FCOバトル・イン・ジャパン!! 10(最終話)


「ふふふ……FCOが動いているとは聞いていましたが、まさか本部のエージェントが来ているとは驚きましたよ」


70階で待ち構えていた男。

それはこの事件の主犯であり、長いオールバックの青髪で細身の眼鏡をかけている痩せ身の若い西洋人だった。

男の手にはそれぞれ大きめの軍刀とサブマシンガンが握られている。


「まさかこのランドマークタワーを全て制圧して来るとはね……正直、驚きましたよ」


丁寧な言葉で喋って来る男だが、どこか得体の知れない威圧感があった。

更に動くには不向きと思われる黒のロングコートを纏い、仁王立ちしているその姿には、まったくと言って良いほど隙が無かった。


「お前がボスだろ!!」


エレスが指を差して叫ぶと、眼鏡の男はその眼鏡を外して懐にしまいこんでにこやかに微笑む。


「ええ、そうです」

「やけにあっさり認めるものだな。……まあいい、認めたなら話は早い。なぜこの横浜を戦場にした? お前の目的は何だ?」


鋭い目つきでクレイグが問いかけると、男は薄ら笑いを浮かべながらその質問に答える。


「復讐ですよ」

「復讐だと?」

「ええ。以前、私はアメリカのバーチャシティと呼ばれる地方都市でミサイルの発射実験をしようとしていました」


だがそれは、そのバーチャシティを護るバーチャコップたちと特殊諜報機関のVSSE、そして日本人たちの手によって阻止されてしまったのだという。

それを聞き、真治が最初にその記憶にたどり着いた。


「おい待て、それはもしかして弘樹や陽介、それから渡辺が一緒に解決したっていうあの話か!?」

「おや、よくご存知ですね。となるとあなたはその三人の知り合いでしょうね。そもそも集めた情報によれば、あなたはFCOの本部にも出入りしているようですし」

「そんなことはどうだっていい。お前はこの日本で何をするつもりだ?」


真治がそう問い掛ければ、ふう……とボスの男は息を吐く。


「だから復讐ですよ。日本のイエローモンキーたちを操ってパニックを起こす。そして各地のアメリカ軍基地にKAMIKAZE特攻を仕掛け、アメリカと戦争状態にして共倒れさせるんですよ」


そうすればどっちも潰し合えますからねと言い放つ男に対して、真治は首を横に振った。


「アホらしい。既にこのタワーで残っている敵はお前だけだぞ?」

「そうだな。お前の部下のフードの連中も途中で倒したからな」


真治とクレイグにそう言われる男だが、彼はにこやかな笑みを崩さないまま答える。


「果たしてそうでしょうか?」

「え?」

「私はバーチャシティの刑務所から脱獄した後、世界各地を放浪している時に能力者として覚醒したんです。ですから私さえ無事なら部下はいくらでも増やせます……こんな風にね!!」

「ぐっ……!?」


三人に向けて軍刀を持っている左手を横なぎに振り払ったその瞬間、真治の様子がおかしくなる。


「お……おい、どうした?」

「まさかお前……おい、操られたんじゃねえだろうな!? おい!?」


クレイグとエレスが大声をかけるが、真治は両手で頭を抱えたままヨロヨロと男の方へと歩いていく。

その隙をついて男がクレイグとエレスに突っ込み、発砲してくる!


「くっ!!」

「うわっ!!」

「ふふふ、どうしますか?」


前回陽介と弘樹にやられた時の反省からか、適度な距離を保ち銃撃と剣術で攻める男。

接近戦の強いクレイグには銃撃、遠距離対応が可能なエレスには剣術で自分が優位になるように使い分けているのを見ると、なかなかの相手だと思わざるを得ない。

しかも真治が操られてしまった以上、真治の様子も気にかけながらの戦いなのでなかなか集中できない二人。


「うおわっ!?」

「エレス!!」


接近戦が苦手なエレスを思いっきり前蹴りで蹴り飛ばし、詰め寄ってくるクレイグはバックステップで距離を取りつつ銃撃で迎え撃つ。

だが、そんな優位に立っていたはずの男が全く想定していなかった事態が起こる。

それは突然伸びてきた腕に、両脇を抱えられて羽交い絞めにされたことだった。


「……な……!?」

「今だ!!」

「ふんっ!!」


動きの止まった男に、クレイグはその体格を活かした強烈なドロップキック。

真治もろとも後ろへと転がる男だが、下敷きになった真治は素早く男の下から這い出て先に体勢を立て直し、男の手から軍刀とサブマシンガンを蹴り飛ばした。

更に男の髪の毛を両手で掴んで立たせ、顔面に二発パンチを入れ、顎にアッパーカットを食らわせてふらつかせる。


「おらあああっ!!」

「ぐふっ……」


先ほど蹴り飛ばされたことのお返しも兼ねて、立ち上がったエレスがクレイグの見よう見まねでドロップキック。

更にふらついた男は、後ろにある窓になかなかの勢いでぶつかる。

それを見逃さなかった真治が、二人に続いて助走をつけてからのローリングソバットを繰り出せば、男は背中から派手に窓ガラスを突き破った。


「う……わああああーーーーーーーーーーーーーー………………っ!!」


男が絶叫とともに70階から地上へと落下していくのを見て、三人はこの戦いが終わったのだと一息ついた。


「終わったな……」

「あ、ああ……でもお前さん、あいつに操られていたんじゃなかったのか?」

「そ、そーだよ。お前が操られたのを俺たちちゃんと見たんだぜ?」


なのにどうしてあそこで男を羽交い絞めにできたんだ? とエレスが問えば、真治は二人に対してこんな一言を。


「敵を欺くにはまず味方から」

「ん?」

「敵を欺く前に、まず味方さえも欺いておけば、より確実に敵を欺くことができるというわけだ」

「なるほどな。だからお前さんは操られたふりをしてあいつを油断させたということか」


とにもかくにも、これでようやくFCOの事件がまた一つ解決することになった。

だが、まだ後始末などが残っているためそこはFCOの日本支部に任せることにして、真治は二人にこんな提案を。


「せっかくの初来日だ。俺が案内するから東京都下に観光に行こう」

「え、いいのかよ?」

「ああ。どうせ観光にかかった経費は俺の案内料金も含めて全部アルバートに請求するから、好きなだけ楽しめ」

「……よし、ならお前さんの提案に乗ったぞ!」


その一週間後、アルバートの元に届いたのは総額130万円の真治からの請求書だった。

それを見たアルバートは、その請求書を右手で握り潰しながら低い声で呟く。


「……あいつらめ!!」


End


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