Outsider fighting Quest第3部第9話(最終話)
2人の手首に手錠を掛けてバトルを終えた大塚の耳に、バタバタとドアの外から足音が響いて来る。
(なっ……)
まさか王国騎士団の連中か!?と思って身構える大塚だが、現れたのは全く別の人間だった。
「フェレーク、ファルテレオ、無事!?」
丁度良いタイミングで宝物庫に飛び込んで来たのは、何と宝物庫に向かった大塚の事を騎士団に伝えたミャルマスだった。
彼女の登場に大塚だけでは無く、フェレークとファルテレオまでビックリした顔つきになる。
「おっ、御前……どうしてここに!?」
「どうしてって……宝物庫に向かったのがフェレークとファルテレオなら私が来て当然でしょ? それよりも……」
そこで一旦言葉を切ったミャルマスは、今まさに棚の上に向かって脚立を使って上っている大塚を見て不敵な笑みを浮かべた。
「上手い事やったみたいだけど、私が騎士団の人達を呼んだからすぐに駆けつけるわよ?」
「あー、そうだな……だったら俺はさっさと元の世界に帰るよ……そいつ等はやっぱり強かったけど、もう2度と会う事も無いだろうし」
フェレークとファルテレオを倒し、お目当てのアイテムも回収した大塚がそう言いながらキーシリンダーに
S2000の鍵を入れて回した次の瞬間、いきなり大塚の身体がまばゆく輝き始めた!!
「うわっ!?」
「うおお!?」
「くっ……!!」
思わず目をつぶって光のショックに耐えるフェレークとファルテレオ、そしてミャルマスの目の前で大塚は光に包まれて行く。
そして再び3人が目を開けてみれば、その大塚の姿と光は忽然と宝物庫の中から姿を消していたのであった。
そんな3人は城の中での片づけが終わっても、まだまだ休息は貰えそうに無かった。
「あー、もう疲れたー! 休みたいぜー!」
「駄々をこねる暇があったら手を動かせ」
「何で私まで……」
「しょうがないだろう、あの3人を俺達は逃がしてしまったんだから」
騎士団員のフェレークと傭兵のファルテレオのみならず、ミャルマスまでもが騎士団の宿舎の雑巾掛けを命じられたのだ。
あの因縁の相手である大塚を逃がしてしまっただけに終わらず、城の中で騒ぎを起こした事の全てをひっくるめた罰が、
この騎士団の宿舎全フロアの雑巾掛けである。
「まぁ、でも私の創作のヒントがまた得られた気がするから良い様な気はするわね」
雑巾を絞りながらそう呟くミャルマスに呼応するかの様に、フェレークはキリキリと胃が痛み出した気がした。
「はぁ……」
「おいおいフェレーク、どうしたんだよ溜め息なんて吐いちゃってさぁ? あれだけ派手にやっていて
これだけの処罰で済んでいるからありがたいと思わなきゃさ!」
バシバシと彼の背中を叩いて景気付けるファルテレオに対し、フェレークは窓の外の月夜を見上げて再び溜め息を吐くのだった。
「はぁ……はっ!?」
エンレデドレイ王国の追撃を退け、何とかアイテムも取り返して光に包まれた大塚が気がついてみると
そこはS2000の中……では無く自分が借りているアパートの部屋の中だった。
「……あれ、俺何時帰って来たんだ?」
思わず呟きながら起き上がってみて、とりあえずテレビをつけてみる。
(……一応、あのパーキングで一休みしてから帰って来たらこれ位の時間にはなる……よな?)
テレビでは何時も大塚が目を通している朝のニュースが放映されており、朝刊も手元に置いてあった。
それじゃ自分は何時の間にか目を覚まして、何時の間にか帰って来てしまったのだろうか?
そう思いながら大塚は一旦自分の部屋の外へと出て、アパートの裏にある駐車場へと向かってみる。
そこには長年乗り続けている愛車の黒いS2000が、朝日を受けてキラキラと光っていた。
しかしそれよりも気になる事は、泥汚れや埃汚れがボディに一切ついていないのだ。
(洗車……したっけ?)
この所徹夜続きで洗車をする暇なんか無かった筈なのに……と思いながらも、何か変わった様子は
無いかどうかをS2000の周りをグルリと1周して確かめる。
(特に変わった様子は無いな。キーもインロックしてないみたいだし……って!!)
そう言えばあのキーを回して自分は光に包まれた筈だ、と思い出した大塚はゴソゴソと自分のズボンのポケットを探ってみる。
そうしてみると右のポケットからジャラリ、と音を立ててそのキーが出て来た。
(俺、夢でも見てたのかな……?)
それとも夢遊病の人間みたいに、自分の知らない無意識の内に帰って来たのだろうか?
それだったら良く事故をしなかったな、と苦笑いをしつつ大塚は自分の部屋へと戻る。
首都高からあのフェレークとファルテレオの世界に2回も行ってたから、ショックが大き過ぎて
余りにもリアルな夢を見ていたのだろう……と結論付けた。
だがそんな大塚がズボンの左のポケットを探ってみると、そこには紙の感触が。
「ん?」
何か入れたっけ? と思いながらゴソゴソと紙を取り出して広げてみると……!!
「あ……こ、これって……」
それは何と、あのエンレデドレイ城の見取り図だったのである。
「ははっ、はは、は……」
どうやら夢では無かったらしく、前回と同じ様に朝を迎えた地球に無事に戻って来られた事に感謝しながら
「もう2度とあの世界に行く事は無いだろう」と考えて大塚は久々の休日を楽しむ事にした。
Outsider fighting Quest第3部(ファイナルステージ) 完