Run to the Another World Another Stage第16話(最終話)


しかしまだ終わっていない事があるので、岩村は再び捜索活動に戻る。

とは言っても、まだ海賊達や魔族のグループvs騎士団員や傭兵達のグループが戦っている

場所も含めてあらかた調べられる所は調べた。

となれば残るは……と岩村が目を向けたのは、魔族達が未だに現れているあのブラックホールの周辺だけだった。

(あそこに行くのか……)

何だか吸い込まれてしまいそうで気が引ける岩村だが、それでも調べていないのはそこだけなので行くしか無い。

少しずつ、吸い込まれないかどうかを確かめる様にして魔族を倒しながらブラックホール(?)に近づく岩村。


するとそのブラックホールの真下辺りの地面に、キラリと光る何かがあった。

(……何だこりゃ?)

岩村は穴の下辺りを覗き込んでみる。

するとそこには、何だか見覚えのあるギザギザした小さな穴があった。

それを見てハッとした顔つきになった岩村は、さっきヴァレントとのバトルで奪われまいとポケットに

しまい込んだセドリックのキーを取り出してそこに差し込んでみる。

(やっぱりだ!!)

スムーズにその穴に滑り込んで行くキーを見て、思わず岩村の口の端に笑みが浮かぶ。

そしてエンジンを掛ける時と同じ様にその穴に差し込んだキーを回してみると、そこから光が大量に漏れ出して来た。


「うお……っ!?」

思わずキーを握っていない左手で自分の顔を覆う岩村だが、そんな彼の周辺では紫色のオーラを

発していた魔族達が次々と煙になってシュウウ……と音を立てて穴に吸い込まれて行く。

「な、何だっ!?」

ティルを始めとしたバトル中の面々も手を止めてその光景に見入っている中で、何時の間にか

ブラックから金色に色が変わったホールに岩村は吸い込まれて行く感覚を覚える。

だけど、それでも岩村は不思議と怖さは覚えなかった。

「あれ……もしかして……」

帰れる?

そんな気持ちが岩村の心を支配して行く中で、最後に視界の片隅でシャルロが必死に

手を伸ばして何かを渡そうとしているのが見えた。

その「何か」を岩村が掴んだと同時に、彼の意識はブラックアウトして行った。


金色の穴に吸い込まれ、そしてその穴から発せられていた光が収まると宝物庫の中は

沢山の宝物が保管されている元の空間に戻っていた。

「一体、何が起こったんだ……」

ポツリとそう呟くストルグだが、ハッとした顔つきになって大声を上げた。

「……って、それよりも海賊達を全員捕まえろ!!」

その大声で他のメンバーも我に返り、海賊達の大捕り物が幕を開けた。

結果としてヴァレントを始めとするガルヴァーニ海賊団は全員逮捕され、2か月の間城の牢屋に

入れられる事になってしまったのだと言う。

そして宝物庫内だけで無く、王都中で猛威を振るっていた魔族達も同じ様に煙の様に消えてしまい、

最終的に国王のフリートから「この件に関しては終わった」との収束宣言が出されて「謎の魔族襲撃事件」は

幕を下ろしたのであった。


光に包まれた岩村は、ふと意識を取り戻すと自分が何処かに座っている事に気が付いた。

しかも自分の目の前に見えるのは首都高のパーキングの光景。

今までずっと眠っていた筈の場所で、気が付けば既に朝になりかけている。

(や、やばい……寝過ぎたか!?)

今までの事は一体何だったのだろうか? まさか全て夢だったのだろうか?

そう思ってまずはセドリックのエンジンを掛けようとしたが、その瞬間自分の腰に違和感を覚える岩村。

何だ? と思いながらズボンの背中側に手を入れてみると、そこには何と……。

「あ、あれ……?」

自分が太極拳で使っている武器が、何故かそこに挟まっている。

勿論こんな場所に武器を入れた覚えなんて無い。


プラス、ナビシートの上に何かが置かれている事に気が付く。

それはこんな物を置いた筈が無いと断言出来る、銀色に輝く小さな盾であった。

そう言えば視界の片隅でシャルロが必死に手を伸ばしていた時、こんな物を渡された気がする。

そして良く見てみれば、自分の服のそこかしこに黒ずんだ汚れが着いている。

(と言う事は、つまり……)

武器を腰から取り出して盾が置いてあるナビシートに置いた岩村は全てを悟り、セドリックの

エンジンを掛けて朝日が差し込むパーキングエリアから家路へとつく為にセドリックをスタートさせるのだった。



Run to the Another World Another Stage 


HPGサイドへ戻る