バーチャコップ小説 Third Stageハードミッション(最終話)


サエリクスから自分のスマートフォンに電話が掛かって来たのだが、ハリドはその電話に

声を潜めつつコンテナの陰から何かの様子を窺いながら出る。何故なら彼の視線の先には

複数の男に暴行されて連れ去られようとしている少女が居るのが見えたからだ。

ハリドは街中を見て回り、適当に地下鉄の駅を降りてみればそこは港に近い場所であった。

別にこの辺りには見るスポットも無いかなと思いつつも港を散策していると、人気の無さそうな

路地裏の奥からその少女の悲鳴が聞こえて来たと言う訳だった。


「サエリクスか? 今はちょっとまずい、後で掛け直す」

『どうした?』

「ちょっとトラブルを見つけてな……子供が誘拐されそうなんだ。警察に

連絡してくれないか? 俺はこのまま様子を窺う事しか出来ない」

『え? それってどう言う……』

「良いから早く頼む。場所は地下鉄の駅を出て少し歩いた所の港のコンテナ

倉庫街だ。俺はこの町……いやそれ以前にこの国の刑事じゃないからよっぽどの

事じゃない限り手出しは出来ない。それじゃあ頼んだぞ」

サエリクスからの返事が返って来る前にハリドは電話を切り、ポケットに仕舞い込んで

再び慎重に様子を窺い始めた。


だがその少女が暴行をされ始めて無理やり連れて行かれそうになったのを視界に

捉えたハリドは、無意識の内にその男達の目の前に姿を現していた。

「止めろ! その女の子を離すんだ!」

ドイツ語訛りが入っている英語で警告を発したが、男達は当然聞く耳を持たずに

ハリドにゆっくりと歩み寄って来る。

(やはりこうなるのか……仕方無い)

小さく溜め息を吐き、向かって来る男達にハリドは身構えた。



その頃、第2分署の入り口前ではイタリア人とフランス人がレイジ、スマーティ、ジャネットに

見送られていた。

「それじゃあ俺達も行くよ。巻き込まれる様な事だけはしない」

「そっちはこっちの警察の出番に任せておくさ」

ジェイノリーはバラリーとアイトエルに連絡を取り、サエリクスと共に港へと向かう。

バーチャコップは特に出動要請が出ていないので待機する事になった。

「ローカルポリスだけの出動要請とか言ってたけど、大丈夫かな?」

「まぁ警察は警察だし、俺等よりは確実にこの街の事を知っているから心配無いだろう。

それよりもハリドが心配だ。俺達も地下鉄で港に急ごう」


再び地下鉄に乗った2人は、ハリドが降りたと予想される駅で降りて地上へと出る。

「えーと、港は向こうかな?」

「コンテナ倉庫だったら大体の場所が限定される筈だ。バラリーとアイトエルもこっちに来るって

言ってたし、先にコンテナ倉庫を探し回ろう」

港のコンテナ倉庫にはすでに警官隊が到着しており、事件は解決しているかに思えていた。

だがそのコンテナ倉庫街で、2人が信じられない光景を目撃する事になろうとはこの時点で

勿論どちらも知る由も無かったのである。


バラリーとアイトエルもサエリクスとジェイノリーが港に到着してから15分後位に合流する事に

成功し、騒がしくなっている港へと入って行く。だが何か様子がおかしい。

その様子のおかしさの原因を近くの警官の1人から聞き出したアイトエルが顔面蒼白で3人の

元へ戻って来た。

「ハリドが、人身売買組織に捕らわれたらしい」

「捕らわれ……って、え?」

「何だって、ハリドが!?」

アイトエルの報告にバラリーとサエリクスから一気に血の気が引く。


「そんな馬鹿な……」

そう呟いたジェイノリーがハリドに電話を掛けてみるが、さっきと違って出てくれない。

「ハリドの奴、自分はこの街の刑事じゃないから手出しはしないって言ってたのに」

「恐らく何かが原因で捕らわれたんだろうな。でも人身売買って……」

「この街でもそう言う事はあるってこったろう。しかしハリドの様子が分からないんじゃ心配だ」

恐らく、ここの何処かに捕らわれているのであろうハリドを探しに行きたいのだがそうは警官隊が

させてくれないだろうと諦めの表情を4人は浮かべる。



そんな中、ハリドは1人、また1人と人身売買組織を倉庫の中で潰していた。

何故かと言えば捕らわれの身になってしまったが、何とか後ろ手に縛られたロープを

足を腕にくぐらせてそこから口を使ってロープを解いて反撃に出ていた。

なるべく1対1に持ち込み、関節技と投げ技を駆使するバトルに持ち込む。それから倉庫の中にある

大きな棚を敵に向かって倒したり、フォークリフトで持ち運ぶパレットを思いっ切り大勢の敵に

投げつけたりして多勢に無勢を何とかひっくり返そうとして行く。

(さっきは油断したが、まだ負けた訳じゃねぇ!!)

そう、さっきは向かって来た男達を関節技と投げ技だけで無く、手足の打撃技でもいなしていたが

4対1では多勢に無勢で負けてしまい、口封じの為に一旦この倉庫に捕らわれてしまった。


しかしそのまま黙っているハリドでは無く、まずは従順にしてずっと黙ってて何とか抜け出すチャンスを

虎視眈々と窺っていたのである。そして縄を抜けてこうして今戦っている訳だが、さっきと違うのは

いなすのでは無く1人1人をきちんと戦闘不能にする為に関節を外したり骨をへし折ったりしているのだ。

たとえば今向かって来た男には右のパンチをかわしてその腕を取り、逆方向に肩の骨をへし折ってから

胸に前蹴りを入れてぶっ飛ばす。

更にプロレス技のドラゴンスクリューからそのまま相手の足首を取って逆方向に折り曲げたりもしたり、

ハイキックをかまして来た相手の足を取って、股関節を限界以上まで開かせてそこで制御不能にさせたりと

なかなかにえぐいテクニックを最大限に駆使して行く。

逆に言えばこうでもしなければ、相手がまた復活して来る可能性があるのでその可能性を出来るだけ

ゼロにしておきたい。


そうして1人、また1人と潰して行き、最後に残ったハリドよりも大柄な男は蹴り技の使い手の様で

下段回し蹴りや上段回し蹴りを駆使してハリドを追い詰める。

が、ハリドはその男が左のハイキックを放って来た所で男の軸足となっている右足を自分の右足で蹴り付ける。

「ぐあ!」

男はそれでもすぐに体勢を立て直したが、今度はハリドから男に向かって膝蹴りをかまし、次に男の右腕を

取ってまたもや肩の骨を男の右腕の下を潜り抜けながらへし折る。

そのまま男の腕を勢いを付けて放し、よろけた男に上手くロックオンして飛び上がり、ジェイノリーにも勝るとも

劣らない720度キックで男の胸に大きな衝撃を与えて倒す事に成功した。



「よ、ようやく休めるぜ……」

「ああ、全くだ。俺達全員またもやこんな展開か」

「ご苦労」

沢山戦った後の事情聴取を終え、ハリドが第2分署のロビーのソファで自販機で

買ったコーヒーを一気に飲み干して溜め息を吐き、一息ついた。

「まさかアメリカまで来てここまで戦うとは思わなかったぜ」

「俺等もそうだ」

「と言っても、2度目だから余り驚かないがな……」

前回のイークヴェスの時の件でも、バーチャシティで戦った経験を5人は思い出す。


「今回はその謎の声とやらの仕業では無かった様だな」

「ああそうだ。でもまだ俺等にはここの旅行の日程が残ってるから、ヨーロッパに無事

帰れるまでは事件に巻き込まれない様に今から願っておくよ」

腕組みをしたレイジにハリドが苦笑いをしながら返す。何だかバーチャシティに来ると

毎回事件に巻き込まれている気がするから、もう2度とこの街に来たくは無いと思ったのは

口に出さない様にしておいたハリドであった。


Third Stageハードミッション(最終話) 


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