European Union Fighters〜ルーク・オニール&マーク・ゴダート
プロローグ:世界で2番目に小さい国で
小国は世界中に色々とあるが、その中でも有名な小国と言えばまずはバチカン市国だろう。
そしてその次で世界で2番目に小さい国として有名なのがやっぱりモナコだ。
ヨーロッパの中でもセレブ達が集うこの地中海に面した小国では、カジノもあればWRCもあるし
その他にも色々な映画に出た事もあればゲームの舞台になったりした事もあるので、小国と言えども
世界的に余りにも有名な国でもあるのだ。そしてそんな小国モナコにはヨーロッパ各地から観光客が
訪れるだけで無く、アメリカやアジアからも観光客が訪れる。そして悪い奴等も訪れるのであった……。
ステージ1:ヨーロッパの5人組と若手エージェント
エリア1
「今回はもう大丈夫だろうよ」
「ああ勿論だ。異世界の問題は解決したんだし、俺達5人だけが集まってんだからな」
「それに今回は日本じゃなくてモナコなんだから、その心配も杞憂に終わるだろう」
「そうだな、とりあえずホテルに向かうか」
「ああ、まずは荷物を置いてから市内をグルリと1周だな」
そんな事を話し合いながらモナコに11月上旬に降り立ちホテルに向かっているのはドイツ、
イタリア、フランス、スペイン、イギリスのモナコ以外のヨーロッパの各国からやって来た5人組だ。
そんな5人はひとまずホテルへと向かう。モナコはこの町だけで成り立っている国なので
1日もあればその大半、行き先を絞れば1日で回り切る事も簡単である。
公用語がフランス語なのでジェイノリーにとっては快適であるが、他の4人にとっても別に
英語で喋れば問題無いので特に言語面での心配もしていない。
そんなこんなでこの5人のモナコ観光が始まった訳だったが、その観光の中でまたしても
とんでもない事件にこの5人は巻き込まれてしまうのである。
エリア2
ホテルの部屋をイギリスとスペイン人で一部屋、そして残りの3人で一部屋取って
意気揚々とモナコの町へと観光に出る。
「それじゃ、午後4時にここで集合な」
「ああ、何かあったら電話で連絡だ」
この人数の割り振りで二手に分かれて、それぞれ市内を自由観光する事になった。
「まずはモンテカルロ駅から適当な駅で降りてみよう」
バラリーとアイトエルの2人は列車で旅をする事にしたのだが、先に災難が降りかかって
来るのはこの2人であった。
モンテカルロ駅はモナコ唯一の駅として知られており、ここからフランスのパリにも
イタリアにも行く事が出来る様になっている。
そんなモンテカルロ駅からフランス側へとまずは向かおうとしたバラリーとアイトエル
だったが、改札を抜けてからホームへと向かって歩いていると突如銃声が轟いた。
「っ!?」
「何だ!?」
思わずそちらの方に振り向くと何だか異様に騒がしい。
「何か、嫌な予感がする」
「ああそうだな……とにかく俺達には関係ないから、さっさと列車に乗ろう」
こんな時までトラブルは御免だぜ、とばかりに2人は銃声の方を見ずにホームへと
なるべく駆け足で進んで行った。
そうしてホームまでやってきたものの、銃声は後ろからどんどん近づいて来る。
「まずい……」
「くそ、巻き添えとかそう言うのは御免だ」
焦りを感じながらもようやくやって来た列車に飛び乗ろうとした2人だったが、そんな
2人の目の前にどでかいバスタードソードを背負った大柄な男が1人列車から降りて来た。
「え?」
「うお?!」
驚く2人を押しのけて、その大男はバスタードソードを背中から引き抜きつつホームへと降りる。
だが2人は関わりたく無かったので、列車に乗り込んでなるべくその男から離れた車両に
乗車する事にしたのであった。その時にチラリと自分達が乗り込んだ乗車口を振り向いてみれば、
2人の男がさっきのバスタードソードの男と対峙しているのが見えていた。
エリア3
バラリーとアイトエルがそんな状況になっている頃、残りの3人はホテルから少し離れた所で
悠々自適にモナコ観光を楽しんでいた。
「ああ〜、こんなにリラックスしたのは久々だぜ」
「俺もだ。軍の訓練は楽しいが、こう言うのも悪くねぇ」
「普段の仕事を忘れてリラックス。仕事は休む為にする物か……」
ハリド、サエリクス、ジェイノリーの3人がそんな会話をしながらショッピングや観光を楽しむ。
フランス語しか通じないスポットもあったのでそこはフランス人のジェイノリーに通訳して貰って
いるのだがそれでも不便さは感じない。
そうして市内の観光を楽しみ、残りの2人はどう言う所を回っているのだろうとふと気になった
5人のリーダーのハリドが電話を掛け始める。
しかし電話に相手が出たのだが、その向こうからは奇妙な音が響いて来た。
「……おいバラリー、どうした?」
『ヤバイ、今は話している暇が無い。また敵が来た。後で連絡する!!」
「お、おい?」
しかし電話は切られてしまった様で、ハリドは首を傾げて通話画面を見る。
「何だ、何かあったのか?」
怪訝そうに尋ねるジェイノリーに、ハリドは信じられない返答をする。
「何か、銃声みたいな音が聞こえて来ていた……」
ステージ2:こっちでも巻き込まれるんだな、これが
エリア1
「銃声?」
サエリクスが思わず反応を見せる。
「ああ、間違い無くあの奇妙な音は銃声だった。それにバラリーの切羽詰った声……。
あれはふざけてる感じじゃない、真剣な声だ。何かトラブルに巻き込まれた可能性が高い」
「トラブル……?」
「え、またトラブルか? ドラゴンの事件が終わったら今度はモナコで……」
呆然とするジェイノリーとイライラしそうなサエリクスに、ハリドは1つの提案をする。
「今はモンテカルロ駅に居るとバラリーは早口で話していた。ここから駅まではそう遠く無いし、とにかく
行ってみるだけ行ってみよう」
リーダーのドイツ人の提案で、この3人もモンテカルロ駅へと向かって急ぐ事にした。
そしてモンテカルロ駅のホームへと辿り着いた3人を待っていたのは信じがたい光景だった。
「何だこれは!?」
「うわ、これはひでぇ」
「何があったんだ……?」
ホームへと続く道を進んでいる時も、そしてホームに辿り着いてからもそこらで人間が倒れている。
その大半は息が無い様だった。
「しかも列車がどうやら動いていない。何だかおかしいな」
冷静沈着な性格のジェイノリーが列車がホームに止まりっ放しなのを見てそう呟く。
「乗り込んでみよう。ただし慎重にな」
ハリドが先頭に立ち、列車の中へと3人は足を進めて行った。
エリア2
列車の中も酷い有様なのは変わらなかった。そのまま死体の山を踏みつけない様に
注意しつつ進んで行くと、先頭に程近い車両で銃声が轟いているのが3人には分かった。
「ハリド、この先は……」
「ああ分かってる。俺も凄く嫌な予感がするんだ。ジェイノリー、もう1度バラリーかアイトエルに
電話をしてくれないか」
「分かった」
サエリクスとハリドが先の様子を慎重に窺いながら、ジェイノリーがその後ろで電話を掛け始める。
「……もしもし? 今はどうなってる?」
そのままジェイノリーは短くやり取りをかわし、電話を切った。
「何か相当やばいらしい。大勢に囲まれているらしいぞ」
「場所は?」
「この先だ。行こう」
決意を固めた3人は、残りの2人が待つ列車の先へと進む事にする。しかしその先で彼等は
この旅行で最大のピンチに陥る事になってしまうのであった!
エリア3
バラリーとアイトエルが列車の中を進んでいた時、いきなり先頭車両の方から多数の
武装した人間が現れて銃を撃って来たので、咄嗟に2人も応戦していた。
(何故こんな目に……)
(凄いデジャヴだ、前にもこんな事があった様な気がする)
あのバーチャシティでのタワーでの事件と同じで、いきなり発砲されたのがデジャヴとして
2人の脳裏に蘇る。それでもバラリーはフリーランニングとパルクール仕込みの身軽な動きで
手すりや座席を移動して敵を翻弄し、アイトエルは敵のリロードの隙を狙ってパワー勝負を
仕掛けたり、倒れている敵を持ち上げて他の敵にぶつけたりと完全パワータイプで攻めて行く。
そのままどんどん先頭車両の方へと進んで行って、敵の攻勢が一旦止んだジャストタイミングで
バラリーにさっきのジェイノリーの電話がやって来た。
「向こうは何だって?」
「この列車に来たらしい。すぐに乗り込んで来るそうだ」
「そうか、なら3人が来るまでここで動かないで待っていた方が賢明だろう」
アイトエルの提案をバラリーも受け入れ、2人は先へ進むのをストップしてここで待機。
そうして待っていると車両の後ろからドアが開く音がしたのでそっちに振り向いてみる。
恐らく残りの3人だろうと思っていたのだが……。
「げっ!?」
「またか……」
驚くアイトエルとうんざりした様なバラリーだったが、大勢の敵がまた向かって来たので
すぐに身構えて臨戦態勢に入るのであった。
ステージ3:ラストバトル、そして……
エリア1
ハリド、サエリクス、ジェイノリーの3人は先頭車両へと向かっていたが、先頭車両に辿り着く前に
謎の武装集団……この列車の中で倒れていた大勢の人間達と同じ格好をした奴等の襲撃を
受けていた。
(何だってんだ!!)
舌打ちをしながらもそのまま敵から奪ったハンドガンで応戦して敵を倒すサエリクス。
軍人として射撃訓練も相当受けて来ているし、階級も長く勤務している将校だけあり
それなりにあるので3人の中では1番銃火器の扱いには手馴れている。
ハリドもハリドで刑事として捜査をするに当たって銃の携帯が許されているので、当然射撃訓練も
受けている。ただサエリクスと違うのはハンドガン以外にショットガンやマシンガン等を使った経験が余り
無い為に、必然的に敵から奪い取ったハンドガンで応戦する形を今も取っている。
そしてジェイノリーは重火器の扱いは全くのゼロなので、銃の扱いに関してはハチャメチャ戦法となる。
(あの2人の見様見真似で……)
だがそれでもハリドとサエリクスに比べれば全くと言って良い程敵に銃弾は当たっていない様だ。
足技ならこの2人には絶対負ける気はしないが、銃の扱いであれば完全に2人に負けている。
(俺には銃は性に合わない様だな)
それでもあるに越した事は無いので、なるべく隠れる様にしながら射撃を繰り返す。
やっとの事でそうして射撃を続けて先の車両から敵が出て来なくなったのを確認し、3人は先へと進む。
しかしそこから先はもう大丈夫の様であった。
「バラリー! アイトエル!」
「あ、無事だったんだな!!」
「さっき、後ろの車両にこいつ等の仲間が向かって行ったからどうなったかって思ってさ……」
「と言う事は、御前等を囲んでいた奴等の仲間がこっちに分かれてやって来た訳か」
「その様だな」
とにもかくにも先頭車両までやって来て、そうして全員を倒す事が出来た様だったので
後はさっさとここから逃げるだけ……だがその時、ジェイノリーがある物を見つけた。
エリア2
「何だこれ?」
「あれ、これは……マイクロチップ?」
「何でこんな所に……何処かから落ちたか?」
しかし今はそんな事を気にしていられないので、後で駅員にでも届けようと判断して
5人は列車の外へと出た……その瞬間!!
「おーっと待て待て、そこで止まれ!!」
「動くなよ」
「……え?」
声のした方向に振り向いてみれば、そこには白いキャップを後ろ向きに被った金髪でタンクトップシャツの男と
水色のジャケットに白いズボンで黒髪の男がそれぞれデザートイーグルの銃口を向けて立っている。
「何だ、御前等……?」
「それはこっちのセリフだぜ。てめー等もあいつ等の仲間だろ? ここで何をしていた?」
「何をって……怖かったから怯えてうずくまってただけ。銃声が止んだから逃げる事にした」
キャップの男に対して、冷静にジェイノリーがそう返答する……が。
「なら何故、御前達は無傷なんだ? あれだけの人数を倒しておきながら」
「人数?」
「とぼけるな。この列車の中で俺達が倒していない敵がわんさか居たんだ。そして乗客は
そもそも最初からこの列車には乗っていなかった。だから御前達の言っている事は矛盾している」
黒髪の男に冷静に指摘され、ぐっと言葉に詰まる一行。しかしそこでアイトエルがこう切り返す。
「……それはそうと、あんた等は何なんだ?」
「質問に質問で返すんじゃない。何故無傷なのかと聞いている」
この2人の事を聞きだそうとしたアイトエルだったが、またもや黒髪の男は冷静に切り返した。
もうこうなれば埒が明かないし、全てを正直に話す事にした。
「俺達が無傷なのはだなぁ……」
だがハリドが話し始めたその時、男2人の後ろから物凄い爆発音が響いて来た!!
「うおう!?」
「うわ、爆発!?」
そしてそこからまたもや敵の集団が現れ、謎の男2人はそちらの方へと駆け出して行った。
「良し、今の内に!!」
「勿論だ!」
バラリーにサエリクスも同意し、5人は爆発が起こった方向とは全く逆方向に逃げる。
エリア3
そのままの勢いで地下鉄から脱出した5人はホテルへと戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ……何なんだよあいつ等?」
「知るか……それよりもこれ、どーすんの?」
サエリクスの問いに答えたバラリーが取り出した物は、地下鉄で手に入れたマイクロチップだった。
「と言うか、それって俺等が持ってて良い物なのか?」
「駄目だと思うが」
最年長のアイトエルの疑問にジェイノリーがクールに答える。
「でも持って来てしまったから……どうする?」
「元の場所に返しに行くか? 頃合いを見計らって」
「そうだな」
サエリクスとアイトエルの問いかけにリーダーのハリドが答え、5人は夜まで時間を潰した。
そうして時間も遅くなったので、5人は夜のモナコへと出る。
「今更だけど警察とかは大丈夫なのか?」
「あれだけの騒ぎだし問題は無いだろう。俺達はその騒ぎに乗じて元あった場所の近くに
このマイクロチップを置いて立ち去れば良い」
バラリーの問いかけにはジェイノリーが答え、そのまま地下鉄の入り口へと向かう。
……が、何だか様子がおかしい。
「やけに静かだな……?」
「本当だ。あれだけの騒ぎがあったなら、もっと人ごみがあったっておかしくないし警察だって
来ている筈なのに?」
アイトエルとジェイノリーがそんな疑問を口に出しつつ地下に下りて行くと、そこには人の姿が
1つも無かったのである。
「な、何だこれ?」
「人っ子1人居ねぇぞ。こりゃあ変だな?」
バラリーもサエリクスも思わずそんな発言が口から出てしまうが、その違和感の原因を作った
人間の声が5人の後ろから聞こえて来た。
「俺達の手際の良さ、素晴らしいだろ?」
「はっ!?」
ハリドが他の4人よりワンテンポ早く後ろを振り向くと、そこには昼間に遭遇したあの白いキャップの
男と黒髪の男が再びデザートイーグルの銃口を5人に向けつつ立っていた。
「ここへ何しに来た?」
警戒心マックスで黒髪の男が問いかけて来るが、ハリドは動じずにポケットからごそごそと
マイクロチップを取り出して目の前に掲げた。
「これを返しに来た。俺達には必要無いもんだからな」
それを見た2人の男の内、キャップの男が頷く。
「やっぱりあんた等か、そのマイクロチップを持って行ったのは」
「ああ、俺等には必要無い……が」
このまますんなり渡して良いものかと思ったハリドは、マイクロチップを掲げた手を下ろす。
「そっちこそ何者だ? 俺達はただの観光客でここで事件に巻き込まれた。モナコ以外の国から来たんだ。
列車に乗り込んだのも偶然。そしてあの武装集団も自分の身を守る為に俺達が倒した。俺等は
全員戦えるんでね。これで昼間の疑問は解消出来たか?」
満足気にそう話し終えたハリドだったが、黒髪の男が首を横に振る。
「いや、まだ情報が足りない。とにかく俺達VSSEと一緒に来て貰おう」
「VSSE……!?」
まさかその名前は……と疑問に思ったハリドだったが、このままここで意地を張っていても
仕方が無いので1つの提案をする。
「ついて行くのは一旦保留。ここである程度の自己紹介は出来るだろ? 俺達も身分証明書を見せる」
そう言い出したハリドを後ろからジェイノリーがひき止めようとする。
「ハリド、そんなに簡単に俺達の身分を晒して良いのか? あいつ等はVSSEの名前を騙っているだけかもしれないぞ」
その問い掛けに、首だけジェイノリーの方を振り返ったハリドはグッと親指を立てる。
「刑事の勘さ。あの2人は本物のVSSEエージェントだって事が何となく分かる」
「もし偽者だったら?」
「その時は容赦無くぶっ潰す。それだけだ」
結局、その後の自己紹介でお互いに敵では無い事を認識してマイクロチップの受け渡しも終了。
キャップの男がVSSEの若手エージェントであるルーク・オニールで、黒髪の男がルークとコンビを
組んでいるパートナーのマーク・ゴダートだった。地下鉄が何故あれだけ綺麗になっていたのかと言う事は、
VSSEの本部から派遣されて来た後始末担当の部隊がすべて綺麗にしてくれた事がVSSEの2人から
語られ、朝まで人払いがされているらしい。
その後は観光の続きを楽しむ為にVSSEの2人と別れ、再びモナコの街中へと5人は繰り出して行くのであった。
完