協力者

木下 卓真(きのした たくま)





アメリカ・バーチャシティ。



ここでは、毎日犯罪も起きている。それを解決するため日々活動しているバーチャシティ警察。

その中でもバーチャシティ警察第2分署に課がある特別捜査課、略して特捜課。

ここは特に難しい事件や大きな事件が起きた時に活動、協力する普通の人なら2日で音を上げてしまうような厳しい課だ。

そこに属しているのが、署内のトラブルメーカーと呼ばれているマイク・ハーディ、通称レイジと

その相棒でプレイボーイなジミー・クールス、通称スマーティ。

更に犯罪心理学を得意とする女刑事でオペレーターのジャネット・マーシャル、その3人をまとめるフランク・カランザ特捜課主任の4人で構成されている。


そして、今日も事件は起きる。



「重要文化財の護衛か」

「そうだ。この文化財はこのバーチャシティの空港に30分後、やって来る。そこで君たちに護衛をしてもらい、博物館まで無事に運ぶと言うわけだ」

「しかしこの文化財、資料によると随分コンパクトですね?」

「ああ。何でも機密事項と言う事で、私も運ぶ物の事はコンパクトな物だと言う事しかわからんが…。よろしく頼む」


という訳で、今回のミッションは文化財の護衛。

「2人とも、頑張ってね」

「ああ、もちろんさジャネット。期待してくれよ?」

「おいおいスマーティ…」

果たして今回、上手く行くのか?いや、行くまい。




空港へたどり着いた2人は、ジャネットの指示を受けながら護衛開始場所へ向かう。

「もうすぐ文化財が着くわ。しっかりね。その3ブロック先を右折してそこで待機よ」

「「了解」」

バーチャコップ専用のパトカーに乗って、2人は待機する。


そして…。

「あれだな」

レイジの視線の先には、3〜4人ほどの係員に囲まれて運ばれてくる文化財が。

「随分簡素な護衛だな?」

「おそらく、あまりに厳重過ぎるとかえって怪しまれるからね。カモフラージュでしょう」

「そっか。そういう手もあるな」


文化財が2人の目の前にやって来た。レイジとスマーティはパトカーから降り、係員にご挨拶。

「どうも。今回護衛を担当させていただきます、バーチャシティポリス第2分署のマイク・ハーディです」

「同じく第2分署のジミー・クールスです、よろしく」

「ああ、よろしくお願いします。では行きますのでよろしく」

係員はピックアップトラックに乗り、発車。

レイジとスマーティはその後ろから少し間隔を空けて着いていく。余り近づき過ぎるとかえって危険だと、ジャネットから指示が出ているからだ。

「見失うなよ」

「合点だ」


付かず離れず。一定のペースと間隔で着いていく。他の護衛はトラックの前にパトカーが1台。本当に重要文化財なのかと思わざるを得ない。

空港から博物館までは車で約1時間。長いがこれも任務だ。

「何も起こらないといいがな」

「ああ」

2人は気を引き締めた。


一方、その頃。

(あー、ここがバーチャシティかよ)

茶髪とオレンジを半分で分けた髪の色、灰色の瞳が特徴的な男が降り立った。彼の名前は木下 卓真(きのした たくま)。

日本のホストクラブで働いているのだが、今回は休暇を取ってここ、アメリカのバーチャシティまでやってきた。

…までは良いのだが、目的がない。

ぶらり1人旅として選んだのがこのバーチャシティだから。

「さて、まずは港に車を取りに行かなきゃな…」

木下はタクシーを呼び、港に向かった。



(さて、ステージアも受け取ったし適当に街中を廻ってみるか)

という訳で、日本から送った愛車の日産ステージアに乗り込み、バーチャシティの中心を目指す。

彼はまず市街地エリアに行くことにした。




一方、バーチャコップ達は。

(順調だ。このまま何事もなく終わってくれれば一番良いんだが)

心の底からそう思っていたレイジとスマーティ。しかし、上手く行かないのが人生である。

「ん? 工事か?」

「そうだな。迂回だろう」

前方で道路工事。迂回することになったらしい…が!?

「…うおっ!?」


ズタタタターッと、まるで電気ミシンの作動音みたいな音が聞こえて来たかと思うと同時に、前方の護衛をしていたパトカーが爆発して吹っ飛ばされた。

「何だ!?」

腰のガーディアンを2人は引き抜き、パトカーから降りる。

「なんてこった、襲撃だ! 俺は前を見てくる。レイジっ、後ろを頼む!」

スマーティは前に回り込み、レイジは後ろから応援を要請。

「こちらバーチャコップ! 4番アベニューで文化財の輸送車が襲撃を受けた! 至急、応援を要請する!」

本部に無線で要請を頼み、パトカーの陰から周囲の様子を窺う。


すると、パトカー左前方約20mの位置にマシンガンを乱射している奴ら3人を発見し、レイジがスマーティに伝える。

「スマーティ、前だ!」

「よし、わかった!」

スマーティは男3人を発見し、正確な射撃で仕留めた。

一方レイジも右後方に2人M4ショットガンを構えた奴を見つけ、仕留めることに成功。だが…。


「くっ…ダメか」

前方のパトカーは言わずもがな。しかもトラックまでタイヤがパンクしてしまっている。

乗務員はパトカー、トラック共に全員息絶えていた。

「大丈夫!?」

「ああ、何とか」

「くそっ、参ったな。こうなったら俺らだけでこの文化財を運ぶしかなさそうだな」

こうなってしまった以上仕方がない。レイジとスマーティは文化財をパトカーに移し、走り出した。

「俺らで博物館に文化財を運ぶ!応援を頼む!」

「わかったわ!」



ちょうどその頃。

(…? あれは何だ?)

木下は前方で何かが起こっていることに気が付いた。見ると、1台のトラックとパトカーが蜂の巣になっていた。

(うわ、酷いな! 何があったんだ?)

一応警察に連絡しようと、近くの警察署を探そうとした。だが電話しようにも公衆電話が見つからない。

さらに木下には、携帯を含む全ての電話が使えないある理由があるからだ。

(ここじゃ警察署が無いのか。だったら…)

しかしその時、いきなり停まっているステージアの、ナビシートのドアが開け放たれた。

「はっ!?」


木下がそこを見ると、そこにはハンドガンを構えた男が1人。

「おい、車を出せ」

「な、何だよあんた!?」

「いいから、俺の言う通りに運転しろと言ってるんだ!」

こっちは丸腰、相手は銃を持っている。ここで下手に逆らえば撃たれるかもしれない。

木下は素直に従ったほうがいいと感じた。

「わかった! わかったよ!」

「よし、出せ!」

木下はステージアを発車させた。



(ちいっ!こいつら全員この文化財を狙いに来てるのか!)

レイジとスマーティは、パトカーの周りにわらわらと集まって銃撃して来ている、黒いセダンやバンに対して応戦していた。

どうやら最初に襲撃してきた奴らの仲間らしい。

「レイジ! そっちは頼んだぞ!」

「あいよ!」

2人はしっかりと狙いを定め、強奪犯達を1人1人確実にしとめていく。それに伴い1台、また1台と強奪グループの車も減っていく。

「こっち側はもう片づいたぞ!」

「ああ、こっちもOK…いや、待て! 何か来てる!」

レイジの一言で、スマーティは後ろを振り返る。そこにいたのは…?



「よし、あのパトカーに体当たりだ」

「…え? なんだって!?」

「あのパトカーに体当たりしろと言うんだよ!!」

聞き返した木下にかまわず、男は木下の右足を思いっきり踏みつける。

「うぐっ! お、オイちょっと待…!」

ステージアは加速し、フロント部分を思いっきりレイジとスマーティのパトカーのリアにぶつける。


「あーっ!? フロントへこんだだろうが!何すんだよ!」

「うるせぇ! もう一度やれ!」

再度ステージアを加速させ、ぶつける・・つもりが避けられる。

「チッ!仕方ない、横に当てろ!さあ早く!」

今度は男が少しブレーキを踏み、ハンドルを横から動かし強引にぶつける。

「であっ!ミラーがああああ!?」

「いちいちうるさい奴だな!そのまま横に並んだままでいろ!」

逆らったら殺される。仕方ないのでアクセルを調節して横に並ぶ木下。



「うあっ! 当てて来やがったぜ!」

「落ち着け!一旦前に出させて、スピンさせるぞ!」

突然リアにボディを当ててきたステージアに対し、驚きの声を上げ、驚きの表情をする2人。

「東洋人…か?」

「そうだな。東洋系のアメリカ人かもな」


レイジとスマーティはウィンドウから、並んできたステージアのドライバーを覗いた。アメリカではあまり見ない右ハンドルの車。

それがまた、思いっきりボディをパトカーに当ててきた!

「くそっ! 仕方ない、タイヤをパンクさせるぞ!」

「わかった!」

レイジとスマーティも当て返し、一旦2台の間に距離を取る。そしてレイジがガーディアンを握った腕を突き出し、タイヤに向かって狙撃した。



「た…タイヤが! ポテンザは高いんだぞ!」

「くそっ…降りろ!」

木下はステージアを停め、男に引きずり下ろされた。男は木下と引き替えに、文化財を要求するつもりだ。


「おっと、バーチャコップさん達。動くんじゃねえぜ。こいつの命が惜しけりゃ、あんたらが持ってる大事なもの、渡してもらおうか?」

「くっ…」

「お…おい、俺はどうでも良いからこいつを!」

「いや、あんたも助ける。必ずな」

スマーティは木下を落ち着かせ、犯人を説得する。


「いいか? 落ち着けよ。…その人とこれを引き替えに、渡してくれるんだな?」

「ふん、もらう物さえもらえば、こいつに用なんか無い」

「…よし、わかった」

スマーティはパトカーから文化財の入った箱を取り出す。

「これがそうだ。…じゃあ、同時に」

「おっと待った、銃を捨てろ。2人共だ」


(くっ、何も出来ないのか? この男が何を言ってるのかさっぱりわからないが、多分俺とあの箱を交換するのかな)

木下はそう思い始めると、男に対し怒りが沸々とわいてきた。

(どうする…このまま行けばこいつの手に…こんな奴なんかの手に! 俺のステージアをメチャクチャに破壊した、こいつに…!)


レイジとスマーティはガーディアンKを地面に置いた。男はレイジとスマーティの方に銃口を向けている。

じり、じりとスマーティと木下の間隔が狭まっていく。


だが、その時事態は急展開を見せた。

「ちょっと待ったああああああああああああああああ!!」

思いっきり大声を出して、木下は一瞬レイジ、スマーティ、男の気をそらす。

そして次の瞬間、男の銃を木下は裏拳で吹っ飛ばし、立て続けに肘打ちを男の腹にかます。

「ぐひゅっ!?」

怯んだ男に対して上段蹴りをたたき込み、最後は助走からの跳び蹴りでノックアウトした。

「今だ!」

「あ…ああ!」

レイジが倒れる男の手に手錠をはめた時、応援のパトカーのサイレンが聞こえてきてこの事件は無事解決した。


(あ〜あ…俺のステージア、ぐちゃぐちゃのボロボロだよ。フロント思いっきりへこんでるし、側面も、タイヤもパンクしてるし・・)

がっくりとステージアの前でうなだれる木下。

「なぁ…あんた」

レイジが声をかけるが、木下は反応しない。

「だ、大丈夫か?」

よっぽどショックを受けているのか?ステージアの前でがっくりとなりながら木下は涙を拭う。

「痛えな…また板金7万円コースか…」


「な…なぁあんた、ちょっと良いかな?」

木下が呟くと同時に、レイジが彼の肩に手をかけた。だが木下はその瞬間、肩をびくっと震わせた。

「うあっ!? び、ビックリさせるなよ!」

「えっ?」

木下は何故かビックリしている。

「あ…すまん。えっと…事情聴取をしたいんだがな。文化財は他の警官が無事に運んだから、君には俺らと一緒に来て欲しい」

「俺が? …わかりました」


「…それにしても、よっぽどショックだったみたいだな? 何回呼びかけても気が付かなかっただろう?」

しかし、そのレイジの言葉を聞いた木下はしゅん…と表情が暗くなった。

「まぁ、それもある。けど…もっと別の理由があるんだ」

「別の?」



「俺、耳が聞こえないんだ…全く」



レイジとスマーティ、絶句。

「何!?」

「…本当か?」

「ああ。だから後ろや横からいきなり話しかけられても、反応できないんだ。現に今だって、あんた達の唇の動きから、何を言っているのかを読み取っているんだ」


その衝撃発言に、レイジは知らなかったとはいえ悪いことをしたな、と謝罪した。

「…そうか。すまなかった」

「もう気にしてないよ。…ところで、事情聴取だったか? そうと決まれば早く行きたいんだが…」

「よし、じゃあ後ろに乗ってくれ」

木下はレイジとスマーティに連れられ、パトカーの後ろに乗り込んだ。


事情聴取が終わり、木下は特捜課のオフィスでコーヒーをごちそうになっていた。

「そう言えば、まだ私達から自己紹介してなかったわね」

「よし、まずは俺から。…ジミー・クールスだ。愛称はスマーティ。よろしく。それから、この強面なのがマイク・ハーディ。あだ名はレイジな」

「まぁ、よろしく頼む」

「よろしく、レイジ、スマーティ。ところでそちらの方々は…?」


木下は失礼にならないように、ジャネットとカランザ主任を手で指し示す。

「ジャネット・マーシャルよ。あだ名は普通にジャネットね。心理学が得意だから、悩み事とかあったら相談して」

「フランク・カランザだ。特捜課の主任をしている。よろしくな」


「どうも。…あの、俺からも改めて自己紹介をした方が…」

「ああ、できればお願いしたい」

木下は改めて特捜課メンバーに自己紹介。

「はい。…木下卓真って言います。生まれは日本で、そこのクラブの従業員をしてます。後、耳が聞こえませんので、その点はよろしく」

「え?」

「ああ、レイジとスマーティにしか話してなかったっけ。…俺な、24歳の時に耳が聞こえなくなって。それから12年間ずっとこの状態で生活してる。

だからとっさに後から襲いかかられたりすると、対処できないから、常に周りをちらちら見るクセがあるわけでして…」

「そうなの…それは大変ね」


ジャネットが少ししんみりした顔になった。しかし、それに対し木下は明るく返答。

「でも俺、今は唇の動きで何を言ってるのか大体分かるようになったし、英語も特訓したし。未だにRとLの発音の区別があまりできないけど。

耳が聞こえなくたって、目から入ってくる情報もあるわけだし、空手も習って黒帯で、五段持ってるし」

前向きに発言する木下を見て、ジャネットは関心。

「前向きなのね」

「いろいろ悩んでたって、耳が聞こえなくなったのはもう戻せないからな。だったら聞こえないなりに、生きていこうと思っているだけ」


しかし、カランザには1つだけ気になることが。

「…車の運転は大丈夫なのか?」

「もう全然平気。エンジン音とかは振動で大体分かるし、常に周りを気にしてスローペースで走れば何とかなりますから。聴力障害の人も免許を取れるようになったし」


そう言いつつ、木下はコーヒーを口に運ぶ。だが、何かを思い出したようで「…あ」と声を上げた。

「あの、カランザさん、1つ聞いても良いですかね?」

「何だ?」

「俺…逮捕されないんですか?」

「え?」

「いやほら、間接的にも犯罪に荷担しちゃったわけだし、その…」

何だか木下の額に汗が浮いている。しかし、ジャネットは安心の一言を木下に向かって言った。

「あなたは事件に巻き込まれただけ。事情聴取だけで済んだのもそう言うことよ」


「一晩泊まってくか?」

レイジがニヤニヤして木下に問いかけたが、木下はぶんぶんと手を横に振った。

「いやいや、ご遠慮させて頂きます。…といっても車が直るまでは帰れないな。わざわざ日本から持ってきたのに」


あの散々破壊されたステージアは木下の愛車だったらしく、スマーティは事実確認をする。

「あれ、あんたの車なのか?」

「うん。日産のステージア。結構金かかってるから。…あ、車検は通るからね!?」

「そ、そうなのか」

木下の必死な顔に、スマーティはやや引き気味だ。


そんなスマーティを見て、木下は腰を上げた。

「それじゃ、あまりここにいても邪魔になるだけだし、タクシーでも拾ってホテルに帰ります。お世話になりました」

「そうか。…レイジ、スマーティ。パトロールに行くついでに送って差し上げたらどうだ?」

「はい、わかりました」

「いいんですか? 助かります」

カランザの指示で、木下はレイジとスマーティにホテルまで送ってもらえることになった。



「それじゃ、俺はこれで。車は街のショップにでも直してもらえるよう、手配してみるよ」

「ああ、夜道は気をつけろよ!」

木下をホテルで降ろし、こうして今回の事件は幕を閉じた。市民が巻き込まれる、と言うことはあったものの、今回も無事に事件を解決できた。

バーチャコップ達の戦いは、まだまだ続く…。



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