Trip quest to the fairytale world第9話
妙にムカつく態度の麗筆とか言う若者とハールが戦っている間、アレイレルはとうとう動き出した最後の鹿……
空手みたいな道着を着込んでいる鹿軍団のリーダー格の男(?)が向かって来るのを視界に捉えた。
どうやら鹿のリーダーはアレイレルとやる気らしい。
(さぁ、来てみろ!)
心の中で鹿にそう言うアレイレルだが、それに呼応するかの様に鹿は一気にアレイレルと自分との距離を詰めて来た。
この鹿軍団はその図体に見合わないスピーディーな動きを見せていたが、人間である2人のスピードには
なかなかついて来られていなかった。
それがこの鹿のリーダーと来たら、人間であるアレイレルと変わらない位のスピードで格闘戦を挑んで来る。
「なっ……」
咄嗟にそのリーダーの突進を避けるアレイレルは、突進でかなりスピードが出ている事に気がついて驚いた。
(これはかなりきついかも知れないな!)
突進から方向転換して再度向かって来る鹿。
単純なパワー比べであればアレイレルには非常に分が悪い。
どう考えても見た目だけであれだけ筋骨隆々な上半身を持っているので、押さえ込まれでもしたら終わりだろう。
だったらやっぱりアンバランスな下半身を重点的に狙いたい所だが、さっきの鹿軍団よりも明らかに速い
そのスピードで突っ込まれて来られてはスピードの勢いがアンバランスさを解消してしまう。
ハールはテコンドーで何とか戦っているものの、自分が阿野しか相手にテコンドーやエクストリーム
マーシャルアーツのアクロバティックな動きで戦えと言うのはパワー負けする要因だとアレイレルは分析。
だったら最後のエスクリマに賭けるしか無い。
元々エスクリマはどちらかと言えば攻める為の武術では無く、相手の動きを受け流したり相手の武器を
奪い取ったりして相手の攻撃手段を無くす事に重点を置いた「守り」の武術。
それでも今は「攻める」しか無い。
どんなに劣勢な状況でも冷静な判断力を武器にして一瞬のチャンスを見逃さず、今まで多くのバトルで
勝利を収めて来たのがアレイレル。
自分が攻める立場に回ってもそれは決して変わらない。
(付け入る隙があれば絶対に行くだけだ!!)
鹿が右、左とパンチを繰り出して来るのでそれを屈んで回避し、素早く鹿の首に「鹿の脇の下から」
腕を回して抱きつく体勢に。
こうする事で鹿の腕の動きを封じる。
今度はそこから踏み切ってジャンプし、両足も一緒に鹿の首に絡める。
自分が背中から地面に落ちる体勢になったアレイレルは、ロックしている鹿の腕から先……右手首を自分の左手で
ガッチリ掴んでロックしながら右手で鹿の頭を下に押さえ付け、足も使って鹿の首を思いっ切り絞め上げる。
いわゆる「三角絞め」だ。
ギチギチと音を立てて鹿の首が絞まり、もがき苦しむ鹿だがアレイレルはそれでも容赦する事無く
このまま絞め落とす……筈だったのだが。
「……ぬおっ!?」
何とそこからパワーで鹿に逆転されてしまう。
鹿は上半身の力を振り絞ってアレイレルの身体を一気に持ち上げ、そのまま後ろへと倒れ込む。
「う、うおおおぁああっ!?」
アレイレルは咄嗟にロックを解除しようとするが間に合わず、前方の身体全体から地面にバックドロップを
食らって叩きつけられる。
「ぐへぁ!?」
顔面も強打したもののまだ試合続行可能。鼻血が少し出ているみたいだが気にしたら「負け」だ。
三角絞めから逃れた鹿は、お返しとばかりに地面に膝をついた状態でヘッドロックをかましてアレイレルの
首を絞め上げるが、アレイレルも股関節の柔らかさを活かして足を振り上げて自分の頭の斜め後ろにある
鹿の顔面を3、4、そして5回蹴り付ける。
すると鹿の力が緩んだので素早くアレイレルは脱出し、鹿に向き直るが……。
「うぐぉ!!」
ドゴッと思いっ切り腹に前蹴りを食らい、背中から倒れ込むアレイレル。
それでも上半身より鍛えられていないアンバランスな下半身のおかげで、体格差があっても何とか
意識が飛ぶ程の攻撃では無かったのが幸いした。
そこにジャンプしてアレイレルを踏み潰そうとする鹿だが、咄嗟にアレイレルも横にゴロゴロと転がって回避しつつ立ち上がる。
そんなアレイレルに再び前蹴りを食らわそうとする鹿。
しかし、今度はその手は通用しないとばかりにアレイレルは少し下がってその前蹴りを両手で掴み、
足の関節部分にまたがってその足を掴んだままジャンプ。
地面にそのまま座り込む様な体勢で鹿の足もグイッと一緒に持ち上げれば、片足でバランスを
取るのが難しい鹿の体勢は崩れる。そしてアレイレルの身体が膝の関節部分に乗っかっているので、
重力に従って膝が逆に物凄い音を立ててへし折れた。
「ぎゃはああああああああっ!?」
物凄い絶叫がアレイレルの後ろから聞こえて来て、のた打ち回る鹿。
立ち上がろうとしても片足をへし折られてしまったので立ち上がる事は出来ず、最後の止めとばかりに
アレイレルに鹿は顔面を踏み潰されてノックアウト。
アレイレルと鹿軍団のリーダーのバトルはこうして幕を下ろしたのである。
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