協力者

小実奈 由紀(こみな ゆき)





アメリカ・バーチャシティ。



ここでは、毎日犯罪も起きている。

それを解決するため日々活動しているバーチャシティ警察。

その中でもバーチャシティ警察第2分署に課がある特別捜査課、略して特捜課。

ここは特に難しい事件や大きな事件が起きた時に活動、協力する普通の人なら2日で音を上げてしまうような厳しい課だ。

そこに属しているのが、署内のトラブルメーカーと呼ばれているマイク・ハーディ、通称レイジと

その相棒でプレイボーイなジミー・クールス、通称スマーティ。

更に犯罪心理学を得意とする女刑事でオペレーターのジャネット・マーシャル、その3人をまとめるフランク・カランザ特捜課主任の4人で構成されている。


そして、今日も事件は起きる。



「関連が見つかった。この前の2つの事件は結び付いていたそうだ」

カランザの声が特捜課のオフィスに響き渡る。

それに続けて、ジャネットの報告が読み上げられた。

「特に2番目の事件…文化財の強奪との関係は強いです。あの文化財は極秘の調査の結果、

表向きはイギリスの王妃が所有していた指輪だったのですが、その中には超小型の核兵器開発プログラムが巧妙に組み込まれていました」


「つまり、俺らは核兵器の護衛をしていたということか」

「まんまと騙されたってわけだ」

苦虫を噛み潰したような顔をしたレイジとスマーティに対し、カランザは落ち着いた口調で事件をまとめた。

「しかも、あの脱走した3人は核開発をしていた人間だということも判明した。何者かが彼らを金で買収し、脱走の手助けをしたのだろう」

「ふむ。だとすると、バックには何らかの組織が関与しているということが考えられますね」

「それも調べは着いた。脱走犯の1人が自供してな。郊外の廃墟となったビルを根城にしているらしい」

「いよいよ決着だな…」


という訳で。

「着いたようね。じゃあ、裏口があるはずだから、そこから突入して」

ジャネットの指示で、レイジとスマーティの2人は突入の準備を固めた。これがいよいよ、最後の戦いになる。

深呼吸を1つして目を見合わせ、軽くうなずく。そしてスマーティがドアを蹴り開けた。


同時刻。

(はー…。仕事も終わったし、帰ろう帰ろう)

緑のスバルGDBインプレッサに乗った1人の女性が、あくびをしつつ家路に着いていた。

彼女の名前は小実奈 由紀(こみな ゆき)。

日本からやってきたクレープ屋勤務の女性で、彼女は今回、そのクレープ屋がバーチャシティに支店を出すと言うことで、

半ば無理矢理にバーチャシティまで土地を見てくるように言われた。

思いっきり専門外で、しかもただの支店の店員だと言うだけなのに何で…などと思いつつ、とりあえず下見は完了。

ホテルに戻って、パソコンで日本の本社にこのことを報告しなければならない。


(しかし暑いわね。…喉が渇いたわ)

郊外の住宅街を抜け、市街地エリアへ向かう道を走り抜けながらそんなことを思っていると…。

(あ、良いもの見つけた)

道ばたにドリンクの自販機を発見。すかさずインプレッサを停め、エンジンを切って一休みもかねてドリンクを購入。

(ふう、水分補給は大切よね)


ドリンクを飲み干し、さてホテルへ…と思った瞬間。突然、自販機の後にあった廃ビルから銃弾が飛んできた。

「きゃあっ!?」

思わず悲鳴を上げてしまう。しかも…。

「おい、そこにいるのは誰だ!」

「え…え?」

何か武装した男が1人近づいてきた。そして由紀をなめ回すように見る。

「ほう、こんな時間に女が1人か。こいつは良い。こっちへ来い!!」

「ちょ、ちょっとやめてよ!」

「うるせぇ! 来いと言ったら来い!」

由紀は強引に男に拉致され、廃ビルの中へと連れ込まれた。



「よし、こっちは片付いたぞ!」

「こっちもいいぜ。行くぞ!」

順調にアジトを壊滅させていく2人。この戦いが終わったら一休みできる。そのためにも、しっかりこいつらを叩きのめしておかなければ。

2人はガーディアンを握る手に力を込めた。

このビルは6階建て。2人は今4階までやって来ていた。


(しかし、相手さん方の数が少ないな?)

スマーティは疑問を感じている。そしてそれはレイジも同じだった。刑事としての勘が、何かがおかしいと言っている。

(こういう場合、こいつらは仲間を上に集めて一気に畳み掛けて来るパターンだろうな)

そんなことを考えつつ、2人は5階への階段を駆け上がっていった。



「痛っ! 何するのよ!?」

「大人しくしていろ!あいつらを黙らすためのエサになってもらう!」

由紀は最上階の6階にある小部屋に連れてこられ、後ろ手と両足にロープを縛られ、身動きが取れなくなっていた。

「もう、何でこんなことになるのよ…!」

ぶつぶつと己の身に起こったことを嘆きつつ、何とか脱出できないかと考えてみた。だが何も思い浮かばない。

(これから私、どうなっちゃうのかな…)

上司からの命令でアメリカまで来て見れば、この有り様。


(とりあえず、何とかこの腕と足に巻き付いているロープをほどかないと!)

もう1度、どうにかならないか考えてみよう。

どうやらここは以前、オフィスとして使われていたようだ。しかし今はその面影はなく、照明は薄暗い蛍光灯が何セットかあるだけ。

後は窓がひび割れているのが特徴だが、それ以外は何もない。

(とにかく、何とかしてみなきゃね)

縛られた身体を動かして、由紀は行動を開始した。



(撃っても撃ってもキリがねぇな)

(相手の数が多くなって来ている。もう佳境か!)

気を引き締め、しっかり確実にビルを制圧していく2人。

「多数の熱反応を確認。気をつけてね!」

「「了解」」

ジャネットも厳しくなっていると感じるようだ。だからと言ってここで怖じ気づくようでは刑事失格だ。

もうベテランの域に達しそうな2人は、これまでの経験を生かして慎重に進んで行く。目の前には6階へ続く階段。

ここを上れば多分リーダー格の奴がいる筈だ。レイジとスマーティは目配せをして、階段を駆け上がっていった。

戦いは、終盤戦へ――。




(くっ…なかなか上手くいかないわね!)

由紀は必死にロープを切ろうと奮闘していた。

ひび割れたガラスを割り、残った所の角を使って切れると考えてみた。だが上手くいかない。

それでも何とか粘って、ついに手のロープを切ることに成功した。

(よし!)

その勢いで足のロープをほどき、このビルから脱出する方法を考える。

下手に動き回れば危険だ。


とりあえず、ポケットから抜かれずに済んだケータイを取りだし、警察に連絡をする。

「はい、警察です」

「も、もしもし! 助けて! 監禁されてるの!」

「落ち着いてください。周りに何か見えますか?」

「な、何も…ここ、どうやら廃ビルらしくて…しかも高い! 大体5階から6階くらいだと思う! …あ、あとここは郊外よ! 郊外のビル! 廃ビル!」

「わかりました。電話は切らないで。…ん、ちょっと待ってください。…あなた、1人ですか?」

「は、はい!」

「そこから絶対動かないでください。いいですね?」

「わ…わかったわ!」


しかし、良いことの後は悪いことが訪れるもの。いきなり部屋のドアが開き、さっきの男が入ってきた!

「あっ…!」

「おい!? 何をしている! しかもロープをほどきやがって! なめた真似を!」

一気に由紀に接近しビンタをかますと、ケータイを取り上げて窓の外へ放り投げた。

「痛っ! きゃああっ!」

「オラッ! こっちへ来い!」

羽交い締めにして由紀を部屋の外へ連れ出し、屋上へと連れて行く。

「悪いが貴様には、もう少し付き合ってもらうぞ」

どこからかローターの音が聞こえてくる。おそらくこの男がヘリを呼んで、逃げるつもりなのだろう。

(警察はまだなの!? このままじゃ私・・!)



5階を終わらせ、6階へ踏み込もうとした2人のところにジャネットからの通信が入った。

「たった今悪い知らせが入ったわ。6階のどこかに人質が1人いるそうよ」

「何だって!?」

「…それはまずいな」

2人は6階へ駆け出し、敵を殲滅していく。


6階もあらかた片づいた。残るは目の前にある大きな扉だけ。

目配せをし、レイジが扉を蹴破って中に突入。だがその部屋は空っぽ。窓ガラスが割れ、ロープが2本落ちていた。

(人質は逃げ出したのか? そうとなれば…)


その時、2人の耳にヘリのローター音が聞こえてきた。

(…まさか!)

即座に部屋の外へ飛び出し、階段を探す。

すると、屋上へ続くドアを発見。蹴破ってその先にある階段を駆け上がり、屋上へ出た。

2人の目に飛び込んできたのは、ヘリを使って逃げようとする男と、男の腕で羽交い締めにされてヘリに連れ込まれそうな人影が。

レイジとスマーティはガーディアンを構えた。


「動くな! そこで止まれ!」

「ちっ、だがこっちにはこいつがいるんでな!」

男は人質をヘリに押し込み、自分もヘリに乗り込もうとしている。

(くそっ! こうなったら!)

2人はガーディアンの狙いを男に定めた。チャンスは1度きり。男までの距離は約30フィート。メートルに直すと大体9メートルといったところだ。

((届け!))



目の前で男が倒れていく。赤い液体が飛び出てくる。

由紀は一瞬何が起こったのか、全く分からなかった。ただ目の前の光景だけが、無声映画のように流れていった。

ぎゅっとその瞬間目をつぶり、もう1度開けてみればたくましい刑事の腕に抱きかかえられていた。

(助かったのかな…)

そんなことを考えながら、由紀はゆっくりと意識を手放した。




「う…う…ん……んんっ!?」

由紀が目を覚ますと、そこには白い天井と医師の姿が。

「気が付きましたか?」

「…ここは…病院ですか?」

「そうです。外傷は特に見られませんが、検査のため明日まで入院という形になります」

「あ、はい…分かりました」

「何かあればお呼びください。それでは」

医師は踵を返して去っていった。


(私は…そうか、あのビルで気を失って、ここに運ばれたのか)

まだ頭があまり働かないので、無理をせずにベッドの上で状況を整理していく。

(しかし、まさかあんな事に巻き込まれるとはね。今度からは飲み物を事前に買っておこう。…あ、そうだ! インプレッサは!?)

だが今は動けないため、その日1日は検査のために病院で過ごした由紀だった。


その翌日。退院した由紀は特捜課のオフィスへと向かった。

「レイジ、スマーティ。君たちにお客さんだ」

「俺らにですか?」

あの事件の後、事後の処理を終えてオフィスに戻ってきて、少しの間ではあるがバーチャコップ達は休息を取っていた。

(誰だ?)

一応警戒のために、腰に下げたガーディアンのグリップに手を添え、お客さんを招き入れた。


入ってきたのは、あの人質になっていた女性だった。

「あ、あの…昨日は助けて頂いて、どうもありがとうございました」

「君は…」

「ああ、君か。体調はどうだい?」

「大丈夫です。おかげさまですっかり元気です」

「あなたがあの事件現場から救出された女性ね。とりあえず落ち着いて話しましょう」

由紀は差し出された椅子に座った。



「……そう言うわけで私、そう言う経緯で巻き込まれたんです」

「そう…辛かったわね」

5人の間にしんみりとした空気が流れた。


「それと話は変わりますが、私の車は・・?」

その言葉にカランザが口を開く。

「ビルの前に停まっていた緑の車か? だったら署の地下駐車場に保管してある。ジャネット、すまんが案内してあげてくれないか?」

「分かりました。それじゃ、行きましょ」

「それじゃ、私はこれで。お邪魔しました」

「ああ、またな。気をつけろよ」

「困った時は呼んでくれよ!」

「はい。ではまた」

ジャネット以外の3人に別れを告げ、由紀は特捜課のオフィスを後にした。



「えーと…あ、あれあれ! よかった…無事で」

「あなた、車が好きなの?」

「ええ。結構改造もしてる。…ところでこのバーチャシティって、ストリートレースとか取り締まりしてたりするんですか?」

「うーん…そう言うことは警ら部の仕事だから、私たちはよく分からないわ。

…でも、もしあなたがそう言うことをするようであれば、たとえ知り合いでも容赦なく逮捕するわよ?」

「アハハ…別にしないですよ。ちゃんとこの車は車検に通るように抑えてありますし。…それじゃ」

「ええ。またどこかで」

由紀はインプレッサに乗り込み、ボクサーエンジンの音を響かせながら駐車場を出て行った。



この世に人間がいる限り、犯罪はけっして無くならない。

だが少なくともこのバーチャシティでは、そう言う犯罪を犯す人間を、バーチャコップを含めた警察が取り締まっていてくれる。

…そして、今日もまた、バーチャコップ達は出動する。



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