Future World Battle第2部第16話
もしかしたらこれは有力な情報かも知れない。
だったらその改造車の集会場に行ってみようと考えつき、マドックもニコラスも警備担当者に
情報の礼を言ってマスタングに乗り込んだ。
「交通課の奴等に連絡をしておこう」
「頼むぞ。もしかしたらその改造車に乗っている人間達の中にも、車を盗まれたって言うのが居るかも知れないな」
ナビシートで端末を駆使してニコラスが交通課に連絡を入れるのを横目で見つつ、マドックも
これから先の事を考える。
(俺をあの時拉致した奴等も、そう言えばスポーツタイプの車に乗っていたな。もしかしたら
その集会場に現れる可能性もありそうな気がするが……)
それはあくまでも1つの仮定にしか過ぎない。
でも、そう言った可能性が少しでも考えられるのならそれは手掛かりになるかも知れないので行ってみる価値はあるだろう。
刑事である以上、どんな小さな手掛かりでも事件解決に繋がる可能性があるのなら徹底的に調べる。
マドックもニコラスもこの考えは全く同じである。
2人の捜査スタイルの違いは、マドックが色々と可能性をシミュレートしてそれに従って行動するのに対し、
ニコラスはその執念深さから1つの事件を解決するまで絶対に諦めない行動派であると言う事だ。
だがあくまでも今のニコラスはマドックの補佐と言う立場なので、アドバイスは出すにしても最終的な判断は
マドックに任せる事にしている。
そんな2人の気持ちは今の所、港湾区域へと向かってその改造車が集まりそうな場所の目星を
付けておくと言う事で一致していた。
車の事は全くと言って良い程分からない2人ではあるし、あの右ハンドルのスポーツカーに乗っている集団の中に
そうした改造車好きの人間が居るのであれば、そうした集会の場所に現れないとも言い切れないだろうとニコラスは考えた。
それをマドックに伝えてみると、当のマドックは違う角度からのアプローチでその右ハンドルのスポーツカーの
連中の行動を予想してみる。
「そうだな……俺の考えはまた違う」
「へえ、なら言ってみろ」
「右ハンドルのスポーツカーって言うのは、このアメリカではかなり目立つ存在だ。それこそどの街でもな」
「ああ。左ハンドルがこの国では常識だからな」
既にこれは有力な手掛かりとなっているが、ここから先がマドックの予想だった。
「そんな目立つ車であえて行動しているって言う事は、レンタカーを借りればそれで足が付くのを避けるつもりだろう。
それに幾らこのヴェハールシティの交通網が発達しているからと言っても、車が盗まれているのはシティ全域に
及んでいるとの情報だ。その中にはバスや地下鉄等の公共交通機関でも移動が不便な場所にあるし、
その上俺達とあの右ハンドルのスポーツカー集団とは人種が違う。
アジア系人種がアメリカにもそれなりに入って来ているとは言え、白人や黒人と比べればその数は少ない」
そこまでマドックが言うと、ニコラスもその先の推理の予想がついた。
「つまり公共交通機関を使うと人種の違いで目立つし、レンタカーも借りられないけどヴェハールシティは
かなり広いから、何かしらの移動手段は絶対に必要だって事か」
マドックはニコラスの考えに頷いて、自分の推理の続きを話す。
「ああ。それから飛行機でこの街の空港に降り立てば、パスポートやらの手続きでも身元がバレてしまう。
今はパスポートも偽造が出来ない様に本人確認の指紋認証や音声認証、パスワードの設定と細かく申請するのが
義務付けられる時代だし、少しでも不審な点があれば偽造パスポートの疑いと言う事でほぼ100パーセント
見抜けるから、そう言った事からでも足が付くだろう」
これから犯罪行為をしに来たのに、わざわざ本物のパスポートを見せて足がつきやすくする犯罪者は考え難い。
「だから、残りの可能性で考えられるのは……」
「船だけって事か」
このヴェハールシティにも港がある訳だし、船で直接アプローチする事も出来るからその線が濃厚だ。
他の街の港に上陸して、そのまま車で移動してこのヴェハールシティまでやって来た可能性も否定出来ない。
だけどやはり、姿を長く見られる事を嫌うのであれば船でこのヴェハールシティの港にアプローチして仕事を終え、
そのまま船で帰るのがリスクが1番少ないと考える。
「何れにせよ、まだまだ手掛かりが足りないから断定は出来ないな」
「ああ。今はとにかくあの右ハンドルのスポーツカーの奴等を探し出す事だ」
マドックもニコラスもその考えは同じ。
このヴェハールシティは自分達警察官が守らなければいけない。それが警察官の仕事だからである。
しかし流石に自分達が法律だ、等と言う様な馬鹿げた事を言うつもりも無い。自分達は犯罪者を捕まえるのが
仕事で、犯罪者を裁くのはまた別の人間達の役目なのだ。
この街の平和を守る為に警察官になったそんなマドックとニコラスの目の前には、さっき有力な手掛かりを
手に入れた倉庫街から近い場所にある、その港湾区域のゲートが見えて来ていた。