Run To The Another Worldエピローグ2
全ての事件が一気に解決し、霧も晴れたヘルヴァナールにおいてはその霧に包まれていたゼッザオが再び姿を現した事と、
文字通りその隣にくっつく形で古代都市のアイリラークが陸地として現れた事で新たな時代の幕開けが予想されている。
ゼッザオにおいては盗賊団の「闇から現れし龍撃剣」のメンバー4人に、ラーフィティア出身だったと言うエスティナ、それから今までに
出会った伝説のドラゴン達が暮らす事になった。「闇から現れし龍撃剣」のメンバーはこれを機に盗賊から足を洗う事に決め、
ゼッザオのメンバーとしてゼッザオに住みながら、エスティナの提案で旅行会社を設立する事に。
そしてゼッザオは最終的に、人間と竜族が共存する国として発展させて行く事を竜族のリーダーであるイークヴェスが約束したのであった。
それからハリドが宣言した通り異世界のメンバー達は、ゼッザオを含めた10ヶ国の何処にも属さずに地球人のグループとして新しく出現した
あの古代の文明がある古代都市アイリラークのダウンタウンにそれぞれ住みつつ、1年間こちらで暮らして行くと言う約束を各国と結んだ。
そこから毎日ゼッザオの城で各国から派遣された研究者達や騎士団員にその色々な地球のテクノロジーや政治経済、それから武術について
それぞれのメンバーが講師となってゼッザオの城に赴いて、転送装置でゼッザオにやって来た
各国のメンバーに一気に教える事で各国に赴く手間を省けば効率も良くなると言う話になった。何か大きな器具が必要になった時も
移動する距離が短くて済むのでヘルヴァナールのメンバーも納得してくれた。
また異世界人35人が何をどうやって教えて行くのか話し合った結果、
全部で5つのチーム、それぞれ7人ずつに分かれて教えて行く事になった。
メンバーの内訳としてはまず武術、警察・軍事知識が和美、真由美、明、栗山、橋本、ハリド、サエリクスの7人が担当となった。
それから世界史や政治、経済や法律については岸、恵、弘樹、兼山、陽介、由佳、淳の7人がそれぞれが担当だ。
建築技術や生産技術等は流斗、周二、岩村、ハール、藤尾、バラリー、アイトエルの7人になった。
医療技術や機械テクノロジー等は連、哲、令次、大塚、アレイレル、博人、ジェイノリー等7人の担当である。
遊びや文化に関しては永治、洋子、グレイル、ディール、孝司、和人、浩夜の7人が担当して教えて行く事になる。
異世界での生活はこうして始まり、その後は色々波乱万丈な生活になりつつも何とか1年間を異世界のメンバーは過ごす事に成功。
更にゼッザオの5人組は旅行会社を設立して、今はヘルヴァナールで唯一の世界一周プランを掲げる旅行会社として大忙しだ。
そしていよいよ地球へと帰る時になったのだが、地球人達にはどうしてもイークヴェスに聞いておきたかった事があった。
「何故、俺達をこの世界へ呼んだんだ」
博人の問い掛けに、黒いドラゴンのイークヴェスはゆっくり口を開いた。
『御前達の様に、強い繋がりを持つ人間達が必要だったからだ』
「繋がりだって?」
きょとんとした顔つきで孝司がそう聞くと、イークヴェスはそれに深く頷いた。
『そうだ。御前達30人は強い繋がりを持っている人間だった。だから御前達を余はこの世界に呼んだのだ』
「でもさー、それだったら俺等じゃなくても良いんじゃないの? もっと他に沢山居るだろ?」
『そうそう、たとえば同じ会社の人間達ばかりのグループとか、学生時代の同窓会のメンバーとか、サークルの仲間とか、
スポーツチームのメンバーとかもそうだよ。何で僕達なの?」
そんな淳とハールの問いかけにイークヴェスはこう答えた。
『まず、余り人数が多すぎるのは却下だ。目立ちすぎて行動しにくくなってしまう。それが1つ。それからまだ学生の奴等は
そちらの世界では社会経験が無い者達が多数だからそれも駄目だ。後は真面目な日本人が多く居るグループが良かったと
言う事もある。真面目だからこそ、何としても元の世界へ帰ろうとする者達が多く居たのがその印だろう。後は色々なスキルが必要だった。
同じ会社のグループだと使えるスキルが限られて来るし、学生は若い者が多い反面スキルを持っていないものも多い』
「そうかしら? そうとも言い切れないと思うけど」
和美の否定する様な態度にもイークヴェスは顔色を変えない。
『まぁ最後まで聞け。御前達30人はそれなりに年を重ね、尚且つ色々なスキルをそれぞれ持っている。そしてその中の1つのスキルを
極めた人間達であろう?』
「車のスキルの事ですか?」
令次の問い掛けに、待ってましたとばかりに黒いドラゴンは首を縦に振った。
『そうだ。そしてそのメンバーが丁度1箇所に集まっていた。1箇所に集まってくれないと転移させるのは難しかったんだ。余でもそうそう
頻繁に転移魔術が使える訳では無いのでな。その条件に合致して、尚且つ御前達がああしてあの場所に集まっていた。
その偶然が余にとって最も都合が良かったんだ』
しかし、ここで納得の行かないチームリーダーが手を挙げる。
「待ってくれ。だったら俺達は何なんだ? 俺達は別に人数も多くなければドライビングテクニックもこっちのメンバー達より
上手くない。当てはまってるのは年食ってるって所と、同じヨーロッパ地方から来たって事、そして古い繋がりって所しか無いだろ?
さっきから30人、30人って俺達だけ省かれてるしな」
残る5人の異世界人チームのリーダーであるハリドは、若干イライラしながら理由をドラゴンに尋ねる。
するととんでもない事をドラゴンが言い出した。
『……事故だ』
「は?」
『御前達は……ただ単純に、巻き込まれたんだ。こっちの30人に。余は30人だけを転移させるつもりだったんだが、魔力を
溜めている時に御前達がこの30人と一緒に居て、そして転移した時に巻き込んでしまった』
そのイークヴェスの言い草にハリドの顔が怒りに歪む。
「何だよ、それ……。だったら俺等はいらねぇ奴等扱いか?」
だがドラゴンは首を横に振る。
『最初はそう考えていたんだが、この世界で残りの5人は思った以上の活躍をしてくれた。感謝する』
おかげでこの古代都市アイリラークもヘルヴァナール人が見つける事が出来たしな、と続けるドラゴンの前にハリドが立った。
「ほーう、そうかい。だったら俺から1つ言いたい事がある」
『何だ?』
「だが、俺はあいにく感情表現が……苦手でねっ!!」
ぎゅっと拳を握り締め、人間の姿のイークヴェスの顔面をハリドは思いっきり右ストレートパンチで殴り飛ばした。
『ぐおっ!?』
「あースッキリした。さぁ、こいつが起きたら俺達を早く元の世界に返して貰うとするか」
思わぬパンチを顔面に食らって気絶してしまったイークヴェスを見下ろし、ハリドは右手をブンブンと振って
痛みを逃がしながらそう呟いた。
そうして35人の異世界人達は気絶から回復したイークヴェスと、その配下のドラゴン6匹によってヘルヴァナールから地球へと帰還を果たした。
地球に戻った時には、あのトリップした日時の僅か1時間後の時間に同じ場所に戻してくれて35人の異世界トリップの物語は終わりを告げた。
しかしせっかくヨーロッパの人間達と出会ってこうして大冒険を繰り広げたので、まずはメールアドレスを交換したい人間のみで互いに交換。
その後、英語が喋れる日本在住のメンバーでスケジュールの空いていたハール、真由美、グレイルの3人が東京観光に案内するとの事で
ヨーロッパの5人は大いに東京観光を楽しんで帰国していった。
これが最初で最後の、35人の異世界人が異世界を駆け抜けた物語
「Run To The Another World」である。
「Run To The Another World」 完