協力者
森本 智史(もりもと さとし)
アメリカ・バーチャシティ。
ここでは、毎日犯罪も起きている。それを解決するため日々活動しているバーチャシティ警察。
その中でもバーチャシティ警察第2分署に課がある特別捜査課、略して特捜課。
ここは特に難しい事件や大きな事件が起きた時に活動、協力する普通の人なら2日で音を上げてしまうような厳しい課だ。
そこに属しているのが、署内のトラブルメーカーと呼ばれているマイク・ハーディ、通称レイジと
その相棒でプレイボーイなジミー・クールス、通称スマーティ。
更に犯罪心理学を得意とする女刑事でオペレーターのジャネット・マーシャル、その3人をまとめるフランク・カランザ特捜課主任の4人で構成されている。
そして、今日も事件は起きる。
(俺、なんでこんなことしてるんだっけ…)
森本 智史(もりもと さとし)は愛車のアドバンカラーのランサーエボリューション3・・通称エボ3を加速させる。
その後ろから追いかけてくるのは青・黒・白のZ28カマロのパトカーを筆頭としたパトカー軍団。
このカマロが別格で速い。
エボ3は450馬力はあるのに余裕で追いつかれてしまう。
カマロに乗っている金髪の刑事・・ジミー・クールスことスマーティは心の中でつぶやきつつ、ハンドルを切るドライバーの相棒の刑事に叫ぶ。
「レイジ、右だっ! 逃がすなよ!」
叫ばれた刑事・・レイジことマイク・ハーディはアクセルを踏み込んでカマロを加速させる。
「俺たちから逃げようったって、そうはいかねぇっ!」
そういいつつ、レイジは腰から愛用の拳銃である、ガーディアンKを引き抜いた。
しかしそんなことは全く智史は関知せず、ひたすら前だけを見て爆走する。
(…何か嫌な予感がするな。この先の道は…!)
エボ3を加速させ、何とか後ろのカマロを振り切ろうとする智史。しかしこの道の先にとてつもなく嫌な予感を感じていた。それでも今は自分にできることをやるしかない。
(この先は…シーサイドドライブ、とか言うところか?)
最悪なことに、直線コースが多い道を選んでしまったらしい。いくら450馬力のパワーを誇るチューンドエボ3でも、カマロのパワーには負けてしまう。
智史はしっかり目の前を見据え、前を走っていく黄緑のE30のBMWを逃がさないようにハンドルを握りしめた。
事の発端は智史が旅行にやってきたことから始まった。
ラリーのシーズンオフを狙ってここアメリカ・バーチャシティまでやってきたまではよかった。
しかし最終日、帰国の途に着こうと思って一緒に空輸した、愛車のエボ3でハイウェイを走っていると、1台のカプリスのパトカーに停車するよう指示された。
「…何でしょう?」
智史は窓を開け、こんこんと窓を叩いてくる警官に話しかけた。
「すまないが降りてくれないか。ブレーキランプが片方点灯していない」
「え? バルブ切れかな?」
隆はエボ3から降り、後ろに回り込む。しかしキーはささったまま。
その油断が命取りとなってしまった。
次の瞬間、後ろから突然現れた黄緑のE30BMWから4人の男達が降りてきて、智史に襲いかかる。
「え、あ…何!?」
「悪いな? 車はもらってくぜ」
そう、こいつらは警官を装った車泥棒だった。その警官はエボ3に乗り込もうとする。
(くそっ!)
智史はとっさに、ズボンのポケットに入れておいた催涙スプレーを取り出して男達に噴射。
「うえっ!? げほあああっ!」
怯んだ男を突き飛ばし、運良く警官に直撃。そのままの勢いで智史はドロップキック。
「ぐふうっ! だ、だが中にあった財布はいただいたぜ! ずらかるぞ!」
(な…に!?)
BMWに乗り込み逃げ出す5人組。あの警官がリーダーなのだろう。
智史は財布を取り戻すため、BMWを追いかけ始める。
(ラリードライバーから逃げようとは、良い度胸だな!)
BMWにピッタリと張り付き、テールを小突く智史。だがその瞬間、近くでサイレンの音が響いた。
(やばっ!! 何でこんな時に限って警察が…!)
携帯をとりだして警察に電話しようとするが、交通量が多い上にBMWは智史や警察を振り切ろうと
コーナーの多いビジネス街を駆け抜けていくので、智史もドライビングで精一杯。
そしてバーチャコップのカマロにも見つかり、現在に至る。
その頃智史はぴったりとカマロに張り付かれていた。海沿いのこの道は横風も激しい。
少しマシンもふらつくが、どっしりと安定しているエボ3はそれだけなら走ることに何の乱れも起きない。
しかし威嚇射撃も先ほどされ、前方の交差点の先にはまたロードブロック。
BMWは難なくすり抜けていく。
智史も突っ込むわけにもいかないので交差点を左へ。
ギアを2速から3速にあげ、アクセルを踏み込んで加速。でもこのストレートの多いコースでは、ラリーで培ったコーナリングテクニックはあまり役に立たない。
それと同時に智史は、自分は進路をふさがれることで誘導されていることに気がついた。
(やばいな、これ…追い込まれてる!)
何とか状況を打破しようとは思うのだが、後ろにはパトカーを引き連れているためUターンできない。しかもそれをやると
BMWに逃げられるので、どこかでロードブロックをすり抜けるしかなさそうである。
(…よし、あのロードブロックの脇を振り返して抜ければ!)
智史はエボ3を加速させ、一気にロードブロックに接近。そしてまずはクラッチをすばやく踏んですばやく放してテールを振り出し、
その勢いでアクセルからいったん足を離す。すると荷重が抜けるので、ハンドルを逆に回してアクセルを踏む。そうすることで荷重がまたかかり、テールが逆方向に振り出される。
これがラリーの世界でも使われる「振り返し」と呼ばれるテクニックだ。
雪や砂ですべる路面の連続コーナーで、まともにタイヤがグリップしないときにこのテクニックを使うことがある。これで何とかロードブロックをすり抜けることができた。
車幅がカマロより小さいエボ3だからこそできたともいえる。
「くそっ! あの野郎ロードブロックをすり抜けやがった!」
「わかってるって! …待てよ、この先にあるものといえば…」
スマーティはナビを使ってこの先の地図を確認。すると次の瞬間、スマーティの顔が変わった。
「まずいぞレイジ。この先は港湾地域だ。複雑に入り組んでいるから下手をすれば逃げられる!」
「だったら、その前に捕まえればいいだけの話だ!」
そういって、ロードブロックをどかしてもらったレイジは、思いっきりカマロを加速させエボ3を追いかけるのであった。
(奴らのアジトは…どこだ…わかりづらいな!)
何とかパトカー軍団を振り切った智史は目的の倉庫を探す。BMWはこの倉庫街に入っていったが、見失ってしまった。
(あ、あそこか!?)
半開きの扉がある倉庫。その前には黄緑のBMWが停まっている。間違いないと確信し、智史は気づかれないようエボ3を近くに停めた。
そしてすぐさま携帯をとりだして電話する。
「警察ですか? あの、車両強盗団のアジトを発見しました。倉庫街にある1つの倉庫の前に、緑のBMWが停まっています。
白い屋根の倉庫です。…はい、よろしく。あ、後サイレンは鳴らさないでください。
それとあまり倉庫には車で近づかない方が良いかと。エンジン音で気がつかれる恐れも…。奴らに気がつかれると逃げられると思うので。…はい、では待ってます」
智史は電話を切り、エボ3の中で待機した。
その後、さっきのカマロが遠くで停車する音が聞こえた。しかし、ここでとんでもない事実に気がついてしまう智史。
(あ…待てよ、このエボ3見られたら!)
だがそんなことを考えている間に、もう警官達がやってきてしまった。
「あ、お前は…!」
「なるほどね、通報したのはお前さんってわけか」
「はい…」
こりゃ罰金はとられるな、とショボーンとなる智史だった。
「まぁいい。お前への事情聴取は後だ。行くぞスマーティ!」
「ああ。逃げるなよ?」
「…………はい」
10分ほどして、中からものすごい音が何回も聞こえてくるのを聞いた後、窃盗団は全員捕まった。
智史は連行されていく、警官姿だったリーダーの男に向かって歩く。
「…おい」
「…何だ」
「財布出せ。俺の財布」
「…ちっ」
そばにいた警官がリーダーの男のポケットを漁る。しかし次の瞬間、男が警官を突き飛ばして智史に向かってきた。
(何!?)
男の手にはナイフ。智史に突き刺すつもりだろうが、智史はその前に体をひねって足を思いっきり振り上げた。その蹴りは見事、男の股間に直撃!
「おほおっ!?」
なんとも間抜けな声を上げ、男はその場に崩れ落ちた。
「俺…どうしても許せなかった。ラリードライバーやってる身として、車は自分の分身みたいなもんだから」
第2分署にて、スマーティとレイジから取調べを受ける智史。
「まぁいろいろあるのはわかるが、今度からはまず第一に警察に通報してくれ。そうしないと今回みたいに、あんたも犯罪者として追われることになる」
「…はい。すいませんでした」
智史は席を立ち、署の外へ出て行こうとする。
しかしまだ智史にはやることがあった。
「ああ…そうそう。ひとつだけ忘れていた」
振り向いた智史の視線の先には、自分に向かって突き出されるレイジの手。その手には書類が1枚。そしてレイジが一言。
「スピード違反の罰金は、ちゃんと払っていってくれよ」
完