リレー小説第2部第4話(最終話)


世界、と言う単語にセバクターの目が見開かれる。

「何故、それ、を・・・。俺は確かに違う世界から来た。俺の住んでいる城の武器庫でこのカケラを拾ったらめまいがして、

気がついたらフィオーレに居て・・・そしてフィオーレ王女の元へ連れて行かれた」

切実に語るセバクターだが、これ以上の事は自分でもどうして良いか分からない。

「何で俺が違う世界から来たと分かった? まさか、前にそんな出来事があったのか? そして俺は元の世界に帰れるのか?」

「貴方を見ればわかるさ。僕のことも、おそらく幽さんのことも知らなかったのだろう。

自分で言うのもなんだけど、僕らはこの世界じゃ結構顔は広い方だからね。

それと前にそんな出来事があったのか、という話だけれど、結論から言えばその通りだ。過去にも違う世界から

人が来たことがあった。そして彼らは無事、元の世界に戻れている」


「成る程。だったら俺はどうすれば良い? もしかして、この迷宮に居る「何か」を倒すのが俺の帰る方法になるのか?」

と、噂をすれば影と言うのはどうやら本当だったらしい。

入り口から重そうな足音を立てて現れたのは、獅子の身体をしてはいるがその頭と首が3つ存在している怪物。

「・・・・あいつか、恐らく・・・ん?」

その背中には1人の完全防備の騎士団員みたいな人間が乗っている。

セバクターの見立てが間違っていなければ、この怪物はあの人間に操られているのだろう。

「…来たね」

フレアはそう静かに呟くと、腰に下げたレイピアに手をかける。

幽も同じく腕をくんっと回し、空中をピンッと弾いた。その行動でセバクターははじめて幽の武器が糸だったと気づく。

「また変わった武器を。だったら俺のこの傷もうなずける。・・・でもそれなら、あの背中の奴に届くか?」

「さあ…背中の奴は知らねーけど、下の奴転ばせるぐらいなら出来る…かな!」

セバクターも音を立ててロングソードを抜き、しっかりと頭の横に手を置いて刃を下に向けて構える。

「…あとでたこ焼き一週間分な」

そう言うや否や、幽は先ほどのように腕を何かを操るがごとく振り回す。

ひゅんひゅんッという音とともに、ケルベロスの身体中に切り傷が刻まれる。

幽の糸によってケルベロスは攻撃のチャンスを与えられない!!


その間にこっそりとフレアと2人でセバクターはケルベロスの尻尾側へと回り込み、フレアに手伝って貰う事に。

「すまん、王子様にこんな事をさせるのは気がひけるんだが・・・四つん這いになってくれないか。俺がジャンプして上の奴を蹴り落とす」

と、そこまで言いかけたセバクターだったがよくよく考えてみれば鎧を装備している自分の方が体重が上だと気がつく。

「あ、やっぱり俺が四つん這い・・いや、俺が両手を身体の前で組むから、その腕の上に乗ってくれ。

乗った瞬間に両手を振り上げるからそれでジャンプしてくれ」

「わかった」

と言う訳で幽がケルベロスの相手をしているそのチャンスを見逃さず、セバクターが両腕を突き出す。

「良し行け!!」


突き出されたセバクターの両腕に、勢いをつけタンっとフレアは飛び乗る。と、セバクターは思いっきり腕を振り上げた。

その反動を利用し、ぐっとさらに力を溜め、腕が頂点に達したところで勢い良く腕を蹴り飛びあがる。

空中でくるんと体勢を変えると、ケルベロスの上にまたがる人物めがけてレイピアを突き出す。

「ハアアッ!」

飛びあがったフレアがケルベロスの上にまたがっている人物を突き落とすのを見たセバクターはすぐに走り出す。

そうしてその人物が落ちてくる所をある程度予測し、ダッシュからのショルダータックルをかます。

それは見事にクリーンヒットし、上手い具合に突き落とした人物を今度は横方向に突き飛ばす事に成功。

「こいつは俺がやる。そっちはこのやばいのを頼むぞ!!」


フレアは了解と頷くと、幽の糸でうまく身動きが取れていないケルベロスのほうへ剣を向ける。

「さあ!お前の相手は僕だ!かかってこい!」

フレアの挑発にケルベロスは咆哮をあげると、フレアめがけて手足を振り下ろそうともがく。

が、フレアはそれをひょいひょいとかわすと、また挑発を繰り返す。

しばらく挑発を繰り返し、ケルベロスを暴れさせていると、突然ピン…と時が止まったかのようにケルベロスの動きが止まる。

否、動けなくなった。

「そんだけ暴れりゃあ糸はぐるぐる巻きになるよなあ…やっぱり魔物って馬鹿だわー」


一方のセバクターはケルベロスのライダーを相手にする。

ケルベロスのライダーはロングソード等の一般的な武器では無く、長くて大きな斧。

リーチでは当然かなわないが、重い分だけ何処かに隙が見えそうだ。

だが油断は禁物とばかりに、なるべく冷静さを保って相手との距離感に注意する。

(出来れば一撃でしとめたいが……いけるか!?)


一方ケルベロスはあちこち動き回るフレアを追いかけようともがいたせいで、ますます糸で絡まってしまっていた。

思わず情けない声を上げるが、そこを幽が見逃すはずもない。

「暴れんなよ、すぐ楽にしてやるからよ」

幽が両腕をばっと勢い良く胸の前で交差させると、ピンと糸の張る音が響き渡った。

刹那、ケルベロスの体が一瞬で細切れになる。

「…相変わらずキワどいねえ、君の暗殺方法は」

「なんとでも言えー。あとでたこ焼きな」


セバクターは相手の斧をかわしながら、その斧が振り切られた所で刃の部分では無く柄の部分を

目掛けてロングソードを振り下ろす。ガッと鈍い音を立てて斧の柄が切断され、それに戸惑うライダーの

足元目掛けてひょいと足払い。派手に仰向けにすっ転んだライダーを見据えながら、そのまま1回転して

立ち上がりつつロングソードを両手で構える。そしてそのまま立ち上がった姿勢から前に向かって重力を

味方に倒れこむ。ロングソードの柄を逆手持ちにしながら前へ倒れこめば、その先に起き上がろうと

していたライダーの仰向けの胸にロングソードが突き立てられた。


「そちらも片付いたようだな」

まるで墓標のようにライダーから伸びる剣が、全てが片付いたことを静かに表していた。

その剣を持ち主であるセバクターがすっと抜き、パッと一振りし血を振り払う。

「そっちはそっちですごい事になってるな。だが、この旅もどうやらここで終わりの様だ」

そう言いながらセバクターが壁画の方に視線を向ける。

他の2人も壁画に視線を向けると、壁画が何時の間にか青白い光を放っていた。

「実は俺、あんたに見せたカケラとフィオーレの王女様に見せたカケラは違うんだ」

先程幽に見せたカケラを右手に、ジョゼファに見せたカケラを左手に乗せて2人に見比べて貰う。

「こっちがフィオーレに行く途中の砦で拾ったカケラ。で、左手のが俺の帝国の武器庫で拾ったカケラ」

それを見せながら、セバクターは壁画の方を向いて「恐らくは……」と呟いた。


「おそらくは、なんだよ?」

はっきり言えよとやる気のなさそうにため息をつく幽の横で、フレアはなるほどとセバクターの言いたいことを理解した。

「その両方をそこの壁画にはめれば、元の世界に戻れるかもしれない、ということだな?」

はあ!?と横で幽が素っ頓狂な声を上げたが、とりあえず無視することにした。

「なら1つずつ頼む」

セバクターはカケラをそれぞれ1つずつ渡し、自分は壁画の前に立つ。

「……この世界に来て、良い事も悪い事もあったし、短い間だったけど楽しかったかもしれない」

あとは元の世界に帰れれば良いんだけど、と苦笑いを漏らしながらセバクターは言う。

「それじゃあ、はめ込んでみてくれ」

二人は顔を見合わせ頷き、セバクターに促されたとおりに壁画のくぼみにカケラをはめ込んだ。

すると、パアッと壁画の光が強くなる。そのまま光はセバクターを飲み込んでいった。

「…どうやら無事に戻れそうだな。向こうでも達者でね」

フレアはひらひらとセバクターに手を振った。幽は何も言わず、ただじっとセバクターを見つめていた。

…最後までやる気のなさそうな顔で。


光に包まれたセバクターはその光が収まると、自分がいまだに城の武器庫に倒れているのに気がつく。

(夢……だったのか……?)

それにしては何だかリアル過ぎる夢だったなぁと思いながらも立ち上がったセバクターだったが、自分の服の状態を見て驚く。

「えっ……」

思わずそんな声が口に出てしまう程セバクターが驚いた事。

それは自分の服が、あの幽の糸によって細切れに沢山傷をつけられていた時のままの状態だったからだった。

それを見たセバクターは1度無言で大きく頷くと、立ち上がって武器庫の出口へと歩いて行くのであった。 



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