Erudin Battle Quest第8話


氷のつぶては刃へと形を変え、ラスタン目掛けて無数に群れをなして襲ってきた。

鉄棒と剣を体の前に交差して矢を防ぎながら、そのまま青髪の男へと突進する。

いくつかの氷の刃が腹や腿に刺さったが、痛みを堪え青髪の男の目の前まで辿り着き剣を横へ振り払う。

青髪の男は剣の攻撃を造作もなく交わしたが、間髪入れずラスタンの鉄棒が右足に直撃し、左足を地面へをつける。

その隙を見逃さずにラスタンは男の首飾りをもぎ取って棒で叩き割った。

青髪の男の腕輪も鉄棒で粉砕し、ラスタンは剣を青髪の首へと突きつけた。

微かに紫瞳を曇らせてはいるが、それでも人間を殺す事にラスタンは戸惑っている。

まだ救える手立てはあるのではないかと剣を持つ手が震える。

躊躇していた矢先にまた火球がラスタンの脇腹を襲う。

今度は吹っ飛ばされないようにと足で踏ん張り赤髪の男を見ると、右腿に長い槍が刺さっているのが見えた。


足をひん曲げた男はもう戦闘続行不可能な様だが、戦いはまだ終わっていない。

(ラスタンは・・・?)

ラスタンが戦っている方を見ると、どうやら彼は敵を潰す事をためらっている様だ。

そのせいで反撃を食らってしまっているのを見て、栗山は舌打ちをする。

(うおおい、勘弁しろよな!! やるかやられるかの世界だろうがよぉ!?)

青髪の男はもう魔法を使えないだろう、それならばと、赤髪の男へと警戒しながら駆けていく。

赤髪の男にはまだ首飾りと腕輪が付いていて、足が使えなくても魔力があればいくらでも攻撃手段はある。

思い通りに無数に飛ばしてくる火球を鉄棒と剣で叩き落としながら、ラスタンは赤髪の男の前へ辿り着き腕輪と首飾りを破壊した。

大きく息を吐いて、ラスタンは栗山へと顔を向ける。


「・・・やっぱり、あなたのようには僕、できないみたいだ。」

栗山が駆けつけた時にはすでに戦闘が終了しており、赤髪の男とラスタンを交互に見比べているとラスタンがそんな事を言い出した。

「・・・・そっか」

考えてみればまだ20歳にもなっていない様な子供に、人を殺させると言うのは酷な事だろうとも考える。

「よっしゃ、終わり終わり。こいつ等は俺が見張っておくから、警邏隊を呼んで来てくれ!!」

そう言って栗山はラスタンを見送ったのだが、彼にはまだ、壁に描いてある謎の魔法陣が気にかかっていた。

街の警邏隊へ事情を説明し、廃墟と化した研究施設に倒れていた賊達は全員引き取られていった。

報酬金30万は栗山とラスタンへ麻袋に入れて手渡され、警邏隊は2人に深く感謝の意を述べ街へと戻っていった。

あの4人組の男と戦った部屋で、ラスタンと栗山は取り残されている。

「お金は2人で山分けしましょう、何かあった時の為に手元にあると安心しますし、それから・・・。」

麻袋から札束を数えて話していたラスタンは、栗山が眺めていた魔法陣に気付いて言葉を飲み込んだ。


「・・・ん? どうした?」

栗山はそのラスタンの言葉に魔法陣から視線を外したのだが、どうやらラスタンも魔法陣に視線が向いているようだ。

「何だろうなこれ。凄く気になるんだよ」

何か起動したりするんじゃ無いのか? と冗談めかして栗山が言う。

しかし、そこでラスタンが何かに気がついた様だった。

壁に描かれた魔法陣はラスタンも初めて見るものだった。

にも関わらず、ラスタンの頭の中で彼のものではない意思により言葉が口から紡がれる。

「散らばった鉱石を集めてその魔力を陣にぶつけてみろ、多分起動すると思う。」

自分の発した言葉に驚きラスタンは咄嗟に口に手を当てる。

慌てて栗山へ振り返るが、ラスタンの身に何が起こったのか知る由もない栗山は変わらない表情をしていた。

「え……これを?」


ぶつけるって言うと、投げつければ良いのかな? そう思った栗山はとりあえず鉱石を1つ拾い上げ、ぶつけてみる。

すると鉱石がぶつかった魔法陣が小さく光り出す。

「おっ? おー、こりゃあ・・・・だったらもっとぶつけてみるか!」

楽しそうな栗山を見守るラスタンには今悪寒が体中を走っている。幽霊に体を乗っ取られた気分だ。

溜め息をつきながらも、自分が粉々に砕いた鉱石を集めて栗山が投げやすいように両手の中に鉱石の欠片の山を作った。

栗山が魔法陣に向かって投げつけた鉱石は、魔法陣に魔力を吸収され曇った石ころとなって地面へ落ちていく。

魔力を吸った魔法陣の文字列や記号の色がうっすらと光を帯びていった。


「おおラスタン、サンキューな!」

ラスタンが投げつけやすい様に集めてくれた鉱石の山を次々に魔法陣へ投げつけて行く。

そうする事で、どんどん魔法陣の光が強くなって行くのが分かる。

(これは・・・・もしかして・・・・)

栗山の中に1つの期待が浮かび上がって来るが、同時に何か得体の知れない不安感が襲い掛かって来ている事にも気がついていた。

完全に全体が光り輝く魔法陣を見て、ここに触ればもしかしたら・・・・と言う思いが栗山の脳裏をよぎる。

(こ、これで俺は・・・・!?)

そう思い、栗山は魔法陣に触る為に手を伸ばしたのだが、その時横から思いもよらない言葉が聞こえて来た。


魔法陣が起動すれば、何かが起こるのは間違いない。

けれどそれは悪い方向へは向かないと、ラスタンの頭の中で何者かが囁く。

ただその前に目の前にいる異世界から来た男の力を、見るだけでなく感じたいという強い思いも頭の中に流れ込んでくる。

ラスタンにとってそれは全く願ってもいない事だったけれど、溢れ出るその思いにラスタンが勝てるはずもない。

「栗山と言ったな・・・帰る前に1度手合わせ願おうか!」

「・・・・・は?」

いきなりラスタンが手合わせをしたいなどと言い出したのだから、栗山があっけに取られるのも無理は無かった。


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