに馬車の窓の外は夕方になり、その窓からはアレデルンの街が見えた。
馬車の主人と別れ、早速宿屋を取る準備をする。
「俺とマルニスは情報収集をする。そっちは宿屋の手配と金目の物の換金を頼むぞ」
「わかったわかった」
ヘルツとレディクと一旦分かれ、マルニスとブラインは情報収集へと向かう。
「ここら辺まで来れば、そろそろ僕達が追いついても良い筈なんだけれども」
「ああ。だけど騎士団長達の姿が見えないもんな。どうするべきか悩むな」
そんなやりとりをしつつも、とにかく情報収集をしようと紙と羽ペンを取り出す2人。
だが、顔を上げた瞬間に2人の動きが止まる。
それもその筈、その目線の先には……。
「バイラス騎士団長……!?」
「ほ、本当だ! ……尾行するか?」
「ああ!」
何と目線の先には、自分達が探し求めていた騎士団長のバイラス・アーノアルの姿があった。
ひっそりと、見失わない程度に尾行を開始する2人。
そうしてしばらく尾行して行くと、数人の男達と合流したではないか。
「……知っている顔が数人居るな」
「ああ。副騎士団長のイワン様も居るぞ」
「それからえーと誰だっけ、ああ、槍使いのカイン様も居るぜ」
(……ブライン、絶対今忘れてただろ)
尾行を続けて行くと、最終的に騎士団長達は6人組のパーティへと膨れ上がった。
そして何と船へと乗り込むのを確認。
「ん、おい、船に乗ったぞ?」
「本当だ!」
この街もさっきのセーメインと同じくそれほど大きくは無いのだが、問題なのはその出航時刻だ。
マルニスとブラインはそれとなく船員に近づき、時間を尋ねる。
「すいません、この船っていつ出ます?」
「ああ、後もう少しで出るよ」
「そうですか。……ヘルツとレディクを呼んで来い。僕等も乗ろう。宿はキャンセルだ」
「あ、ああ!!」
マルニスはブラインにそう命令し、自分は4人分の船のチケットの代金を支払う。
行き先は……アーエリヴァ帝国の帝都近くの停留所だった。
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