Trip quest to the fairytale world第7話
これは幾ら何でもちょっと無謀過ぎじゃ無いのか?
ヘラジカみたいなこいつ等が一体どうして行く手を塞ぐのか。
と言うかそもそも行く手を塞がれると言う事はそれなりの理由がある訳だし、要するにこの状況になると言う事は
敵認定をされているしこっちもして良いと言う事になる。
それをアレイレルが淡々と冷静な口調で呟くと、ハールも頷いてそれに同意した。
「本音を言えばなるべく戦いたくは無いんだけど、でもこの状況だとこの鹿人間? 達は僕達を
見逃してくれないだろうし……明らかに何か1人だけ貫禄が違うのが居るし。
まさか異世界に来てまで戦うとは思わなかったけどね……」
ハールはそう言いながらグルグルと足首を回し、首をゆっくりと曲げてストレッチ。
この間にも向こうから襲い掛かって来ないだけ、まだ良心的な相手と言えるのだろうか。
「でも、この体格差だけを見るのならかなりきつい戦いになると思うがな」
幾ら1メートル80センチ以上の身長がある2人でも、2メートルだの3メートルだのと言う連中には当然敵わない。
しかも頭に角までついているから、その部分もプラスしてみるともうちょっと高いのかも知れない。
ハールとアレイレルと同じく日本に住んでいて、日本の文化には2人よりも遥かに詳しいグレイルやディールから
教えて貰った事のある、江戸時代の「飛脚」の様にさっきまでカゴを運んでいた2人はこの先もカゴを運ばなければならない。
なので、なるべくならやり過ぎて怪我をしない様にしたい。
「どうするのが得策かな?」
「パワーじゃ負ける。でも上半身と下半身のアンバランスさがウィークポイントだろう。
下半身を重点的に狙って、そして徹底的にやってしまうだけだ。下手に上半身を狙えばパワー負けするどころか
あの身体つきで弾き返されたりするかも知れないし」
冷静なアレイレルの分析と意見にハールも同意する。
「そうだな。テコンドーにはローキックが無いとかって言われるけどそれは試合の中だけの話だし。
頭を狙えればそれが良いんだろうけど……あの角がグッサリ刺さっても嫌だしね」
幅の広い角だけに当たっても痛いだろうし刺さったらもっと痛いだろう。
だけどそれ以前の問題で、明らかなこの身長差の怖さを2人は知っていた。
リーチが10センチ違えばそれだけで大きく不利になる。相手が届く間合いから繰り出される攻撃が
自分では相手に届かないもどかしさと恐怖心と焦り。
……でも、攻撃方法は何もそれだけじゃない。打撃以外の攻撃方法で攻撃すればそれで良いのだ。
「6人相手って言うのもなかなかにきついけど……やるしか無いだろうな」
「うん。1人1人に余り時間は掛けられない。アレイレルのエスクリマ仕込みの関節技は期待するしか無いね」
「自分だけ楽しようとするなよ?」
「分かってるさ……」
2人が鹿連中に駆け出すのを見て、向かって来られた方の鹿達も動き出す。
先にハールがスライディングで先頭の鹿に突っ込み、そのスライディングで足払い。
ハールが起き上がって次の鹿に向かう一方で、今度はアレイレルがその倒れた鹿に馬乗りになって
素早く膝の関節を押さえ込み、逆方向に折り曲げる。
「ぐおおああああああ!!」
物凄い絶叫が響き渡るものの、そんなことはアレイレルには関係無い。むしろ2度と起き上がれない様にしなければ
思わぬ方向から反撃を食らってしまう事もある。
これはエスクリマのマスターから教えられた事だ。
特にこうした集団戦では、相手と比べて自分達の人数が不利なら真っ先に逃げるのが当たり前。
だけど今の状況では後戻りは出来ない為、戦うしか無いのが現状である。
ハールもハールで鹿達に囲まれない様にしながら下段回し蹴り、ローキック、それから相手の大柄な体躯を
踏み台にして別方向の鹿に空中でキックを入れる等アクロバティックな動きも組み合わせて戦う。
完全に効いていない訳では無く、人間相手と比べて若干劣るもののそれなりにダメージ判定はある様なので
割りと攻めの姿勢で立ち向かうハール。
更にドイツ人の刑事であるハリドから教わった、見よう見真似のドラゴンスクリューで足を取って地面に倒してから
鹿の股間をネリチャギと呼ばれる踵落としで潰す。
かなりえぐいシーンであるが、それでもこの状況で囲まれない様に確実に潰す為ならこうするしか無い。
幾ら肉体を鍛えているとは言っても「関節」まではなかなか鍛える事は出来ない。
関節技も実を言えばパワーで抜けられる角度さえ確保出来ればパワーで切り抜けられるのだが、
その前に関節を潰して行くのがやっぱり手っ取り早い。
図体のでかさの割にフットワークは軽めだが、鹿達から見れば小柄なハールとアレイレルにはスピードでは敵わないのも事実。
そうして関節を潰して急所をえぐって鹿達を潰して行ったのだが、ただ1人残っている空手の道義みたいなのを
着込んでいる鹿は何時の間にか居なくなってしまっていた。
恐らくは逃げてしまったのだろう。
「……おい、御前達のリーダーは逃げてしまったみたいだけど……一体何が目的でこんな事をする?」
アレイレルが問い掛けるが鹿達は一言も喋ろうとはしない。
その態度にもう2、3箇所関節をへし折ってやろうかと思ったアレイレルだが、
その時ションダがハールとアレイレルに話し掛けて来た。
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