Run to the Another World Battle Stage第10話(最終話)


「この世界の掌握を僕は企んでいてね。その為には強い部下が必要だったんだよ。

だから召喚魔術を使ってみたら思いもよらない位強い人間がこうして2人召喚されたのさ。

それにここに辿り着くまでに色々協力して危機や困難や関門を乗り越えて来たじゃ無いか。君達は合格だよ」

「合格……ねぇ……」

ローザは物凄く呆れた表情で男のセリフを聞き終え、そんな呟きを漏らした。

「それで? 俺達はお前の部下になる資格が出来たとでも?」

ハリドの問い掛けに、男はパチパチと手を叩いて喜びの表情を見せる。

「呑み込みが早くて助かるよ。せっかく出来たこの資格、きっと役に立つと思うけどなぁ?」


だが、その男の問いかけに当然2人は従うつもりは無い。

「如何するよ、ローザ?」

「決まってるじゃないですか。拒否ですよ拒否」

「だってさ。彼女もこう言ってるし、俺も拒否する。さぁ、早く俺達をそれぞれの世界に帰してくれねえか?」

ハリドの申し出に、男はやれやれと首を横に振った。

「あのさぁ、今の僕の話を聞いてたかな? 君達はこの話を聞いてしまったなら、もう拒否権は無いんだよ?」

「それって自分勝手じゃないかな?」


真顔でローザが男に言うが、男は仕方が無いとばかりに槍を構える。

「ふぅん……2人とも仲間になるつもりは無いって事か」

「ああ、無いね」

「うん、全く無い」

「だったらここで2人とも死んで貰うしか無いよね。この計画がばれる訳にいかないし!!」

その最後の「し」を言い切ると同時に、何と男は右手から電撃を纏ったボールを魔法として投げて来た。

アメリカのメジャーリーガーにも引けを取らない程のスピード。推定155キロ位だろうか。

「うお!」

「くっ!」

そのボールを、それぞれ反対方向に転がって回避した異世界の男女も当然反撃に出る。

この場所は広いのでスペースはあるのだが、相手がどんな攻撃をして来るか分からない以上油断出来ない。


2人は別々の方向から攻める。

まずはハリドが駆け出して回し蹴りやパンチで男の気をそらしている所に、ローザが男の死角から気配を

消しつつ忍び寄って斬り掛かろうとする。

が……。

「甘いんだよ」

そう呟いて、助走をつけてハリドに向かってジャンプ。そしてハリドを蹴り飛ばしてその反動を使って反対側に

ジャンプし、ローザの胸目掛けて強烈なドロップキック。

「ぐぇ!!」

「くっ!」

その様子を見たハリドが男に駆け寄るが、素早い槍捌きでハリドを寄せ付けない。


正攻法じゃ無理だと判断した2人は、この短い間で培って来た連係プレイで男を倒す事に決める。

まずはハリドが一旦身を引いて、男の後ろから斬り掛かって来たローザが双剣術で男の槍に対して

上手く攻撃を合わせる。

なかなかのスピードだが、ローザに見切れないスピードでは無い。

それを見て、ハリドが男の後ろからゆっくりと近付く。

するとその時一瞬の隙を着いて男にローザが前蹴りを食らわせ、男の身体が自分の方に飛んで来た。

なのでハリドはその男の身体を上手く両手でキャッチし、後ろから抱え込む形でブリッジのフォームに素早く移行。

「うおりゃあああああああ!!」

これがいわゆるジャーマンスープレックス。プロレスの代名詞とも言えるテクニックだ。


「ぐぇ……」

うなじから落とされてしまい悶絶する男から素早く離れたハリドを見て、ローザは双剣を構えてダッシュからジャンプ。

そして両手のショートソードを逆手に持ち、男の心臓目掛けて墓標の様にドスッと突き刺した。

「がはぁ……っ!?」

大きく目を見開いて、そのままブルブルと痙攣した後に男はゆっくりと動かなくなった。

「はぁ、はぁ、はぁ……結構腕の立つ男でしたね」

「そうだな……。でも、俺達のチームプレイの勝ちだ!!」

ハリドとローザはお互いに目を見合わせて、勝利を喜び合って笑い合った。


しかし、男を倒したは良いものの一体これから自分達は如何すれば良いのだろうか?

「さて……これから俺達、如何する?」

「うーん……まずはこの建物から出る道を探した方が良いと思いますね」

「そうだな」

ローザの提案にハリドが同意したその時だった。

いきなり、自分達が乗ってきたあの丸いエレベーターが大きく光り出す。

しかしその光は今までの光と違い、白くて柔らかいまるで雲の様な光だった。

「うわ、何だぁ!?」

「えっ、何これ!?」

その光はまるで2人を取り込むかの様に、ゆっくりと2人を包み込んで行く。


何だかこのまま横になってリラックス出来そうな不思議な感覚を、死闘を終えたばかりの2人は覚え始めていた。

(あれ? 何だか、帰れそうな気が……)

この不思議な感覚の光の中で、ローザは何と無くそんな予感がした。

それはハリドも同様の様子で、直感的に別れの時が来た事を感じていた。

「……どうやら、ここで俺達の冒険は終わりみたいだな」

「そうらしいですね。短い間でしたけど、色々良い経験になりました」

「こちらこそ。ありがとな、ローザ!」

「こっちもありがとうございました、ハリドさん」

そのまま2人の身体は光に包み込まれ、そして光が収まった頃には男の死体を残して消え去っていた。


「……う……」

ローザは雨宿りをしていた砦の一角で目を覚ます。

(ここは……)

すでに外で地面を濡らしていた大雨は止み、天から太陽の光が降り注いでいた。

(ああ……戻って来られたみたいだね)

自分の世界に無事に戻って来られた事を確認したローザは、あの不思議な世界で一緒に戦った金髪の男の事を思い返す。

(ハリドさん、無事に帰れてると良いね……)

自分も無事にアサリーヴに戻る為に、砦から出たローザはその風が吹く街へと向かって歩き出した。


「うぐ……あ……ああ、あれ、ここは……」

ハリドも同じ様に、あのオーストリアのクラウディア砦へと戻って来ていた。

スマートフォンの時計を見てみれば、時刻はもうそろそろ夜明けになるかならないかと言う午前3時。

(はぁ……何だかどっと疲れたぜ……でも、あのローザの協力が無かったら俺は今頃死んでたかも

知れねーな。サンキューな、ローザ)

そう心の中で赤髪の女剣士にお礼を言って、予約していたホテルに向かう為にハリドも街の方に

向かって歩き出すのだった。



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