Run to the Another World Battle Stage2第10話(最終話)


「え……く、口調変わってない?」

『アーフィリルと融合したからじゃないのか? でも、本当に1人で大丈夫なのか?』

「問題無い。無事にあの戦闘機から通信機も見つかって融合出来た。後は任せろ」

あの小柄で何処かオドオドしていた状態のセナとはまるで違う自信たっぷりのその姿に、由佳もグラルバルトも

唖然としながらセナを見上げる。

そして、そこからはもうセナの無双状態と言えるものになった。

まるで今まで融合出来なかった分の鬱憤を晴らすかの様に夜空へと舞い上がったセナは、両手に2本の剣を生み出して

一気にコンテナ倉庫街をコンテナごと吹き飛ばしに掛かる。

それだけでは無く、魔素のエネルギーを集約させた白い光弾を狙いを定めてまるで野球のピッチャーの様な剛速球で投げつける。


地上部隊がいとも簡単に殲滅して行くその様子に、 由佳が一言。

「こりゃ、反則ね……」

チートを日本語に訳したその単語を呟く由佳だったが、まだ戦いは終わっていない。

「でも、確かにこれで心配は無いわね。だったら戦艦の方に急ぎましょ!」

『分かった。私の背中に乗れ』

由佳はグラルバルトの背中にまたがり、戦艦まで一気に飛んで貰う。

ここに恐らくリーダー格が居る筈だと踏んでいるが、どうやって見つければ良いのだろうと悩む。

戦艦の甲板に着陸し、キョロキョロと辺りを見渡す由佳とグラルバルト。


そんな1人と1匹の前に、赤い長い髪を揺らしながら1人の女が現れた。

「予想通りと言うか……全く、予想以上の活躍ね」

「誰、貴女?」

一目見て由佳は直感した。この女こそがアーフィリルを連れ去り、セナに自分を犯人だと勘違いさせた女だと言う事に。

「私は強大な力を求めていてね。色々な世界を見て回っていて、あの白い竜とその契約者に興味を持ったので連れて来たのよ。

そして貴方達も違う世界で出会った仲の良いお友達らしいから、非常に絆は強そうだからね。

その強大な力、私の役に立てて貰えないかしら?」

女の問い掛けに対しての由佳の答えはこうだった。

「絶・対・嫌」

1文字ずつ強調する由佳は続けて理由を話す。

「話聞いてると私達を召喚したって所だろうけど、勝手に召喚しておいて、そして勝手な言い分ばかりじゃない。

人に物事を頼む態度じゃないし、私は貴女のせいであられも無い疑いまでかけられたし、協力する可能性はゼロパーセントよ」


その由佳の答えに、女は首を残念そうに横に振りつつ黒いコートに引っ掛けているベルトに取り付けられたロングソードを引き抜く。

「そう、なら仕方無いわね。召喚しておいて勿体無いけどあなた達もあの白い女も全員死んで貰うとしましょう」

女がそう言い終わると同時に、甲板上に配備されていた残りの戦闘機や砲台が一斉に始動し始める。

『この女は任せる。私はこっちの相手だ!』

それ等は全てグラルバルトが引き受けてくれるらしいので、由佳と女の実質タイマン勝負になった。

しかし、一斉に動き出した戦闘機の中の1機が由佳のスレスレを掠めて行ったので由佳に大きな隙が出来る。

それを女は見逃さず、由佳の引き抜いた日本刀を自分のロングソードで弾き飛ばす。

「くっ!」

更にロングソードを振るう女だが、由佳はその動きをまだまだ見切る事が出来る。


セナの鋭い突き込みを思い出し、同じく突き込んで来た女の腕を取って全力の背負い投げ。

「ぐぇう!?」

勢いそのままに背中から硬い地面に叩きつけられ、一瞬意識が遠のく程の衝撃を女は受ける。

それを由佳は見逃さず、女に弾き飛ばされた自分の日本刀を転がって拾い上げる。

そして女の方を振り向いた由佳はまだ女が立ち上がれずに仰向けに苦しんでいるのを見て、

その場からゴロンと後転して両手で女の胸目掛けて日本刀を突き立てる。

「げっ……!?」

思わぬ場所から思わぬ角度で突き立てられた日本刀に女は成す術も無く、そのまま絶命してあっさりと勝負がついた。


そして無双状態のセナは戦艦の方まで攻撃範囲を広げ、戦艦上の戦闘機や砲台を剣で切り裂き、

白い光弾を投げつけて戦艦を沈めてしまうまで破壊し尽くしてしまった。

「終わった様ね……」

『ああ……終わったな……』

戦艦が沈んで行くのを、港の端の方で見つめる由佳とグラルバルト。

主犯格の女は由佳の手によって倒した訳だが、この先一体どうすれば良いのだろうか?

どうやったら元の世界に帰る事が出来るのだろうか?

「さて……これからどうする?」

セナが融合状態のまま由佳とグラルバルトに聞いて来るも、答えが出ないまま1人と1匹は沈黙してしまう。


……が、その時由佳がある事に気がついた。

「ねぇ、あれ見て!!」

由佳の指差すその先。

爆発炎上して沈んで行く戦艦があった場所が、炎では無い光で眩しく光り輝き出した。

それを見た由佳が1つの予想を打ち立てる。

「……あの光に入れば、お互いに元の世界に戻れそうな気がするわ」

「それも直感か?」

セナのセリフに由佳は首を縦に振り、戦艦が沈んで行った穴を見つめる。


『じゃあ、一斉に一緒に飛び込むぞ』

ドラゴンの姿のグラルバルトの前足に抱きかかえられ、覚悟を決める女2人。

「セナ……」

「何?」

「どうもありがとう」

「……こちらこそ、感謝する」

礼を言い合った女2人とドラゴン1匹は、光り輝く水面へと港の端から飛び込んだ。



『……ナ、セナ!!』

誰かが自分を呼んでいる。

その声にハッと目覚めたセナは、ポンポンと自分の頭を叩くアーフィリルの前足に気がついてハッと身体を起こす。

「うう……え、あ……あれっ!? ここは……」

もしかして疲れてここで眠ってしまったのだろうか?

今までの事は全て夢だったのだろうか?

そう思うセナだったが、彼女の肩に何かがくっついているのがアーフィリルに見える。

それは……。

『セナ、その肩のは……?』

「えっ?」


アーフィリルに指摘されて、右肩に引っかかっている「それ」を手に取る。

それはこの場所に無い筈の、黄色い羽。

「……グラルバルトさん……? 由佳さん……?」

見知らぬ世界で一緒に戦った、あの見知らぬ1人と1匹の姿。

あの出来事が現実であったのだと認識したセナはアーフィリルを抱きかかえ、ふっと微笑んだ。

「さぁ、アーフィリル。夜ご飯にしよう!」

身体についた落ち葉を払い、セナとアーフィリルはレンハイム城の裏口へと戻って行くのだった。



そして由佳とグラルバルトは、何時の間にか首都高の横羽線の非常駐車帯に停車しているRX−8の中に座って呆然としていた。

「あ、あれっ!? グラル……バルト!?」

『どうやら戻って来た様だな』

ナビシートで冷静に辺りを見渡す人間の姿のグラルバルトと、ドライバーズシートで呆然としたままの表情の由佳。

今までの事は何だったのだろうか?

「ここまで私……運転して来たっけ?」

あのトンネルから少し離れた場所に停まっているRX−8だが、そのダッシュボードに見慣れぬ物が落ちていた。

『ん、これは……』

「あ、こ、これっ!?」


白い羽。鳥のものともまた違う、グラルバルトには見慣れた質の羽。

『ドラゴンの羽だ。そう言えば、あのアーフィリルは羽毛が生えていたな』

「そ……それじゃ……」

由佳のその先を促す様な言葉にグラルバルトはゆっくりと頷くが、1つ思い出した事があってガサゴソと

膝の上に載せていたコンビニのビニール袋を開ける。

『おでん……冷めてしまったな……』

せっかく温かいおでんを買ったのに、それだけの時間が経過していたと言う事の証明になってしまった。

それでも、由佳は何処かすがすがしい表情だ。

「おでんは冷めちゃったけど、私達の心と身体は熱くなったでしょ」

『……人間も上手い事を言うものだな』

そのセリフに感心したグラルバルトを横目で見て、由佳はゆっくりとRX−8を発進させた。



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