TC小説3作目
(時代設定は2007年8月くらいです。なのでキャラの設定もそれに合わせてます)
〜登場人物紹介〜
プロローグ:任務開始
今回の舞台はここ、オーストラリア。ここでVSSEは活躍する事になる。そのエージェントとして呼ばれたのはこの2人だった。
「うはーっ、さみいよー!! この極寒の気候!」
「南半球は冬だ。寒いのは当然だろう」
そう、冬である。冬まっただ中。凄く…寒いです。
それはともかくとして、今回2人はとあるホテルにて武器の取引が行われるという情報をキャッチした。
「…ここだな」
2人の目の前には豪華なホテル。しかしRPGで言う魔王城のようでもある。
VSSEのエージェント、ジョルジョ・ブルーノとエヴァン・ベルナールは、ホテルへ向かって歩き出した。
ステージ1:観光客
エリア1
「よし次だ!」
2人はもう敵がいない事を確認し、吹き抜けたホールの階段を駆け上がる。
しかし、そこには敵の姿はなかった。
代わりにやたらめったら発狂している男なら居たが。
「うおおおおおおおおおおお!! やったぞ! 俺は生き延びたァァァァァァァァァ!!」
その様子をポカーンとした顔でみる2人。
だが、男はそんな2人に気が付くと同じくぽかーんとした顔をした。
そしてとっさに踵を返して逃げ出す。
「あ…おいっ!?」
仕方がないので、2人は男を追うことに。吹き抜けたホールの階段を一心不乱に駆け上がって行く3人。
でも上りだというのに2人は引き離されていく。
(あ…あいつ体力あるな! くっ、こうなったら!)
仕方ないので威嚇射撃をして男を止めることに。銃声が響き、男の足元に9ミリ弾が着弾した。
「なっ!?」
「止まれぇ!」
だが男はちらりとこちらを見たかと思うと、すぐさま上へ再び走り出した。
(あ…あの男銃弾が怖くないのか!? ということは、戦闘訓練を受けている可能性が高い。ますます怪しいな)
そう解釈した2人は、見失ってしまってはミッション失敗に繋がると思い、作戦を立てることに。
まずはジョルジョが男の足元目掛け発砲。それにひるんだ所で男がエヴァンが一気に追いつき、飛び掛って取り押さえる。
「お、おいやめろ! 撃たないでくれ!」
「ボスはどこだ! どこに居る!」
しかし、エヴァンの問いかけに男はキョトン、とした目になった。
「はっ? な、何言ってんだ? 俺はただの観光客だ」
「…何?」
だが、その時男が2人の後ろを見て、目を見開いて叫んだ。
「あ、おい後ろ!」
間髪いれずに銃弾が飛んでくる。
「おわ!?」
「隠れろ!」
「クソ、マジあり得ねぇ!」
男は咄嗟に近くの柱の陰へ飛び込んだ。それと同時に2人も別の場所に飛び込んで敵を迎え撃つ!
撃ったら戻るのリズムでテンポ良く敵を倒して行く2人。
だがそんな光景を見た男の目には、怯えの色が見えている。
(何だこれ…俺はこんなもの見に来たんじゃねえ! 助けて…誰か助けて!)
足元はガクガク震えて、目は見開かれている。
(嫌だ…イヤだイヤだイヤダイヤダ、俺こんなのゴメンだ!)
男は逃げ出そうにも足がすくんで動けない。
「よーし、片付けたからもう安心…って、おい、どうした?」
柱の陰でガタガタ震えて小さくなっている男にエヴァンは声をかける。しかしジョルジョは違った。
「…怖いよな、あんた。俺にはわかる」
「え?」
「初めて人が目の前で死ぬ瞬間を見れば、誰だって身体は震えて足がすくむ。そういうものだ」
その言葉に男が口を開いた。
「え…あいつら死んだのかよ!? やだ…そんなのいやだから! マジ助けてくれ! 誰か助けてくれぇ!」
「落ち着け! とにかく今は俺達と一緒に来てほしい。俺らはあんたがここから無事に脱出できるよう手助けする。信じてほしい」
そのジョルジョの言葉に、男はすがるような目で2人を見た。
「ほ、本当かい?」
「ああ、本当さ。俺らは正義の味方だ」
「…いまいち信じがたいけど、今はあんたらを頼るしかなさそうだな」
「よっしゃ、なら立てるか?」
男はゆっくりと立ち上がった。
「必ず生きてここを出たいから…お願いします。えーと…」
「エヴァン・ベルナールだ、よろしくな」
「ジョルジョ・ブルーノだ」
「…中村 直樹(なかむら なおき)です」
男は直樹と名乗った。
「直樹だな」
「はい」
「よし…行くぞ」
さあ、ここから脱出だ。
エリア2
「次は右だ」
ジョルジョに案内されて3人は走る。だがここで牧の意外な事実が。
「ちょ、ちょっと足速いんだけど!」
「えっ?」
なんと、直樹は2人より足が速い。
「な…何かスポーツでもやってたのか?」
「あ…まぁ、一応柔道をな…。後、俺ハイスクール時代は陸上の選手だったんだ」
「へえ、それなら納得」
「ああ。もう少しスピード落とすか」
しかし。その時また銃声が聞こえて来た。直樹はまた近くの物陰に隠れ、2人はハンドガンを構えた。
銃声の主は、ここに来てから戦った奴らとは違う奴。
なんかもやしのようにヒョロヒョロだ。でも油断大敵。
VSSEの2人は、男が手にP90マシンガンを持っているのをしっかり確認した。
「お、おまいら覚悟しやがれってんだ!?」
「変なしゃべり方だな。きちんと話せよ」
「これが漏れの話し方だお! 覚悟するお!」
妙にイライラする。こういう奴に負けると悔しさも倍増なので負ける訳にはいかない。そしてそれを見ていた直樹がボソッと一言。
「油断はできないだろ…常識的に考えて…」
エリア3
「おまいら弱すぎだお!」
…このもやし、異常に強いです本当にありがとうございました。
(な、なんだこの男? 人は見かけによらないということか)
もやしは命中率が異常に高い。ウェズリーにも劣らない位の腕だ。それゆえ近づくスキが無い。
しかし、直樹が男の動きを見ていると、あることに気が付いた。
(あれ? あいつ…ああ)
何かを察知した直樹、周りを見渡して、男の足元に向かってとりあえず側に置いてある木箱を投げつけてみた。
「無駄だお!」
いとも簡単に男は足でガードするが、木箱に男が気をとられているうちに、さっと瞬発力を生かして後ろの柱の陰へ回り込む直樹。
しかもジョルジョとエヴァンに男は気を取られていて気が付かない。
(いい気になるな! あんたの弱点、見切った!)
直樹は慎重に男の隙を窺う。
(…よし、今だ!)
柱の陰から飛び出し、男にスライディングをかけて転倒させる。そして素早くマウントポジションをとり、何回も何回も殴り付けた。
「クソっ、このっ野郎っ! 死ぬほど怖い思いさせやがってぇ!」
ただひたすらに、殴り続けた。目一杯殴り続けた。
「お、おいあんた!やめろ!」
「この野郎! チキショー!」
だが直樹は殴り付けるのを止めない。見かねたジョルジョは強行手段に出た。
「…すまない!」
ジョルジョは直樹の腹にボディブローをかまし、気絶させた。
「うっ・・!」
「う・・あっ…!」
「気が付いたか?」
直樹が目を覚ますと、ジョルジョとエヴァンの顔が目の前にあった。
「はっ…お、俺何を!?」
「あんた、あの男をボコボコに殴り付けていたんだ」
「ああ…そうだったな。何だか怖い思いしすぎて、逆に吹っ切れたみたいだな」
はあ、と直樹は息を吐いた。
「それにしてもビックリだ。あんた、何で足払いをかけたんだ?」
「実は、あの男なんだが余りにも足元がふらついていたんだ。そこで弱点が足だと分かって、そこを突いたって訳だ」
「そうか」
「ところで、ここは?」
周りを見渡せば、太陽の光がまぶしい。
「外に脱出したんだ」
「そうなのか。だったらここらで俺は消えますか」
「そうだな。移動手段はあるのか?」
エヴァンの問いに、直樹はポケットから車のキーを取り出した。
「問題なさそうだな。ここらへんに住んでるのか?」
「いいや。車は空輸してきた。何かとこっちでも車無いと不便だしな」
「そっか。よし、あんたを車まで送って行くぜ」
「助かります」
2人は直樹を近くの駐車場まで連れてきた。
「じゃあ俺らはこれで」
「あ、1つ聞いてもいい?」
「何だ?」
「あんたら一体何者?」
2人は直樹のその問いに顔を見合わせ、エヴァンが答えた。
「…正義の味方、かな?」
「じゃあ俺は、助けられるヒロインって所か。こんな中年の男を助けたって、面白くも何ともないだろうがな」
「ははっ、そうかもな。それじゃあな!」
ジョルジョとエヴァンは直樹を見送ったが、直後にジョルジョが吹き出した。
「ふっ…くく…」
「…んだよオッサン!?」
「いやすまん。正義の味方、か…。うまい切り返しを考えた物だな」
「お、俺だって好きで言った訳じゃねえよ! ほ、ほら笑ってねえで行くぞ!」
「ああ、そうだな」
まだ口元を少し抑えつつ、ジョルジョもエヴァンの後に付いていった。
ステージ2:ザ・ルーク
エリア1
ジョルジョとエヴァンは次の目的地の、ここからすぐ近くにあるクラブへ向かった。
あのもやしが口を割ったのだ。
クラブの中はカップルや、パーティ仲間の客で賑わっている。
「いいな〜、カワイコちゃん連れて来たいぜ! なぁオッサン!」
「確かに…」
オッサンだって人間ですから。
このような場所で本当に何か起こされたらたまったもんではない。
2人は何が何でもあいつらの計画を食い止めるため、客として裏側に潜入する。まずは二手に分かれ捜索。
怪しい場所がないかチェックしていく。
すると、エヴァンがとんでもないものを発見した。
「オッサン、ちょっと来てくれ」
エヴァンに呼ばれて彼の元へ行ってみると、ジョルジョもわずかに目を見開いた。
「見つけたぜ!」
エヴァンは早速飛び込む…前にジョルジョに肩を掴まれた。
「待て待て。さすがに一般人を避難させてからでないとまずいだろう」
「あーはいはい、わかってるって」
(…今絶対わかってなかっただろうな)
小さくジョルジョはため息を吐き、まずは客をどうするか考える。
…と、その時。
「あんたら、やっぱり普通の人間じゃなさそうだな?」
ジョルジョとエヴァンがビックリして振り向くと、そこにはさっき別れたはずの直樹が立っていた。しかも凄く眠そうな顔をしている。
「またあんたか。…あんたこそ何者だ」
懐のハンドガンに手をかけて警戒しつつ、直樹にジョルジョは話しかけた。
「俺? 車好きのただの税理士。いやあんたら、雰囲気でわかる。ただもんじゃないな。それ以前に、こんな裏方に客が入れるのが既に怪しい訳だし」
その直樹の言葉に、今度は逆にエヴァンが問い返した。
「……あんたはただの税理士なのに、何でここにいるんだ? 人のことは言えないだろ」
「酒は車だから飲めないけど、喉乾いたから飲み物飲みに来ただけ。んで、そのトイレの帰りだよ。
明らかにツナギとかここの従業員じゃなさそうなのに、あんたら怪しいよ。しかもさっきちらりといかがわしいもんが見えたし」
「だったら何だ? 俺らを脅迫しているのか?」
エヴァンがギリッと歯ぎしりをして、直樹を睨む。
しかし直樹は首を横に振った。
「俺はあんたらを見つけて興味を持ったから、話しかけただけだ」
「だったら、あんたは危険だから向こうにある電話から警察に連絡してくれ」
エヴァンが提案すると、男は何か納得した顔をした。
「……わかったよ。あんたらに任せる。人払いは任せろ」
そう言い、直樹はクラブのホールの中へ消えて行った。
「エヴァン、そっちは任せた」
「あいよ!」
2人が突入しようとした、その時だった。
何やら店の内部がいきなり騒がしくなった。
(何だ?)
突入するのをやめ、一旦2人はクラブの様子を見に行った。なんと、人が1人もいない!?
「何だこれ…!?」
エヴァン、絶句。ジョルジョもポーカーフェイスを装ってはいるが、口がひきつっている。
「と、とにかく乗り込もうぜ」
「あ、ああ」
エリア2
クラブの中では銃撃戦が繰り広げられている。うまくお互いに背中をカバーして、向かってくる敵を倒して行く。
客や店員が居なくなったのはありがたいが、一体どうして?
そんな疑問が2人の頭の中に残っていた。
(考えられるのは、直樹が何かをしたということか)
確かに直樹が居なくなってから、客や従業員も居なくなった。
(直樹には、事情を聞く必要がありそうだな)
そんなこんなで敵を殲滅し、クラブから出る。すると、直樹は外の電話ボックスに寄りかかって大きな欠伸をしていた。
「お? あんたら。あいつらを懲らしめたのか?」
だが2人はまず、男に事情を聞かなければならない。
「……何をした」
「え?」
「あんたが俺らの前から消えた後、客が逃げ出しただろう。何かしたんだろ?」
すると直樹はとんでも無いことを口にした。
「ああ。電話で狂言作った。ヒッピーのような感じでな。この前ぼったくられた腹いせに、クラブに爆弾を仕掛けた!命が惜しければ逃げろ!・・・・ってな」
「…………」
なんてことをしやがるんだ、と同時に、策士でもあるのか、と思わざるを得ない2人であった。
「でもなぁ…。あいつらを懲らしめたのは良いが、まだ終わりでもなさそうだぞ…ほら、あれ」
「何?」
ジョルジョとエヴァンが直樹の指さした方向を向くと、そこには白いコートにピンクのカッターシャツを着込んだ男が1人。
しかもVSSE2人には見覚えのある顔。
その男は口元を歪ませて、直樹に話しかけた。
「フン、大層な事してくれるじゃないの? お兄さん」
「そいつはどうも…。ところであんた、誰だよ?」
「さぁなぁ。そこのお2人さんとは前に1度、ちらっと目を合わせたことがあるがな」
「あ……!?」
「貴様まさか、あのコロラドの基地で……」
ジョルジョとエヴァンは思い出したようだ。基地で落下していた時、一瞬だけだが目を合わせたことのある金髪の男。
「てめぇ……ワイルド・ファングだろ?」
「ご名答。さて、楽しいゲームの始まりと行くぜ!!」
ジョルジョは直樹にここから逃げるように指示。
「わかった……」
直樹は逃げ出した。そして逃げている最中に1つ疑問が。
(あいつ……一体誰だ?あいつも不思議な感じだった。何だかあの2人と同じくらい、強いって気配がびんびん伝わってきていたな)
そのまま直樹は、駐車場に停めてある自分の車へ向かった。
(でも…何か嫌な予感がする)
エリア3
「ヒャハハハハハ!! どんどん行くぜぇ!」
相変わらずの戦法・・といっても、ジョルジョとエヴァンは戦ったことがないのでこれが初バトルになるわけだが。
ファングの主な攻撃はマシンピストルと物の蹴り飛ばし。
物を蹴り飛ばした後にマシンピストルを撃って来るという戦法で、ジョルジョとエヴァンを苦しめる。
しかもここはクラブ前にある広場。
フィールドが広い分物を避けやすいが、攻撃が当たりにくいというのが裏を返せばある。
(チッ……!)
思わず苛立つエヴァン。熱くなりやすいタイプのため、思うように集中できない。
「エヴァン、落ち着け!」
「ああ、わかってるよ!」
「喋ってる暇あるのか!? おらっ!」
ギリギリでパイプ椅子が頬をかすめていった。
(危ねっ……!)
このままではやばい。奴が物をどんどんけっ飛ばしてくるせいで、隠れる場所もなくなってきている。
短期決着を決めるために、ジョルジョとエヴァンは2方向から挟み撃ちにしようと考えた……その時だった。
どこからかタイヤの鳴る音……スキール音が聞こえてくる。
(何だ?)
エヴァンとファングは集中していて気が付いていないようだが、ジョルジョにだけは聞こえていた。
すると次の瞬間、ファングの後ろから車のヘッドライトが。その車はドリフトをしながらファングに向けて突っ込む。
「はっ……おわっ!?」
あまりに突然のことで避けたは良いが、それによって大きな隙ができたファング。ジョルジョとエヴァンに銃弾を撃ち込まれる。
「ぐ……!」
更にその車から降りてきたのは、何と直樹。
彼は倒れ込んでいくファングのネクタイを引っ掴んで無理矢理引っ張り上げ、胸ぐらをつかみあげたかと思うとものすごい勢いで一本背負いをかました。
投げ飛ばされたファングはそのまま、クラブの横にあるごみ箱にホールインワンしていった。
「よし、まだ腕は鈍っていなかったようだな。何だか嫌な予感がして戻ってきて見たんだ」
いきなりの直樹の行動に、ジョルジョもエヴァンも驚きを隠せない。
「何度も聞くが…あ…あんた一体何者なんだ?」
「俺は今はしがない東洋の税理士だ。それ以外の何者でもない。久しぶりに熱くなったな。それじゃ」
去っていこうとする税理士。
しかし彼の肩をジョルジョがつかんだ。
「……何だ?」
「すまないが1つ頼みがある。俺らをここからすぐ近くにある……このホテルに送っていって欲しい」
そう言いつつ、ジョルジョは地図を取り出して指を指した。
「俺運転手じゃないんだけど……まぁ、良いか。俺の泊まっているホテルだ。ついでだな」
「わーい、ついでついでー!」
エヴァンは子供の様に嬉しそうな表情をするが、そのエヴァンを直樹とジョルジョは冷ややかな目で見ていたのは言うまでも無い。
ステージ3:決着
エリア1
ジョルジョとエヴァンは直樹の車、銀のトヨタ・マークKに乗ってホテルを目指す。
「俺はあんたらが何者なのかは俺は知らない。でも聞くつもりもない」
「ああ、そうしてくれ」
と、ここで直樹があることに気が付く。
「あ……すまないけど、ガソリン入れていっても良いか?」
「構わないが、急いでくれ」
「わかった」
そしてエヴァンが不満の混じった声で、直樹に質問。
「…リアシートがないのはどうしてだ?ケツが痛くてしょうがないんだが…」
実は直樹のマークK、リアシートがない。
「普通の車なのに、何で取ったんだ?」
「いや、普通じゃない。俺は車が好きで、名古屋ってところにあるサーキットで腕を磨いている。車の改造のためにはリアシートも外す。
自転車と同じだ。重い鞄を背負って走るのと、何も無しで走るのと、どっちがスピードをいかに上げられるか。
すまないな、快適性を犠牲にしてでも俺は、そこに楽しみを感じている」
ジョルジョが納得したように頷くが、ドアの横についている金属製の棒に今度は目が行った。
「そうなのか……でも、この棒は何だ?」
車内に鳥かごのように張り巡らされている棒を見る。
「……スタンドに着いたらその時に話すよ。ほら、もう着くからさ」
そう言い、前を向いてスタンドにマークKを入れる直樹。
「セルフサービスか……。入れながら話すよ」
エンジンを切ってマークKから降り、ガソリンを入れ始める。
「……この棒はロールバーと言って、車が横転した時やぶつかった時などに、車体が内側にへこむのを極力軽減してくれる鉄パイプ。
これのおかげでドライバーは命を守られているんだ。普通に走る分には必要ないが、俺らみたいに300キロも出すとなると結構な…」
「……そうか。もういい……」
もはや話が飛躍しすぎている。
300キロ? もう少し行けばTGVに追いつけるじゃないか、とエヴァンは心の中で思った。
「もうエンジンだけでも、約500万くらいつぎ込んでるよ」
「金持ちだな……」
「違うよ、ローンだよ。この車全部にかかった費用合わせたら、1500万くらいかかってると思うぞ」
だんだん頭痛がしてきたジョルジョ。
「……そうなのか」
エリア2
ガソリンも入れ終わり、マークKはスタンドを出てホテルへ向かう。そのマークKのフロントガラスには「D3」という文字が。
「……D3とは、何だ?」
ふと思ったことをジョルジョは口にしてみる。
「ああ、俺、名古屋の高速道路が政府によってサーキットとして再利用されることになって、そこで記録を持ってるんだ。サーキットのレコードホルダーって訳。
でも俺よりさらに速いのが2人いて、その2人と俺を合わせて「D3」…三龍皇と呼ばれている。そう言うもんだ」
更に直樹は続ける。
「ここに来たのだって旅行だし、そこであんたらに偶然会っただけのこと。多分あんたらは名前からして欧州辺りの人だとは思うけど、そこに行くような機会もないし。
物語で言うところの巻き込まれ系って奴だ。……俺ももう、こんなことはゴメンだ」
そう言う会話をしていると、マークKはホテルにたどり着いていた。
「結構あんたらと一緒に居て、充実してたよ。良い思い出も悪い思い出もあった。それじゃ……」
直樹はマークKで走り去っていった。
「よしオッサン、行くぜ!」
「…ああ」
エリア3
ホテルに乗り込んだ2人は、あのクラブにいた奴らの1人から聞き出した情報を頼りに最上階のスイートルームへ。
扉を開け放ちハンドガンを構える。
そこにいたのは50代くらいの白髪が生えた中年の男。手にはアタッシュケース。
「おい、それを下に置いて両手をあげろ!」
するとその男…ボスは素直にアタッシュケースを下に置き、両手をあげる。しかしその手にはいかにも怪しそうなリモコンが。
「悪いがな、このまま終わるわけにはいかない!」
ボスがリモコンのスイッチを押すと、アタッシュケースから異音が。
「くそっ!何をしやがった!?」
「はははっ!このホテルのどこかに爆弾を仕掛けてある。そこには今回の事件の鍵になる証拠も一緒にな。爆発と同時に全て吹っ飛ぶ。
そして俺は逃げる、完璧な計算うぐおあっ!?」
「それはできないことだ」
ジョルジョが、ボスが言葉を言い終わる前に、彼の足を撃ち抜いた。
「くあっ……だが爆弾は、直にストップボタンを押さなければ解除はできないぞ?」
「ヤロォ!」
そのままボスは気絶してしまった。
近寄って爆弾のありかを聞き出そうとするにも、気絶しているので目を覚まさない。
「くそっ! 探すぞオッサン!」
しかしジョルジョは何かを考え込む。
「……」
「おい、オッサン!」
ジョルジョは弾かれたようにそばのアタッシュケースを開ける。
そこには・・!
「あ!」
「やはり。異音がした時から怪しいとは思ったがな。これが爆弾だ」
ジョルジョは普通に停止ボタンを押して、爆弾を解除した。
「何だよ……うろたえた俺がバカだったぜ」
そんなことを呟いたエヴァンを、ジョルジョは驚いたような感じで見る。
「エヴァン……?」
「な、何だよオッサン?」
「…成長したな」
「ば……バカにすんなバッキャローッ!!」
こうして今回の事件は幕を下ろした。報告書を書き、ケースとボスの身柄をVSSEに引き渡す。
あの中村直樹が今どこで何をしているのかは、2人は知るよしもない。
完