コラボTC小説第2弾
(登場人物の年齢は2007年11月時点でのもの)
〜登場人物紹介〜
プロローグ 〜いざオーストラリアへ〜
東京都江戸川区のとあるマンションにて。
休日をのんびり過ごしていた里中香織の元に、1本の電話がかかってきた。
「…もしもし〜? 私よ私」
「…誰?」
香織はその声に、警戒心を含んだ声で聞き返す。
「やだなぁ〜。この声聞けばわかるじゃないのよ?」
「…今話題の『わたしわたし詐欺?』」
その言葉に、電話の向こうで呆れた声が聞こえた。
「…そんなことを考えつくあんたの方が凄い。美香よ、み・か!」
「…ああ、なんだあんたか。どうしたの?」
「実はね、商店街の福引きでオーストラリア旅行が当たって。ペアだから周りの人達誘ったんだけど…」
その言葉の続きは、容易に香織に想像できた。
「で、誰もいなくてめくるめくで私のところにまわってきた訳ね?」
「そうそう。で、やっと私モデルの休みが取れて…よかったら一緒に行かないかなって思って」
「日程は?」
「うん、来週の土日。珍しくその2日、休み取れたから。だからどうかな?」
「うん、いいよ…」
「本当!? やったーっ! じゃ、羽田空港に土曜日の朝10時集合ね! それじゃ!」
「はーい」
そして、旅行当日。美香の家。
今日の美香はとても目覚めが良く、気分が良かった。
「うーん…いい朝。もう10時かぁ。……って、10時!? きゃーっ!!」
急いで旅行用の大きなスポーツバッグを持ち、とんでもなく寝坊した美香は空港に向かった。
その頃、空港で1人香織は時計を見ながらイライラしていた。
(…遅い。メールしても返事帰ってこないし。なにやってんだろ・・)
時計は既に10時45分。
その時、美香が栗色の髪をなびかせ、ハアハアと息を切らしながら走ってきた。
「ご、ごめん! 寝過ごした…」
「……」
香織の背中には怒りのオーラが見える。美香は手を体の前で合わせて謝罪。
「ごめん。本当に…」
「ハァ、もういいわ…行きましょ。飛行機に案内してよ」
「う…うん」
2人はオーストラリア行きの便に乗り込み、オーストラリアへと出発した。
ステージ1 〜なぜ?なぜ?なぜ?〜
エリア1
美香と香織がオーストラリア行きの便に乗っているあいだ、オーストラリアのあるところでは物凄い銃撃戦が展開されていた。
「お前らなんかにやられるかよ!」
アランは物陰に飛び込み、マガジンを交換してまた飛び出す。
ウェズリーも冷静に敵の撃ってくる位置を見極め、そこにしっかりと撃ち込んでいく。
「よし、次行くぞウェズリー!」
一瞬攻撃が止んだ瞬間を見計らって、次の攻撃ポイントへダッシュ。ここでは背中合わせになりつつ、敵を迎撃していく。
(……数は少ないが、撃ってくる勢いが凄いな。アランは苦戦しているだろうな)
しかしそれでもアランもウェズリーもお互いに背中を預けているだけに、この2人のコンビネーションは抜群だ。
「…行くぞ、アラン」
2人はまた、次の物陰へとダッシュしていった。
エリア2
美香と香織は翌日、オーストラリアに降り立った。
「あ、香織、英語勉強してきた?」
「うん。日常会話程度ならバッチリよ」
「じゃあ心配ないわね。ホテルに向かいましょ」
タクシーを探す2人…だが、タクシーが見つからない。
「変ね…タクシーすらいないなんて」
「美香の言う通りね。旅行シーズンって感じでもないんだけど……」
その時、その様子を見ていた1人の男が2人に近寄ってきた。
東洋人の眼鏡をかけた男で、日本語で話しかけてきた。多分日本人だろう。
「あの…よかったら送っていきましょうか?」
「えっ?」
香織はその提案に驚く。
「大丈夫です。別に怪しい者ではないです」
「いいんですか!?」
美香は見知らぬ他人ということもあって少し警戒心があったが、護身用にナイフを持っていることを思い出して、安心感がやってきたのか興奮気味だ。
「はい。どうせ街に向かう予定だったんで。よかったら送っていきますよ」
「…それじゃあ、お願いします」
香織はその提案に乗り、男の車である日産・180SX(ワンエイティ)に乗り込んだ。
「あっ…そうだ、まだ自己紹介してませんでしたよね。岸っていいます。岸 泰紀(きし やすのり)です」
「は、はあ。どうも」
「旅行ですか? やっぱり…」
「あ、はい」
「最近この辺は治安が悪いって話を聞きましてね…気をつけてくださいね。3日前にこっちに来てから知った情報なんですよ」
「そうなんですか?」
少し美香の顔に不安がよぎる。
「ええ。だから夜出歩くのは、やばいかもしれないですね・・」
「そうですか・・わかりました」
2人は何だか嫌な予感がしていた。
「それじゃこれで。よい旅を」
そう言って、岸の180SXは去っていった。もう日が落ちかけている。それを見て最初の行動を提案したのは美香だった。
「さ、荷物置いて、何処かにご飯でも食べに行きましょうよ」
「でも、あの人は夜出歩くのは危険だって…」
「大丈夫よ! 護身用にナイフだって見つからないように沢山持ってきたんだから!」
「な…何故…?」
「そんなことは気にしないで! じゃ、チェックインしましょうよ」
(すっごく気にする…ってか、あんた、ナイフ沢山持ってる時点でもはや危ない人でしょうよ)
香織は心の中で突っ込みを入れ、美香と共にチェックインした。
「で、パンフレットに書いてあったんだけど…ここの羊の肉のステーキがすっごくおいしいんだって!」
パンフレットを見ながら話す美香は、ホテルを出て街を歩き、今は香織と共に1軒のレストランの前に立っていた。
「へえーっ…」
店に入り、その評判のステーキを注文。そして約15分後、そのステーキが出てきた。
塩こしょうで軽く味付けした肉に特製のソースをかけ、食べると言うもの。
2人が案内されたのは2階にあるテラス席。眺めもいいし、ここから食べる料理は最高だろう。
2人はナプキンを膝の上に置き、ナイフとフォークを持つ。
「それじゃ…」
「いただきまー……」
だが、その時2人を悪夢が襲った。
まるで電気ミシンのような音が聞こえてきたかと思うと、2人の目の前のステーキが吹っ飛ばされた。
「…あれっ?」
「な、何…?」
その正体はすぐに判明する。突然、下の大通りで銃撃戦が始まったからだった。
「銃撃戦!? な、何で!?」
美香が下を見て興奮気味に叫ぶ。
「やっぱり治安が悪いのかしらね…って、そんなこと言ってる場合じゃないわ! 隠れましょう!」
落ち着いている場合じゃない、と香織も判断し、2人は店の中に逃げ込み何があったのかを店員に問いただす。
「わ、私どももさっぱり…」
「ああもういいわよ! ねえ、何とかしてよ!」
「そ…それでしたら、裏口…」
「そう、わかったわ! 香織、行きましょ!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
美香は香織の手を引っ張り、強引に裏口から外に出た。
「あっ…行っちゃった。裏口じゃない方の出口が、今のうちなら安全って言おうとしたのに……」
エリア3
「こっちは制圧した」
「こっちもいいぜ!」
アランとウェズリーは大通りで銃撃戦を繰り広げていた。この大通りの先にある大きなホテルで、今回2人が阻止する取引が行われるというのだ。
そこに行こうと大通りを歩いていたら……案の定。
少しずつだが確実にホテルへ突き進んでいく2人。
するとその時、このエリアのボスと思われる男が現れた。
「VSSEか。よくここまで来れたものだ。…だが、この先に行くことはないぞ?何故なら、お前らはここでくたばるからだ!」
「はっ、くたばるのはあんたの方だぜ」
男と2人の間に、張りつめた空気が流れる。
……が、そんな緊張ムードをぶちこわしにするような会話が聞こえてきた。
「だから、私食べ盛りなんだって! 新陳代謝なんて運動選手並みなのよ!?」
「運動選手並みかどうかはおいといて、料理が食べられなかったのは確かに悲しいわね」
「な…何だ?」
ウェズリーはその会話に冷静さを保ちつつ、思わず呟いた。声は近くの路地裏から聞こえてくる。
そして、その主達はすぐに現れた。2人の女性だ。
1人は栗色の髪に大きな目の、革ジャンの女性。もう1人はプラチナブロンドの髪に青いシャツの女性。
「……あれ? はぁ!? 全然安全じゃないじゃない! あの店員…だましたわね! ちくしょおおおおーーっ!!」
これは最後まで、人の話を聞かずに駆け出した美香が悪いだろう。
「何だ、お前ら?」
「可愛いな…じゃなくて!」
「危険だ、離れろ!」
アランとウェズリーは2人に向かって警告を発する。だが反応は……。
「なんか危険じゃないの? これって」
「それより早くご飯食べに行こうよ〜! 私お腹空いたの!」
目の前の様子を見ながら冷静に呟く香織、そしてなんとも緊張感の無いセリフを吐き出す美香。
「くっ…ナメやがって!先にお前らからカタ付けてやる!」
そんな緊張感の無いセリフに激昂した男が取り出したものは手榴弾。男はピンを引き抜き、2人の女性に向かって投げつけた。
(まずい!)
アランとウェズリーは銃を構えるが、そんな2人は次の瞬間驚くべきものを見る。
「…るさいわね」
青シャツの女性がそんなことをぼそっと呟いたかと思うと、突然男の身体が吹っ飛んだ。
「ぐはっ!?」
「ついでにこれも!それっ!」
そういって今度は、革ジャンの女性が手榴弾を吹っ飛んでいく男に向かって投げつけた。
そして次の瞬間大きな爆発音がしたかと思うと、男の身体はチリとなって消えてしまった。
ステージ2 〜協力?〜
エリア1
「なんか食べようよ〜。お腹ペコペコで花園が見えてきそう…」
「つまりそれは、死にそうってこと?」
「そうよ。だから早く…」
その時、さっき男とにらみ合っていた2人の内の、茶髪の若いグラサン男が2人に話しかけた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「はい?」
すると、次に金髪の男が口を開いた。
「君らは一体、何者だ?」
「私達? 別に。ただの旅行者よ。この銃撃戦のおかげでご飯食べられないまま、店から逃げてきたの」
「それじゃ、またね」
そういって2人は、一旦ホテルに戻ることにした。ホテルのレストランで、何か食べるために。
ホテルに戻った2人は、1階のレストランへ。店員に案内され、隅の窓側の席ではあるが座ることができた。
「は〜…やっと料理にありつけるわ〜」
「全くね」
店員に料理を注文し、待つこと数分。ほかほかの料理が出てきた。
頼んだものはミートパイ、オレンジジュース、フィッシュ&チップスに、シーフード(海鮮料理)だ。
「ん〜、いい匂い」
「料理はこうでなくちゃね。やっぱり。じゃ、食べましょう」
しかし、悪いことは重なるものである。
ナイフとフォークを手に取った瞬間、外から凄い音が聞こえてきた。
「えっ…?」
その凄い音の主は窓ガラスを突き破って、2人のテーブルを粉々に破壊した。
当然、料理も…。
エリア2
「ひょーっ、すっげーな!」
自分のキックで吹っ飛ばした男が、近くのレストランの窓ガラスを突き破ったのを見たアランは、思わずそう呟いた。
「感心してる場合じゃないぞ、アラン」
「へーへー、わかってますよ」
さっさと敵を片づけ、ホテルに突入しようとした…その時だった。
巻き舌気味の雄叫びが聞こえてきたのは。
「ごぉぉぉぉぉぉるぅぅぅぅぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「は? …ぶごぐぁ!?」
「どりゃっ!!」
いきなり繰り出された跳び蹴りをもろに食らって、吹っ飛んでしまったアラン。
「あ、アラン!?」
「な…何故だ…」
「あれ…? ま、またあなた達!?」
ふと声のする方を見ると、そこにはさっき出会った内の1人、革ジャンの女性が立っていた。
「君は…」
「どうでもいいけど料理、どうしてくれるのよ!?また食べ損なったじゃない!」
「話は後だ! 隠れろ!」
女の言葉を華麗にスルーし、ウェズリーは叫んだ。
「え?」
またもや武器を手に、奴らが向かってくる。そんな奴らを冷静に、そして大胆に2人は打ちのめした。
「なんか、映画のワンシーンみたいね」
青シャツの女性が街路樹の陰に隠れながら呟いた。
だが、革ジャンの女性は口調が変化していた。
「もう……ゆるさねぇ…」
彼女が次の瞬間、いきなり腰に手を突っ込んだ…かと思うと、何とそこからナイフが現れた。
しかも3本。それを指の間に1本ずつ挟み込み、構える。
「喰らえ!」
街路樹から道路を挟んで反対の街路樹まで移動する間に、精一杯のジャンプから思いっきりナイフを投げ、転がりながら街路樹の陰へ隠れる。
それは狙い狂わず、アランとウェズリーが相手にしている男達に突き刺さった。
エリア3
突然後ろから飛んできた3本のナイフが、男達を倒す。
「な!?」
「え?」
アランとウェズリーの2人が後ろを振り向くと、さっきの革ジャンの女性が何とナイフを投げてきている!
「おらおらおらーっ! 食い物の恨みは恐ろしいわよ!!」
目にもとまらぬナイフさばきで、次々に男達が倒れていく。それにあっけにとられるアランとウェズリー。
だが攻撃の手を休めている暇はない。ホテルに突入するために2人は突き進んでいく。
そして、やっとの思いで入り口まで来た2人。しかしそこに、大柄な茶髪の男が立ちふさがった。
こいつがここの番人…もとい、ボスだ。
「計画はつぶさせはしないぜ。ああ?VSSEさんよ!」
「貴様らのせいで、悲しむ人々が居るのがわからないのか?」
「はっ! そんな寝言は、寝ているときに言うもんだ!」
そう言うと、男は側にある大きな脚立を持ち上げ投げつけてきた。2人もとっさに避ける。
それを見てアランは苦々しく舌打ちをし、心の中で率直な感想を述べる。
(こいつ、かなりの馬鹿力だ!)
その後も埋まっている植木や飾り物の銅像などを投げつけてくる。それも、攻撃のチャンスが見あたらないほど素早く、だ。
…と、それを見ていた青シャツの女性が行動を起こした。
それを見たウェズリーは女性を制止する。
「下がってろ! 危険だ」
「いいのよ。こういうバカには、ちょっとわからせないとね」
「何だ? お前みたいな女には用はないんだ。さっさと消えぶごわっ!?」
言い終わらないうちに、女性が繰り出した右の鉄拳が頬に叩き込まれた。
しかも、凄まじい威力だ。
「教えてあげましょうか?」
今度はミドルキックを腹に食らわせた。
「ぐえっ!?」
「私は…」
そして足払いをかけ、男のバランスを崩す女性。
「おごっ!」
「これでもハイスクール時代…」
崩れかけた男の頭に、とどめのかかと落としを食らわせた。
「がっ…!」
「空手部の主将だったのよ!」
そんな青シャツの女性の言葉は耳に入らぬまま、茶髪の男はあっさりKOされてしまったのだった。
ステージ3 〜最終決戦〜
エリア1
茶髪の男をあっさりノックアウトさせた香織。
「あんたそういえば、都大会で優勝した経験もあったわよね。某探偵マンガのあの人みたいに」
「まあね。それより本当…お腹空いた」
すると、2人に茶髪のグラサン男が話しかけてきた。
「あのさ、この戦いが終わったら・・何処かでメシでも一緒に、どうかな?」
「はい?」
「いやその…ほら、食事の邪魔しちゃった訳だし。だから」
「おいおい、俺らは任務終了後、すぐ本部に戻らなきゃいけないんだぞ?」
しかし金髪男の言葉を無視し、茶髪の男は続ける。
「大丈夫だ。俺らは…」
「・・・アラン、その事は・・」
「ああ、そうだったな。……俺らは私服の刑事だ。だからこの先のことは、俺らに全て任せてくれ」
「刑事さん?へえーっ…」
「だったら銃を持ってるのも納得ね。わかった。じゃ後は全て任せるわ。行きましょ!」
刑事と名乗った2人に別れを告げ、美香と香織はエレベーターで最上階の12階にある部屋へと戻った。
エリア2
「ふう、何とかごまかせたな」
「ヒヤヒヤさせるんじゃない、全く」
2人は女性達に別れを告げ、アランはウェズリーに咎められつつ、最上階まで直通のエレベーターに乗っていた。
「わりぃわりぃ。で、ウェズリー博士はどっちがタイプだ?」
「…は?」
「俺はやっぱ革ジャンの娘かな。目もぱっちりしてて結構タイプなんだよなー俺」
最終決戦に向かうというのに、このアランのボケっぷりには、もはや呆れるしかないウェズリーだった。
12階についたエレベーターを降り、主犯がいる部屋へと向かう。倒した奴の1人から聞き出したところによれば、そいつは
普通の部屋から離れたところにあるスイートルームにいるらしい。
オートマチックの銃口を構えつつ、2人はスイートルームに向かって突き進んでいった。
「よし、行くぜ!」
スイートルームの扉を蹴り開けた2人が目にしたのは、主犯格の男の姿だった。
「観念しろ。貴様の悪事はここで終わりだ」
主犯はその言葉にヘナヘナと、床に膝をついてうなだれたのだった。あまりにも、あっけなさ過ぎる終わり方だった…と思いきや。
「…そんな訳あるか? 俺は確かに主犯だが、俺を捕まえただけでは終わりではないぜ?」
その言葉にウェズリーは思わず驚きの声を上げる。
「まさか!?」
「近頃は一般人のネズミまでも、俺らの邪魔をするようになってな。「奴ら」がそいつらのところに行ったぞ?」
「てめぇ…」
「そして、ここでお前らもくたばれ! 俺の計画は終わりだが、お前らも終わりだ!」
主犯は次の瞬間、何とタイマー付きの爆弾を取り出した。
(な…!?)
「逃げろウェズリー! 後10秒しかねえ!」
「こんな時のために用意しておいた短いタイマーの爆弾が、こんなところで役に立つとはな! はーははっははは!」
狂ったように笑う主犯の腕の中で、爆弾がうなりを上げた。
エリア3
「ごめんね。満足に食事もさせてあげられなくて」
「別にいいのよ。あなたのせいじゃないし」
実際は1割…いや3割ほど美香のせいだが。
2人は一旦2階でおり、そこにある売店で買ったオーストラリアで人気のチョコレートビスケット、ティムタムをほおばっていた。
「さ、腹ごしらえもすんだし。明日に備えて早く寝ましょ」
「そうね。あ…でもちょっと待って。さっき来るとき、屋上につながる階段を見つけたんだけど、行ってみない?」
「屋上に? でもまずくない?」
「平気よ。柵とかついているだろうし、窓から見るより眺めは最高かもね」
という訳で2人は屋上へと出向いた。
「うわーっ、綺麗〜!」
屋上は周りを落下防止用の柵が囲み、空調機やボイラーが並んでいる。そこからは、オーストラリアのライトアップされた街並みが見える。
「本当ね」
髪をなびかせつつ、柵に寄りかかって夜景を見ている2人。
しかし、そんな夜景に似合わないガトリングの銃撃音が聞こえてきたのは、すぐのことだった。
「きゃっ!?」
「何!?」
振り返ってみると、そこにはコートを着込んだサングラスの老人の姿。
そしてその隣には、これまたサングラスをかけた寿司柄ネクタイの男が立っていた。
「貴様らか。俺の計画をつぶしてくれたのは」
「誰? あんた・・」
美香は警戒しつつ男たちに問う。
「ワイルド・ドッグとでも言えばいいか?」
「じゃあ、そいつは?」
今度は香織が寿司柄のネクタイをつけた男を指差して質問。
「そいつって…まぁ、いい。俺はワイルド・ファングだ。さっきあんたらが倒してくれた茶髪の男の、仲間だ!」
ファングと名乗った男が、凄まじい速さの跳び蹴りを食らわせようとしてきた。
何とか間一髪でそれを避ける2人。
「あ、危ないじゃない!」
「こっちも危ないがな。喰らえ!」
ドッグと名乗った男と、ファングと名乗った男はコートを脱ぎ捨て、ガトリング砲と蹴りをぶっ放してくる。
「何だかよくわからないけど、とても危険みたいね!」
「そうね。こいつらが全ての元凶らしいわ。料理を潰し、夜景の鑑賞を邪魔した分…礼はきっちりさせてもらわないとね、美香!」
「ええ。行くわよ、香織!」
「じゃあ私はあの寿司柄を殺るから、美香はあのガトリング男、お願いね!」
手をパチンと合わせ、2人は二手に分かれた。
まずは美香vsドッグの戦いから。
うまく地形を利用し、さっきの男達から抜いてきたナイフ、そしてまだ持っていた有り余る数のナイフを投げてガトリングに対抗する美香。
隠れては投げ、隠れては投げを繰り返し、なかなかいい勝負を繰り広げている。
ボイラーの陰に隠れつつ、モーゼルとガトリング、火炎放射を使ってドッグも対抗する。
「じじいの割には、素早いわね!」
火炎放射の熱気を感じつつ、ナイフを構える。…が、このままでは埒が明かない。
そう思った美香は、ここで一発勝負の賭に出た。
両方の手にそれぞれ4本ずつナイフを構えながら飛び出す美香。当然ドッグも追う。
が、それこそが美香の狙いだった。
「はあっ!」
叫び声と共に、8本のナイフを一気にドッグに投げつける。
ドッグは難なくかわしたが、美香の姿を見失ってしまった。
(ど、どこへ行った!?)
こういうとき、注意がおろそかになりやすいのが頭上だ。美香はドッグの背後に回り込み、そこにある空調機の上に立っていた。
ドッグが後ろを振り向いた瞬間…全ては決まった。
「くたばれ!」
渾身の跳び蹴りを、ドッグに向かってかます美香。
「ぐおっ!!」
ドッグはボイラーに思いっきり全身を打ち付けてしまった。そして、例のスイッチを取り出す。
「ふふふ…お前のこと、覚えておくぞ…!」
美香は本能的に危険を察知し、ドッグから離れる。そしてドッグの身体は、爆発に包まれたのだった。
(終わった…)
続いて香織vsファング。凄まじい蹴りの応酬が、こっちでは繰り広げられていた。
「な、なかなかやるじゃない!」
「なめるなよ。そらっ!」
上段回し蹴りをすんでの所で避け、間合いを取る。
すると今度は、ファングが転がっていたコーンを吹っ飛ばしてきた。
「くっ!」
何とかかわしたものの、それによりタイムロスが生まれてしまう。そこをファングが見逃す訳もなく。
「ていっ!」
「うっ…! がはっ、ごほっ…!!」
蹴りが思いっきり、香織の腹に入った。
だが、この事が逆に香織の闘争心に火を付けてしまった。普段おとなしい人ほど、切れると怖い。
「どこ蹴ってんのよ…女の大事な腹、なんだと思ってるの!?」
「…さあな」
もう許せない。香織はついに切れてしまった。
香織は一息つくと、気合を溜めてファングに向かって走っていく。
「何度来たって、無駄…!?」
蹴りをあっさりかわすと、がしっとファングのネクタイを掴む。そして思いっきり、自分の方へ引っ張った。
「なっ!?」
「ここが弱点!」
ネクタイを引っ張ってやれば、ファングの顔も向かってくる。その顔に連続で裏拳を叩き込んでいく香織。
「おらおらおらおら!」
徐々に柵の方へ追いつめていき、香織のとどめは右の鉄拳だ!
「終わりよ!」
鈍い音がし、ファングは柵の外へ吹っ飛ぶ。
「がはっ…お、俺が…負け…うわあああああーっ!」
断末魔の絶叫と共に、ファングは闇の中へと消えていった。
「こっちだ! 奴ら…ゆるさねえ!」
アランとウェズリーは屋上から物凄い音がしたのを聞きつけて、屋上へとやって来た。
が、そこで見たものは夜風に髪をなびかせ、夜景を見ている2人の女性だけだった。
「君ら、ここで何をしている?」
「あら、刑事さん」
「何って、夜景を見ているのよ。今日1日、満足に旅行もできなかったしね」
革ジャンの女性がそう言った。
「ここに、変な2人組が来なかったか?」
「さて、何のことかしら?」
青シャツの女性がとぼけたように言った。
「隠さないでくれ。ここで爆発音を聞いたんだ」
「ああ…それは多分、あれのせいじゃない?」
革ジャンの女が空を指さす。その先には、盛大に打ち上がる花火の嵐があった。
「何かのパーティかもね。とにかく、私たちは何も知らないわ」
「さて、それじゃ寝るとしますか。おやすみなさい」
青シャツの女性が呟き、出口へと戻っていく。革ジャンの女性もそれに続いた。
「明日はどこへ行くの?」
「気の向くままでしょ。もう今日みたいに計画立てたら、また変なことに巻き込まれそうだしね。それじゃ香織、お休み」
「お休みなさい」
刑事の名前はわからなかった。けど、それでもいい。
あの女性達の名前はわからない、でも問題はない。
一緒に戦った絆というもので、4人はつながっているのだから。
エクストラステージ 〜美香&香織 vs アランとウェズリー〜
エリア1
翌朝。旅行の計画も立てずに美香と香織はホテルをチェックアウト。気ままにブラブラ行くことにした。
「眠れた?」
「うん。ぐっすり。やっぱりあのバトルは辛かったわね」
「それで…どこかへ行くの?」
「ここはシドニーでしょ? だから行くとしたら……」
「……」
ワクワク顔で美香を見つめる香織。
「えーっと…」
「……」
「気ままに行きましょ!」
「………はぁ」
半分ヤケで気ままに行こうと提案した美香を見て、香織はため息をついた。
とにもかくにも、旅行を楽しもう! みたいなノリで、2人は気ままに行くことにした。
エリア2
その日はいろいろなところを見て回り、1日中旅行もいよいよおしまい。後は帰るだけなので、空港にやってきた。
「楽しかったわね。昨日は別として・・」
「そうね」
両手に土産の品を沢山持ち、意気揚々としている2人。約束の飛行機まではまだまだ時間がある。
そこで美香は昼食をとろうと言い出した。
「ねえ、何か食べない?」
「え? うん…良いけど」
「それじゃ、そこのレストラン行きましょ」
近くのレストランに入り、料理を注文。昨日満足に食べられなかったこともあり、結構大量に頼んだ。
しかし食べる前に美香はキョロキョロしだす。
「……」
「どうしたの? キョロキョロして」
「いや、またほら、昨日みたいなことになったら…ねぇ? 私達が物食べるとき、絶対何か起こるから…」
「ああ…」
昨日のことを思い出し、遠い目になる2人。が、そんな心配はなく出てきた料理は普通に食べられる。
「よかった〜! やっぱりおいしいわね」
「何事もなくて、よかったわねぇ」
とその時、2人に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おろっ? 君らは…」
「あれ!? あなた達…昨日の!?」
2人が出会ったのは、昨日一緒に戦った2人組。
「旅行は終わりか?」
「ど…どうも。ええまぁ、もうあと少しで帰るところですよ。…あなたたちは?」
「俺らは…証拠を集めに戻ってきたんだ」
そう言うと、茶髪の男が美香の右肩をとんとんと叩いて、空いている2つの席を指指した。
「ここ、座っても良いか?立ちっぱなしはさすがに辛いんだ」
「ええ、良いけど」
「やっりぃ! サンキューな!」
茶髪の男と金髪の男が、2人のいるテーブルに一緒に座った。
「そうだ。この料理・・俺らがおごるよ」
「え、い、いいですよ別に…」
美香が断ろうとするが、茶髪の男はにっ、と笑って返す。
「いいっていいって!ほら、俺らのせいで昨日、満足にメシ、食えなかったんだろ?だからおごるぜ?」
「・・・・うん、わかった。どうもありがとう!」
「ユア・ウェルカムさ!」
その時、ふと重要なことに気がついた美香。
「そう言えばあの、自己紹介まだしてませんでしたよね?加山美香って言います。日本人です」
「里中香織です。私達は高校からいつも一緒だったんですよ?」
「へえ・・そうなのか。あ、俺はアラン!アラン・ダナウェイだ」
「ウェズリー・ランバートだ。よろしく」
茶髪の男がアラン、金髪の男がウェズリーというらしい。
興味を持った美香は色々2人に聞いてみることに。
「そう言えばお2人って、どこの警察にいるんですか?」
「…え、い、いやその」
「メルボルンだ。そこの刑事課にいる」
すごく返答に困る質問にアランはたじろぐが、ウェズリーはさらっと答える。
「そうなんですか〜! いいな・・テラウラヤマシス…」
「…え?」
「ああこれ、ジャパニーズスラングですよ」
((知るか))
香織とウェズリーは心の中で同時に呟いた。
が、次の瞬間、今度は香織がとんでも無い質問をする。
「あれ? でもあの…刑事さんなら警察手帳とバッジがあるはずなんですけど…? 私達、一度も見てないよね?」
今度はアランだけではなく、ウェズリーまでギクッとする。
「…そう言えば、そうよね。ちょっと見せてもらえます?」
「きょ、今日は持ってない…というか、刑事は普通、持ち歩かないんだよ」
「そういうことだ」
「でも…それならわざわざ何でここに戻ってきたんですか? 休暇なら何処か別の場所で取るはずじゃあ? 事件のあったところにはあまり来ないはず。
もしお2人が事件の証拠を集めに戻ってきたのなら、バッジと手帳は持ってるはずでしょ?」
その言葉に美香も続ける。
「…あ、それに! 今朝の朝刊見てて違和感感じたんだよね!」
「へえ…ど、どんな?」
「朝刊のあの事件のところに2人の名前が出てなかったんです! あれだけの活躍をしたなら、名前が載っても良いはずなのに!
なのに…名前どころか、そんな2人がいたと言うことは書いてなかった! …あなた達、本当は刑事さんでは無いですね?」
(なぁ…ウェズリー〜!!)
アランが小声で助けを求めるが、当の本人は目も合わせてくれない。
「ねえ、どういう事なんですか? 刑事じゃないとしたら、あなた達は・・? それに、新聞に名前が載らないというのも不自然だし、
インターネットでニュースを見ても、この事件に深く関わったはずのあなた達が報道されないのはおかしいでしょ?
刑事は命を狙われるのが怖くて、報道もできないような・・訳もなさそうだし」
そこまで香織が言うと、ウェズリーが小さくため息をついた。
「そろそろ、もう無理かもな」
「おいおいおい!」
「それに、この人達は俺達の任務に深く関わった。話さないより話す方が良いだろう」
「う…わ、わかった。でもここじゃまずいぜ。後でどっか別の場所で話そう」
というわけでご飯を食べ終わった後、4人は空港の裏の、全く人気のない広場に来ていた。
そこで、美香と香織は2人から色々な事実を聞かされる。
2人がVSSEという組織にいること。平和のために諜報員を派遣し、その諜報員が自分たちであること。
普段は2人一組でコンビを組んでいること、これは裏の顔であることなどなど。
「大体わかったわ。でもあなた達も大変ですね」
「そんなことはねぇよ。俺らが活動することで、世界の人々が平和になってくれればそれでいいんだ」
「そうよね…」
しかし、また美香がとんでも無いことを言いだした。
「ところで。あなた達って本当に強いの?」
「…は?」
「な、何言ってるの美香?」
「いやあのね、あたし達もほら、一応こうして高校時代からのコンビだし…。あたし達のコンビは多分、あなた達に負けないと思うわ」
その言葉に、アランは首をかしげて美香に問う。
「…つまり、何が言いたいんだ?」
「時間はあるかな?」
「ああ。結構あるが、それがどうかしたか?」
「あたしと香織で、あなた達に勝負を申し込みたいわ。本気のね!」
「はぁ!?」
「おいおい、本気なのかよ?確かにここは次の演習でも使われる予定だが…」
「言っておくけど、生半可な気持ちなんかじゃないわ。私の跳び蹴りは本気で凄まじいんだから。香織から習ったんだからね」
「ちょ、ちょっと美香〜!」
ウェズリーは疑い深い目で2人を見た。
「……本気でやるのか?」
「だからそう言ってるじゃない! それとも何? 女相手じゃ本気を出せないとか、できないとかなら心外よ!」
あ〜あ、期待して損したかもね!とぼやく美香。
その言葉に、アランの中で何かがはじけた。
「…そこまで言うのか? だったら上等だ。やってやるぜ!」
「お、やる気になったのね?」
「ああ。そこまでバカにされて黙ってるほど、俺らは人間できてねーからな」
「…アラン!」
「黙ってろ! これは俺のプライドもあるんだ。お前だってバカにされて、黙ってるわけにはいかないだろ?」
その言葉に何かを感じ取ったのか、ウェズリーも参戦することに。
バトルの舞台はこの空港裏。飛行機の格納庫が1つあるだけの、広くもなく狭くもない広場。
格納庫の中には飛行機ではなく、木箱やらポールやらが散乱している。広場は格納庫とは対照的に綺麗で、恐らくこの格納庫は物置だろう。
「ルールは簡単だ。俺とウェズリー、あんたら2人でタッグを組み、どっちかがギブアップするまで戦いを続ける。それだけだ。
俺らの銃弾は演習用の模擬弾を使うぜ。一応あんたら用の銃もある。ほら、これだ」
そういって、アランがハンドガンを取り出した。しかし・・・。
「いいや、私達はこの身体1つで、勝負するわ!」
「な、なんですって!?」
「…正気か? そっちが圧倒的に不利だぞ?」
「不利?そんなことは分かり切ってるわよ。それに銃の使い方もよく知らないのに、使い慣れてない武器はかえって逆効果。私には、これがあるからね」
そういって、投げナイフを取り出す美香。香織も羽織っていたジャンパーを脱ぐ。
「ジャンパーは動きづらいからね」
荷物とジャンパーを片隅に置き、準備は整った。
「へっ、いいのかよ?」
「ええ、いいわよ?」
美香は挑発的にアランに返した。
「その言葉、後悔するなよ!」
アラン・ダナウェイ&ウェズリー・ランバートvs加山美香&里中香織。
「それじゃあ俺らは、一旦ここを離れて5分後にここに戻ってくる。それまでに何処かに潜んでおくのが良い。真っ向勝負じゃ、勝ち目無いだろうからな」
「わかったわ!」
ラストバトル、スタートだ。
エリア3
アランとウェズリーは、5分後に予定通り広場へ飛び込んでいく。
「俺はあの美香って奴を探しに行く。香織とかいうのは任せたぜ!」
「え?」
「あいつとはサシでやる! 俺がな!」
そういって、アランは広場の方へ走っていってしまった。多分直感で、向こうの方に美香がいるのだと判断したのか。
「ったく、しょうがないな」
アランを見送り、自分は格納庫に向かうことにしたウェズリー。アランと同じ方向に行っても意味はない。
格納庫の扉は閉まっていて、開けるとギギ…と軋んだ。すると、中に人の気配がする。
ウェズリーはハンドガンをしっかり握りしめ、扉を閉めて言った。
「隠れてないで、出てきたらどうなんだ?」
そう言い終わると、前方の柱の影から香織が姿を現した。アランの直感は当たっていたようだ。
「どうやら、あなた1人みたいね」
ウェズリーはこくりと頷く。
「まぁ、こっちも手加減するつもりは…さらさらないからね!」
そう言って、香織は側に置いてあった木の板をウェズリーに向かって蹴り飛ばしてきた!
ところ変わってこっちはアラン。
(間違いねぇ。こっちにあの女はいるはずだ!)
広場には看板が立ってたり柱が立ってたりする。それも多い。
アランが一旦息を整えるために、柱の陰に隠れたときだった。
アランの前を、3本の風が通りすぎる。正確には風ではなく、ナイフ。ということは…。
「ちぇっ!」
「まだまだだな! 美香さんよぉ!」
柱の影から美香が姿を見せた。こちらもバトル開始だ。
まずは香織vsウェズリーから。
こちらは物凄い応酬戦と化していた。ウェズリーがハンドガンを撃てば、香織からは何かが蹴り帰ってくる。
「少しはやるようね」
「……」
その問いにウェズリーは答えないが、徐々に香織との差を縮めていく。
(差を詰められるのは百も承知。けど、銃持ってる相手に正面から挑むのはきついわね。…不本意だけど、あの手を使うしかないか。もう少し粘ろう)
何か香織には考えがあるようだ。相変わらず物を蹴り飛ばして対抗するが、それもだんだんきつくなってきた。
そして次の瞬間、物を蹴り飛ばす一瞬の隙をつかれて、銃弾が撃ち込まれる。
「うえっ!?」
一瞬怯んだ香織に対して、一気に差を縮めて銃口を突きつけるウェズリー・ランバート。
「……かわせるか?」
その言葉に、香織はあきらめにも似た表情をする。
「…はぁ、わかったわよ」
その言葉にウェズリーは、香織がギブアップしたのだと判断。銃口を降ろす。
それを見た香織は、ウェズリーの横をすり抜けて扉へ歩き出す。
しかし、ぴたりとその足が止まる。そして次の瞬間、香織はとんでも無い行動に出た。
「ウェズリー。1つだけ忠告してあげる」
「え?」
「勝負は最後まで何があるかわからない。だからこそ、今が大きなチャンスなのよ!」
その言葉と共に香織は飛び後ろ回し蹴りを、ウェズリーでも目にもとまらぬ速さで繰り出した。
「ぐう…!?」
何の前触れもなく飛んできた回し蹴りをウェズリーはかわしきれず、横顔にクリーンヒット。そのまま気絶してしまった。
「本当はこんなやり方は不本意だけど。でも、私は降参と言ってないからね?」
既に気絶したウェズリーを見下ろし、香織は扉を開けて外に出た。
一方アランと美香はといえば、攻防の凄まじい展開になっている。美香がナイフを投げれば、アランがハンドガンで撃ち返すといった展開。
しかし美香の方には、ある問題が。
(やばい、ナイフが無くなりそう!)
ナイフを投げるのが一方通行状態だったため、そろそろナイフが尽きかけてきた。そして腕も痛い。
(こうなったら・・・あの技をやるしかないわね!)
1回深呼吸をすると、美香はタイミングを見計らって看板の陰から飛び出す!
「へっ!絶好の的だぜ!」
美香は精神を集中させ、銃弾が飛んでくるのを予測して当たらないように走る。そして懐に手を入れ、残りのナイフを投げつける!
「同じ手は食うかよ!」
アランはナイフを側転で避け、美香がいる方を見る…が、美香の姿はない。
(き、消えた!?)
こういうとき、人間は上に注意が行かないもの。美香はドッグと戦ったときと同じ戦法を使った。
美香は何とアランが隠れていた柱に足をかけ、大きく飛び上がる。
そしてさらに空中で身体にひねりをいれ、足をアランの方に向けて叫んだ。
「ウルーフ…キィィィィィィィック!」
凄まじい勢いで、アランめがけてジャンプ蹴りを放つ美香。
「うおおっ!?」
アランはなすすべもなく、反射神経を持ってしても避けられず、クリーンヒット。
美香の勝ちだ。そして最後に美香は一言。
「…どんなもんじゃーい!」
VSSEの2人に勝った美香と香織は、アランとウェズリーをつれてきて休ませる。
「…気分はどう?」
「うん、だいぶよくなった。でもあんたら強かったぜ。VSSEに招待したいぐらいだ」
「えっ!?」
「俺もそう思う。銃器無しで勝つとは、恐れ入った」
しかし、美香は首を横に振る。
「うん、ありがとう。VSSEには入りたいけど…でもやめておくわ。私達、銃の使い方もよく知らないしね」
「そうか。まぁいいさ。無理強いはしないぜ」
その後、フライトの時間になった2人はアランとウェズリーに見送られて日本へと帰っていった。
その飛行機を見送るアランの口から、こんな呟きが漏れた。
「強いな、女は」
「うん?」
「底力をとことん見せつけられた気がする。俺達の負けだぜ」
何処かさわやかな気分になりながら、2人も帰る準備をするのだった。
完
〜後書きその2〜
ふーっ、やっと終わりました。どっちを勝たせるかで悩みましたが。
まぁ、主人公がいつもいつも勝つとは限らないし、それじゃマンネリですしね。
ファングの声を聞いてると「ウルフキック」に聞こえたので、キアさんのかけ声もああいうのになりました。それでは、また次回!
2008,3,21 80スープラ