偽名古屋人(名古屋ボス)〜リチャード・ミラー&クロード・マクガレン
プロローグ:日本からやって来た5人組
イギリスと言えばヨーロッパの島国としてその名前が有名であるが、
それ故に旅行に来る観光客も毎年後を絶たない。そして2014年
11月下旬の今日もまた、新たな観光客がこの地を踏みしめるのである。
「あ〜、寒いぜ」
「そりゃあ流石に冬だからな」
「名古屋も寒いけどこっちもそれなりだぜ」
日本は名古屋からやって来た葉山藤一、宮島浩介、中村直樹、星沢慎太郎、
そして5人のリーダー格であり名古屋高速で最も速いと言われている西山貴之の5人だ。
「せっかくロンドンまで来たんだ、ビッグベンとか色々回るんだから文句よりも良い
思い出作って帰ろうじゃないの。また前みたいな事になる確率なんてそうそう無いよ」
前にそれぞれが旅行に行った時は、散々な思い出ばかりがあったと5人の中で共有の
話題になっている。特に中村、星沢、西山のD3の3人に関してはそれぞれ2回も
事件に巻き込まれているだけあって、今回はヨーロッパのイギリスを選択した。
だがそんなイギリスで、5人はまたしても事件に巻き込まれてしまう……。
ステージ1:やっぱりこうなる運命?
エリア1
イギリスに旅行に来るとあって真っ先に渋ったのは宮島浩介であった。宮島は
以前イギリスにやって来た時に事件に巻き込まれた経緯があり、そこをSTFと言う
警察の部隊に助けて貰ったからである。
だからもう2度とあんな思いはしたく無いと言う事でギリギリまで渋ったのだが、彼と
仲が良い部類の葉山が何とかなだめすかしてついて行く事になるのであった。
「その時の事件から俺にカンフー習ってもう7年半になるんだから、大丈夫だって!」
「だと良いけど」
2007年の6月のその時の事件から帰国した宮島は、自分が海外でこう言うトラブルに
また巻き込まれてもそれなりに対処出来る様にと、カンフーを長年習っている葉山に帰国の
3日後から師事し、来月で丁度7年半になる。
「で、まずは何処へ行くんだ?」
「ああ、今日はタワーブリッジに行くか。それから明日はビッグベンとかバッキンガム宮殿だ」
西山にそう言われて、自由散策だと何が起こるか分からないので5人纏まって
行動する事になった。前の旅行ではそれぞれが1人ずつだった為に事件に
巻き込まれたので、こうして5人で纏まって行動すれば事件に巻きこまれないのでは
無いか、と言う安直な考えからの今回の行動である。なので今回は必然的に
5人での団体行動となる訳だが、その中で宮島だけはやっぱり何か嫌な予感を
何処と無くその身体で感じ取っていた。それでもはるばるイギリスまで来てしまったので、
せっかくだから観光を楽しんで帰ると心の中でしっかりと決意した。
エリア2
そうして5人はタワーブリッジへとまずやって来た。ここは有名な観光スポットの1つであり、
ロンドン塔のすぐ近くに存在している大きな橋だ。そしてそのロンドン塔に入って登ったり
タワーブリッジを渡ったりするとあっと言う間に半日以上も時間が掛かってしまう事でも
知られている。なので1日目は空港に着いた時間も昼過ぎだったのでその2つに観光
スポットを絞って行動する事を事前に決めていた西山であった。
「良し、ここからなら良いカメラのアングルにもなりそうだ」
西山の先導でやって来たスポットでは確かにタワーブリッジが良く見える場所であり、
彼等5人以外にも多くの観光客が写真を撮ったりしている。
「おおー、流石イギリス。やっぱりヨーロッパだぜ」
「ああ、あの橋も凄くでかいな。確か世界遺産に登録されているんだっけ?」
「そうだ。ヨーロッパの世界遺産は文化の違いもあるが、やっぱり日本の世界遺産とは
何処か違う気がする」
中村の問いかけに葉山がそう返して、今度は橋を渡る為に歩いて行く。
だが次の瞬間、とんでもない事態がこの5人に襲い掛かるのであった!!
エリア3
橋の中心部までやって来て、そこから橋の下を流れる川を見つめる葉山。
「あー、やっぱり高いな。ここから落ちたらやばそうだぜ」
自分でもろくでも無いと思う様な事を考えながらも、写真でも撮っておこうかなと
カメラを取り出そうとした次の瞬間、背中に誰かが強くぶつかって来た。
「うおうおぁ!?」
変な声を上げながらも身体構えにバランスを崩す。咄嗟に手すりを掴んで
落下する事だけは避けられたが、余りの出来事に恐怖と怒りで顔を歪ませながら
後ろを振り向く葉山。
「んだぁ、誰だよ……!?」
しかしその後ろを振り向いて目に入った光景は、今までの光景とは何もかもが違っていた。
「おい、ここから早く逃げろ!!」
「……は?」
目の前の光景が信じられない。何故ならそこでは武装した集団とこれまた武装した集団が
銃撃戦をこのタワーブリッジの上で繰り広げていたのだから。
そして自分に声をかけて来た黒の短髪の男もこれまた同じ様に特殊部隊風の格好で
武装していた。
「な、何が……?」
「良いから早く逃げるんだ! 巻き込まれるぞ!」
男にそう怒鳴られ、訳が分からないまま葉山は逃げるしか無かったのであった。
ステージ2:タワーブリッジのトラブル
エリア1
タワーブリッジの自分達がやって来た方とは反対側、ロンドン塔の方までやって来ると同じ様に
逃げて来た他の4人が葉山の到着を待ちわびていた。
「葉山、無事だったんだな!!」
「ああ何とか。何の騒ぎだよこれは?」
星沢にそう問いかけるが、彼も首を横に振る。
「俺にも分からない。ただとんでもなくやばい状況だと言うのは分かる」
「ああ、結局こうなるのか……」
横に首を振る星沢の横で、宮島が盛大にため息を吐いた。
「とにかくここに居るのは危険だから、俺達も逃げるとしよう」
「ああそうだな。このままロンドン塔の中へと入ろうぜ。映画の撮影じゃあ無さそうだ」
西山と中村の提案でタワーブリッジから早々に引き上げた5人はそのままロンドン塔へと向かう。
「何でこうなっちまうのかな」
「俺が知るか、そんな事……」
クールに、しかし落胆の色を隠しきれない声色で宮島が呟き、それに中村が若干イラついた感情の
声で答えた。イギリスにはもう2度と来たくない、と言うのが宮島の中で決意された瞬間でもあったのだが
この先も彼等にまだまだトラブルが降りかかる。
エリア2
気を取り直して今度はロンドン塔の観光に入る。しかし何か様子がおかしい。
ロンドン塔の中は広いだけあって沢山の観光客や職員が居る筈なのに、今は5人以外に人気が無い。
「あれ? 今日は休業日?」
「ええ、そんな筈無いんだがな。ちゃんと今日は営業してる筈だが?」
パラパラとガイドブックをめくって西山がその葉山の問いに答えようとしたが、その瞬間また誰かに5人が
声を掛けられた。
「おいそこの5人、ここで何をしている!?」
「……え?」
声のした方を振り向けば、そこには黒髪に赤いTシャツ、その上に黒いジャケットを着込んで
水色のジーンズを履いている姿の男が大型のハンドガンを持って立っている。
「お、俺達は観光客だ! あんたこそ何なんだ?」
星沢が慌てた様子で男に問いかけるが、その男を見て最も驚いた顔をしていたのは葉山藤一だった。
「あ、あんたまさか……リチャードか!?」
「何?」
「リチャードだよな!? そうだよ……VSSEのリチャード・ミラーだろ、あんた!!」
指を指しながら大声で指摘する葉山を見て、男の表情も少し変わった。
「何故俺の名前を知っているかと思えば、アメリカのスタジアムの……?」
「そうそう、葉山だよ!! ほらあの……オレンジのスカイラインの!」
「そうか、あの時の男か……」
葉山が驚くのも無理は無い。このリチャード・ミラーとは以前、アメリカのスタジアムで
起きた事件を一緒に解決した覚えがあったからだ。
「知り合いなのか?」
「ああ、それ程でも無いけどそれなりの知り合いだ。何であんたがここに?」
葉山がそう問いかけると、リチャードは明後日の方向を向いて答える。
「このロンドンでまたVSSEのミッションだ。ここももうすぐ戦場になる予定だから人払いをした。
すぐにあんた等も逃げるんだ、良いな」
「え、あ、わ……分かった!! みんな、行こう」
「戦場になるなら逃げた方が良さそうだな」
何が何だか他の4人は分からないまま、葉山に引っ張られる形でまずはロンドン塔から
逃げ出す事にしたのである。
エリア3
「ああ、何だか前にそんな事を言ってたっけ」
「と言う事はその時に巻き込まれて協力したVSSEのエージェントが、あのリチャードって訳だな」
「まさしく運命の再会か」
「嫌な運命だけどな」
ロンドン塔の中を小走りで駆け抜けながら逃げ出しつつ、4人は葉山の話を聞いてリチャードと
彼の関係を知った。
「VSSEなら前に俺も星沢も西山も出会った事があるが、何か俺達に因縁でもあるのかな?」
「さぁな。それは兎も角、あのVSSEが居る所は絶対戦場になっているみたいだな」
そんな中村と宮島のボヤキに対して、葉山が気になる質問をし出す。
「今の所100パーセントの確率だしな。でも、VSSEって特殊部隊みたいな仲間って居るのか?」
「え?」
いきなり不思議な問いかけをして来た葉山に他の4人はきょとんとした顔つきになる。
「どうだろうな。VSSEって名前は聞いた事あるけどどんな組織なのか、どれ位の規模なのかはさっぱりだ」
西山が首を捻りながらそう答える。
「星沢もVSSEに会った事あるんだろ?」
「うーん……俺もなー、他のエージェントに出会った事はあっても、組織の事までは聞かなかったし」
星沢も分からないらしく、今はとにかく逃げるだけ。そう思っていた5人だったが……。
「……ん?」
「何か、凄い足音が聞こえるぞ?」
ピタッと足を止めた5人のその目の前に、またもや武装した人間達が現れた!!
ステージ3:運命の再会パート2!
エリア1
「うおお!?」
「うあ、やべぇ!」
咄嗟に身構えて木の陰に隠れる宮島、転がって壁の影に飛び込む葉山、西山、
そして呆然とするだけの星沢と中村。だがよくよく見てみるとこちらに攻撃をして来る気配がその
集団からは感じられなかった。
「あ、おい! 俺達は警察だ! 観光客か?」
集団の中のリーダー格である黒髪の男が5人に向かって話しかけて来たので、西山、葉山、宮島は
物陰から出て中村、星沢と共にその男の元へ。だがその瞬間、今度は宮島の顔が変わった。
「あ、れ……? STF?」
「え?」
「俺の記憶違いで無ければ、クロード隊長では無いか?」
「何故俺の事を知っている?」
宮島が発したその名前に反応するその男。宮島はそんな男の反応を見て微笑を浮かべた。
「やはりそうだ。STFのクロード・マクガレンだな?_」
宮島にフルネームで名前を確認されたその男は、まじまじと宮島の顔を見つめていた。
「……まさか、君は……」
「やっと思い出してくれたか。宮島浩介だ」
「え? まさか2人って知り合いなのか?」
「今度は宮島の知り合いかよ」
驚く中村とぼやく葉山。その葉山の反応にクロードが反応する。
「今度は?」
「ああ、いやこっちの話。それよりもこの騒ぎは一体何なんだ?」
宮島に問いかけられて、クロードは簡潔に事件の内容を話す。
「武器の取り引きだ。ここでそう言う事が起きるとの情報がこちらに入ってな」
それを聞いた西山が今度は問いかける。
「それってもしかして、VSSEが絡んでいるのか?」
「何故それを知っているんだ?」
驚きの表情を見せるクロードに、西山はふっと笑みを浮かべるのであった。
エリア2
「俺等は一切関係無い。たださっき、VSSEのエージェントにこの先で出会ったから、
もしかしたらと思って。いわゆる合同作戦って奴だな」
「ああそうだ。黒髪の男だろう、俺と同じ……」
「当たりだ。……良し、ここで話していても危険だから俺達はもう逃げる。必ず武器の
取り引きを止めてくれ!!」
それだけ言い残して再び脱出のルートを走り出す5人。出口まではもうすぐである。
「宮島、あの男とは一体どう言う関係なんだ?」
「ああ、その事なんだが……」
さっきの葉山と同じ様に、宮島も走りながら以前の出来事を4人に話す。
「……と言う訳なんだ。走りながら喋るのは疲れるぜ」
「そっか、つまり俺と宮島の事件で絡んだ奴等が今回は共同作戦を張って事件解決に
挑もうとしていた所へ、俺達は巻き込まれた訳だな」
「そう言う事らしい。つくづくVSSEやら何やらと俺達は縁がある様だ」
「出来ればこの先でもうあって欲しく無い縁だけど」
葉山の考察に宮島が同意し、そこにクールに星沢が突っ込んだ。
そうしてロンドン塔の出口までやって来た5人は一旦ストップして大きくそれぞれが息を吐いた。
「はぁ〜〜〜〜〜疲れた。走った走った……」
「短距離は得意だけど長距離は俺苦手なんだよなぁ……」
5人のメンバーの中で1番体力に自信があるカンフー使いの探偵葉山と、短距離走のランナーの経験を
持つ中村がこれだけ疲れているのだが、それでも他の3人も頑張ってついて来ていた。
「ふぅ……今年1番運動したかも、俺」
「木刀振るのとはまた違う筋肉使うものだな……」
「まぁ良い、みんな良く頑張った。さっさとここから離れよう」
西山の号令で再び5人は歩き出し、遠くで銃声が聞こえて来たロンドン塔から離れて行くのであった。
エリア3
そうしてホテルに戻った5人が夕方テレビで目にした物は、あのロンドン塔での事件が解決
したとの事であった。STFの活躍として報道されていたがVSSEの名前が出ていないと言う事は
やはりVSSEは秘密裏の組織と言う事になるのだろう。
「事件は解決したみたいだな」
「ああそうらしいな。だったら明日はゆっくり観光出来そうだ」
事件が解決したと言う事であれば、もうトラブルに巻き込まれる心配は今の所過ぎ去ったと
言う事になるので5人はそれぞれ安堵の表情を浮かべた。
「で、明日は何処へ行くんだ?」
「バッキンガム宮殿とか色々の予定だ。大丈夫だ、悪い事の後には良い事があるって言い伝え
だってある位だからな。今日は悪い事に巻き込まれた分明日はきっと充実した観光が出来るさ」
「そうか……それも、そうだな……」
葉山の何気ない一言に宮島は考えを変えて、またイギリスに来るのも悪くは無いかな……と思いながら
そのままベッドへと潜り込んだ。明日は明日の風が吹くから、観光も楽しくなる筈だと考えて。
完