Future World Battle第3部第25話
フォークが床に落ちたその頃、マドックはティアナの尾行を続けてショッピングモールの中へと辿り着いていた。
ショッピングモールと言っても営業中の場所では無い。
郊外にある、既に廃墟となっているショッピングモールの「跡地」と言う方が正しいだろう。
そのショッピングモールの跡地にティアナはタクシーに乗ってやって来た。
マドックはそのずっと後ろから、ティアナの行き先と同じ方向に別のタクシーで追跡を続けていたのである。
その結果、郊外にある巨大ショッピングモールの跡地までこうしてやって来た。
ヴェハールシティの市街地からかなり離れているのだが、その分駐車場もかなり広いし
敷地面積も広大で建物自体も大きい。
それだけの規模の敷地が廃墟になっているとなれば幾らでも兵器の開発や麻薬の精製等が出来るし、
郊外の廃墟と言う事で市街地で寒さや上を凌ぐ方が楽だからホームレス等も寄り付かないし、
警察だって市民からの通報や周辺住民からの要請が無い限りは場所が場所だけにパトロールもしない。
つまり、悪党がアジトにするにはまさにうってつけの場所だと言えるのだ。
あの駐車場での取り引き内容は大量の麻薬と武器、そして爆薬と言う内容だった。
麻薬と武器まではまだ分かるのだが、爆薬は一体何に使うのだろうかと言う疑問がある。
それを確かめる為に、あのティアナとか言う女を尾行してこうして郊外まではるばるやって来たマドックは
ニコラスに端末のメッセージ機能を使って連絡を入れておく。
(あいつの方は上手くやってるのか?)
自分の事もそうなのだが、ニコラスから今後もたらされるであろう情報についても気になる所である。
となればこちらはこちらで、あのティアナとか言う女が一体何をしようとしているのかを確かめなければいけない。
(ニコラスの情報によるとまだ20代中盤って聞いてるからな。そんな年頃の女がこんな郊外の
ショッピングモール……それも廃墟になっている様な場所にわざわざ足を運ぶか?)
この行動だけでもかなり怪しい。
場合によっては捕まえて事情を聞き出す必要があるかも知れないと考えながら、マドックはズボンとパンツの
間に挟んである自分の愛銃であるCZ75を改めて確認してショッピングモールに向かって歩き出す。
……前に、用心深い性格のマドックは腕時計型の端末を使ってまずは内部の様子を
ホログラム形式のサーモグラフィーで映し出す。
(敵に囲まれたらそれこそそこで終わりだからな)
だから事前のリサーチをしておくに越した事は無いので、マドックは腕時計型の端末を
ショッピングモールの廃墟に向けてスイッチをON。
するとそこには驚愕の事実が映し出されていた。
「……何だ、これは……」
思わずそう呟いてしまうのも無理は無い。
廃墟となっている筈のショッピングモールの至る所で熱反応がある。
それもサーモグラフィーの形から見て明らかに人間ばかりだ。
こんな廃墟で数多くの人間が活動していると言う事実が、このサーモグラフィーに映し出されている。
ティアナの件と言い、この場所の実態はますます怪しい。
マドックはそのサーモグラフィー越しに見える人間達の動きをじっくりと観察してみて、大体どんな事を
やっているのかと言うのを予想してみる。
(廃墟となっている筈ならここは勿論営業していない筈だ。それなのにこの大人数か……。1階から3階部分まで
まんべん無く人員が配置されている所を見るとかなりの大人数だと言う事に間違いは無いな)
これだけの大人数が集まって何かをやる。
それも、廃墟になっているショッピングモール全域を使用していると言う事はそれだけ大掛かりな「何か」をやろうとしていると言う事だ。
(もし改装工事をやっているのであれば、きちんとそれなりの許可を貰ってやっている筈だしその旨を記した
案内板もこの辺りに出ているだろう。それから新聞の片隅やニュース等でもチラッと流れる可能性もあるしな。
だけどそう言った改装工事の案内は少なくとも俺は聞いてないし見た事も無いぞ?)
特に出動が何も無ければ、朝はギルドのオフィスで新聞を読んで情報収集するのがマドックの日課である。
だからこうした改装の情報等は色々と頭に入れているつもりなのだが、その自分が知らない改装の
情報もあるのだからここは1度確認をしておくべきだろうと思ってしまう。
ここにフランスの刑事が足を踏み入れるのは何かまた別の理由があるのかも知れないし、
まずはやっぱり確認をしてから……と思って再度ホログラムに目をやる。
(同じ場所を行ったり来たりしている人間も居るし、立ち止まったままの状態で何か作業をしている
人間も居るし……改装工事と言われれば改装工事だが、裏づけを取るに越した事は無いな)
なのでなるべくショッピングモールの位置から目立たない場所でヴェハールシティポリスの情報部に事実確認を
始めるが、そんな彼の目に次の瞬間あるものが映った。
(ん、あれは……)
ショッピングモールに向かって来る1台の車。
それはマドックの記憶に新しい、あの駐車場の取り引き現場奇襲の時に見かけた赤のBMWのM2クーペだったのだ。