Future World Battle第3部第10話
開発部のエンジニア達に再度パワードスーツの検査を依頼して、マドックに事件の後処理を任せた
ニコラスは再びルイーゼとのデートに戻る。
と言っても朝に自宅を出発した筈の1日は、もう既に日が暮れかけていた。
「何かせっかくの休日なのにくたびれちゃったわね」
「それでも1つの事件を解決したんだから良いじゃないか。ルイーゼがあのタワーの事を言ってくれなかったら、
今頃あの連中が何かもっと大きな問題を引き起こしていたかも知れないんだからな」
だから事件解決のお祝いに、ディナーはルイーゼの故郷であるドイツ料理が味わえる
料理屋にでも行こうか、と誘うニコラス。ルイーゼもルイーゼで、自分の生まれ育ったドイツの料理は
しばらく食べていなかった事もあって2つ返事で賛成する。
この街の事なら何でも知っていると自負しているニコラスは、お勧めの料理屋を検索無しで
すぐに見つける事が出来た。と言っても、その料理屋は昔ニコラスが担当した事件現場の
すぐ近くだったので覚えていたと言う理由からだった。
ありとあらゆる所で事件が起きるのも、こうしたウォーターフロントのいわゆる「近未来都市」と
言われる開発が進む街だからこそである。
それでもそんな近未来のウォーターフロントシティでの癒しを求め、イースデイル夫妻は
そのドイツ料理店へと足を運んだ。
「お前もドイツ料理は余り作ってくれなかったな?」
「うん、なかなか仕事が忙しかったから、料理自体をする暇が無くてね。でも一応実家に居る時はお母さんの
手伝いとかしてたから、ドイツ料理ならあたしも作れない事は無いわ。今度休みが取れたらあたしが作るわよ」
「それは楽しみだ。……さて、実は俺もこの店は外から見た事があるだけでドイツ料理の事に関してはまるでさっぱりだ。
ビールとソーセージが有名なのと、後はジャガイモが有名って事位しか知らないぞ」
それを聞き、ルイーゼはふぅん……と気の抜けた返事をする。
「だったら事情聴取じゃないけど……色々教えてあげるわ。確かにジャガイモが有名だけど
風土的に食物自体が不足しがちだったから、色々と工夫してソーセージとかの保存食品を作ったのよ。
マリネやザワークラウトもそうね。それから……ドイツには「女の子はジャガイモを使って、そのジャガイモで
フルコース料理が作れる様になる事。それがお嫁に行く為の条件」と言うのが言い伝えだったりするわ」
「……本当の話か?」
「ええ、本当よ。それ位ジャガイモは、あたし達ドイツ人にとっては食糧不足を救ってくれた英雄みたいな存在だからね」
でもドイツ人が毎日ジャガイモを食べてる訳じゃないわよ、と最後に締めくくったルイーゼは
テーブルの上に置かれていたメニューを開いた。
その後もドイツ料理の説明と作り方等をルイーゼから聞きながら、ニコラスはビール片手にドイツ料理を楽しむ。
ドイツ料理屋に行くと言うのはこの店に来る途中に決めた事だが、ディナーで酒を呑むのはデートの前に
決めていたので事前に愛車のチャージャーは第5分署の駐車場に止めさせて貰っていた。
ここまでは地下鉄を使ってやって来たし、あろう事か警察官が飲酒運転なんて絶対に
してはいけない事だとニコラスもルイーゼも勿論分かっている。
だからこうして地下鉄と徒歩で料理屋までやって来たのだが、このディナータイムの後にこの2人は
自分達の目を疑う光景を目撃する事になるのだった。
その頃、事件の後処理を終えてマドックは一息ついていた。
眠気覚ましのコーヒーをすすりながら、事件現場から押収した証拠品の整理も済んでいたのでやっと
自宅に帰れる……と安心していたのだが、そんな彼の元に1枚のメモがやって来た事から
まだまだ帰れなさそうな状況になっていた。
(もう勘弁してくれ……)
それなりの規模の事件を解決した後なので、幾らヴェハールシティ最強部隊の刑事の1人と
言われていても疲れが溜まっているからさっさと自宅でシャワーを浴びたいマドック。
そのメモと言うのは、10ピクセル位のフォントサイズの文字で書かれている文章。
しかし、その文章の内容と言うのがどうもおかしい。
例えば1番上の段には「今日は晴天に恵まれていた天気だった」と書かれていて次の段に文章の
先頭が移るのだが、次の文章は「回転する車輪には手を触れないで下さい」と言う一文が書かれている。
その次も、そしてその次も同じ様に前の文章とは脈絡の無い文面が続いているので、これは怪しいと
思った警察ではそのメモの内容を解読する事にしたのだが、結局マドックの所に来るまで
さっぱり意味が分からなかったそうである。
だからこうしてマドックがメモの解読を頼まれたのであるが、マドックもこの繋がりの無い文章の
羅列メモが何なのかさっぱりだった。
(何かの暗号か? それともただ単に気になった事をメモしているだけなのか?)
そして更に気になる報告もマドックの元に寄せられている。
それは、このメモがあのタワービルでニコラスが見張っていた取り引き現場のホールの壁に
「目立つ様に」テープで貼り付けられていた事だった。