協力者
上原 隆(うえはら たかし)
アメリカ・バーチャシティ。
ここでは、毎日犯罪も起きている。それを解決するため日々活動しているバーチャシティ警察。
その中でもバーチャシティ警察第2分署に課がある特別捜査課、略して特捜課。
ここは特に難しい事件や大きな事件が起きた時に活動、協力する普通の人なら2日で音を上げてしまうような厳しい課だ。
そこに属しているのが、署内のトラブルメーカーと呼ばれているマイク・ハーディ、通称レイジと
その相棒でプレイボーイなジミー・クールス、通称スマーティ。
更に犯罪心理学を得意とする女刑事でオペレーターのジャネット・マーシャル、その3人をまとめるフランク・カランザ特捜課主任の4人で構成されている。
そして、今日も事件は起きる。
「…わかった」
カランザは電話を切ると、レイジとスマーティの方に向き直った。
「囚人が脱獄した。この近くに潜んでいるらしい。パトロールに向かってくれ」
「「了解」」
本署からの連絡によると、郊外の刑務所から3人囚人が脱走したらしい。
そのうちの1人がこの近くに逃げてきたらしく、至急パトロール、発見した場合には逮捕するように特捜課に指示が回ってきた。
「しかし、逃げたって捕まったら、さらにクソ寒い監獄で過ごさないとならないのにな」
「真理だな」
「それじゃ、よろしくね」
今回の任務は囚人の捜索と確保。ありそうでなさそうな任務だ。この事件、簡単に終わりそうな気がする。
一方。バーチャシティの一角では。
(…動かねーなー…)
黄色の日産のフェアレディZの中で、派手な髪の色の男がタバコをふかしている。
この男の名前は上原 隆(うえはら たかし)。
ラリーのオフシーズンだから海外旅行でもするか、とわざわざ車を空輸し、アメリカ・バーチャシティまでやってきた。しかしこの渋滞だ。
(抜け道は…あるのか?)
こっちで購入した、バーチャシティの細かい所まで描かれたロードマップを見る。
(この近くに、大通りに出る路地があるな)
ハンドルを切り、その近くの路地に突っ込み、歩行者や自転車に注意してゆっくり進んで行く。
(よかった、空(す)いてる)
だが、一時停止で停まって再発進しようとした時だった。いきなりZのナビシートのガラスをバンバン誰かが叩いて来る。
「ん?」
振り向くと、そこにはとんでもなく慌てた様子の男が1人。
何事かと窓を開けると、その男はいきなり鍵を開けて乗り込んで来た。
「おいおい、何だあんた?」
「頼む、匿ってくれ!」
「何言って…」
「大通りの適当な所で降ろしてくれればいい! 頼むよ!」
その男の言葉で、隆の顔が変わった。
「…ならちょうどいいか。俺も今そこに行くから」
「ありがとう!ありがとう!」
男を乗せたZ33フェアレディZは、リアタイヤから煙を上げて加速していった。
「囚人に似た男を見つけたとの通報が入ったわ。大通り周辺に潜伏しているらしいとの情報よ」
「了解した」
重要な情報をゲットしたレイジとスマーティの2人。早速大通りに向かう。
「万が一に備えて、銃のセーフティは外しておけよ」
「ああ。追い詰められた奴は何するかわかったもんじゃあないからな」
サイレンは鳴らさず、慎重に囚人を探しにパトカーを走らせて行くのだった。
「あんた何かあったのか? 相当焦っているみたいだが・・」
隆は何か事情がありそうだ、と察して、男に問いかける。
「ああ…まぁ、ちょっとな」
そんな会話をしていると、前からパトカーがやって来た。
すると、男はいきなり前屈みになった。
「どうした?」
「い、いや。何でも無い」
しかし、そのパトカーはいきなりサイレンを鳴らしてUターンしてきた。
「何だ?」
だが、男の顔がそれに反応して変わる。
「クソっ、気づいたか!?」
そう叫ぶと、男は突然ナイフを取りだし隆に突き付けた。
「悪いが、あんたも共犯になってもらうぜ」
「何…!? あ、あんた一体何なんだ?」
「黙ってろ! もうムショに戻る訳にはいかねぇ!こうなったらてめえの運転で逃げ切ってやるぜ!」
今になって隆はようやく、この男が犯罪者だということに気がついた。
(おいおいマジかよ。だがここで下手に逆らったら刺されるかも知れないな。ここは大人しく従って何とか説得を試みるか…)
「見つけたぜ、あの黄色い350Zのナビシートに乗っていたのが見えた!」
スマーティはパトカーに追われている隆のZを発見。鋭い眼差しが、その中にいる囚人の姿を見つけた。
送られてきたデータの顔写真とも一致する。
「そうか、追うぞ!」
レイジはサイレンを鳴らし、パトカーをUターンさせる。
「バーチャコップだ! 今すぐ車を停めて降りてこい! 抵抗するなら発砲するぞ!」
スピーカーからZに向かってスマーティは警告を発するが、全く停まる気配が無い。むしろスピードが上がっている。
「オイ、もっとスピードを上げて振り切れ!」
切羽詰った様子の男に対し、隆は落ち着いて話しかける。
「…なぁ、今戻れば罪軽くてすむんじゃないのか?」
「うるせぇ! 俺は戻るつもりなんてねぇ。さっさと振り切れ!!」
だが、男は錯乱している。
それでもまだ隆は説得を続ける。
「…失礼を承知の上で聞きますが、一体何でまた刑務所に?」
「リストラされた。女房にも逃げられた。それから俺はやけになって強盗を働いたんだけど、パクられてこの有り様だ」
すると、今度は隆が話を切り出した。
「そっか。…実は、俺も昔女房に逃げられた。俺が不甲斐なかったんだ。それでまあ、世の中には良いことなんて無いって思うようになって」
そこで隆は一旦言葉を切る。
「それから10年間、ずっと1人で生きてきて…今こうして車に乗っていると楽しいんだ」
その後を察したように、今度は男から口を開いた。
「それから態度を見直し、今の性格になったって訳か」
「ああ。俺はあんたに…」
「俺はそんな単純な人間じゃない」
男は隆の声を遮り、そう言った。
だが隆は首を横に振る。
「いや、こんな奇麗事で改心させられるなんてこれっぽっちも思ってないからな」
男はその言葉にキョトンとする。
「奇麗事で成り立っている世の中だったら俺が見てみたい。悪いやつが説教1つで良い奴にはほとんどなれないからな。つまり、人それぞれということだ。
このまま逃げると言うならば俺も付き合う。一緒に付き合って逃げ切れるか話は別だがな」
男はその言葉に、少し目を泳がせる。
「あんたみたいな奴初めてだ。いつも型にはめた考えを見てきたからな」
「アメリカは自由の国で、個性が尊重されていると聞くけど?」
「そんな所もあるがな。俺はそんな場面に出会わなかっただけさ」
少し男はしんみりした表情を見せる。
「まあ・・個性ばかり尊重しすぎるのもあれだがな。俺の国、日本ではここ以上に型にはめたがる。今すぐ型にはめる事をやめることは無理だ。
だからといって、型にはまり過ぎるとつまらない」
「…そうだな」
「別に俺は頑張っていくことなんてないと思ってるんだ。情熱なんてクソくらえ!あんたと一緒にムショに行くのも、また面白いと思う。
人生には生きる意味があるから生きられる、とか言うの聞くと、俺虫酸走る。だったら何で俺は生きてるんだ?確かに車に乗っていると楽しいが、
人生に意味なんか無いって、そう思ってる俺は何でこの世に居るんだ?」
「……何でだろうな」
「…で、どうする?逃げ続けるのか、それともここで降りて降伏するのか、あんたが決めることだ。俺はあんたの指示に従う。それだけだ」
「いっこうに停まる気配がないな。ジャネット、発砲するぞ」
「了解よ」
スマーティはパトカーのウィンドウを開け、そこからガーディアンを持った腕を突き出してZのタイヤに狙いを定める。
しかし…。いきなりZがウィンカーを点け、ゆっくり路肩に停車した。
「ん?」
「と、停まった…のか?」
「そうらしいな。行くぞ!」
腰からガーディアンを引き抜きつつ、レイジはパトカーを降りた。そしてドアを盾にしてガーディアンを構える。
スマーティも同じだ。
Zのナビシートのドアが開き、そこから囚人服の男が姿を現した。
それに続いて隆も運転席から降りてくる。
「おーい! 逮捕するなら俺だけにしてくれー!! こいつは何も悪くない! 俺が脅したんだ! 頼むぜー!?」
男は叫びながら、両手を頭の後ろで組んで地面に伏せた。だが伏せる前にポツリと、男は隆にこんな事を呟いた。
「…ひとりぼっちの人生も、楽しんでみるさ」
「…そうか。俺も同じだ」
「…よし、確保だ!」
警官隊が男に駆け寄り、男を確保する。男はすがすがしいような、何かが吹っ切れたような表情で連行されていった。
後で連絡が入り、他の2人の囚人も無事捕まったらしい。
「あんたにも来てもらうぜ。いろいろ聞かなければならないこともあるしな」
「分かった」
「……それでその…俺の自分の思ったことを言ったら、男が降伏した。それだけだ」
特捜課のオフィスでレイジとスマーティに事情聴取を受ける隆。取調室は今いっぱいで使えなかったんだとか。
「つまりあんたは、話術だけであの男を降伏させたのか?」
「話術なんて…俺はただ、自分の今の心境を語っただけ。別にそんな大層なもんじゃない」
「そうか。感謝する」
レイジの言葉を聞き、隆は腕時計を見て呟く。
「…あの、俺もう帰っても良いか?」
「もう良いぜ」
「わかった。…それじゃ」
駐車場へ向かう途中、隆は心の中で今日の出来事を振り返る。
(人生は長いようで短い。そして生きる意味があるからこそ生きられる…そんなわけはない。なぜなら、俺は生きる意味がないと思ってるのに
こうして生きているから。それが俺の考えだ。
むろん、俺の考え全てが間違ってると思われたって良い。俺の考えを人に押しつけることはしない。ただ自分は思ったことを言ってみるだけ。…それだけだ)
隆はZに乗り込み、スキール音を響かせながら発進させた。
完