A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第30話


「とにかく、このままでは君を外に出すのは無理だろうな。団長は如何考える?」

ベテラン冒険者からそう話を振られた公国騎士団長も、はぁーっと溜め息をついて同意見だ。

「私も貴方と同じ考えだ。ただでさえお前の身体からは魔力を感じないからそれだけでも目立つのに、

これ以上のトラブルはこちらとしても避けたい所だからな。しばらくはこの城の中に居る様にした方が

良いだろう。そしてその間に私も何かしらの対策を考えなければ」

「……そう、ですね」

ああ、これでますますエスヴァリーク帝国に向かうのが遅くなってしまうだろう。

つまりそれは、将来的に地球に戻れる可能性が低くなってしまう可能性も無きにしも非ずと言う事に繋がる。

だけど、地球に戻る可能性が低くなると言っても完全にゼロパーセントになった訳では無い事も

ロシェルはまた分かっていた。

「あいつ等の仲間がまだこのペルドロッグに居ないとも限りませんし、そいつ等に捕まる可能性も

ありますから……それでしたらその好意を断るのは良くないと思いますので俺はしばらくここに居ますよ」

「分かってくれるならそれで良い。……そして、お前もそれから貴方も私と一緒にどうやってエスヴァリークに

向かうかと言う事を一緒に考えた方が良いと思うがな」

「私もか?」

きょとんとした顔つきで、コラードが自分の胸に右の手のひらを向ける。

「経験豊富な冒険者としてギルドの情報から良く耳にする貴方の存在があれば、どうこの異世界からの来訪者が

動けば良いのかと言う事は良く分かる筈だ。行き先はエスヴァリーク帝国と決まっているのだろう?

だったらそのエスヴァリークに向かう為の安全なルートを示してやれば、それだけでも心強い存在になると思うのだが」


しかし、そのコラードに対してのクリスピンの提案に待ったをかけたのは異世界人だった。

「あの……お言葉ですけど」

「何だ?」

「その前にちょっとお願いがあるんですよ。この城の中に書庫ってありますか? そこで色々と文献を見せて貰いたいです」

「文献? もしかしてその地球に戻る為の情報を調べたいのか?」

「ええ。城から出たら危険なんですよね? だったらこの城の中で調べられるだけの事を調べて置いた方が

役に立つと思います」

魔術は全く使えないしそもそも魔力が身体の中に無い。だけどあの配達の時に分かった通り文字を読む事は

出来るみたいだし言葉だって通じる。


「俺は何故か分からないですけど文字は読めますし、この通り会話だって出来ますから書庫で色々と調べる事が

出来ると思います。まぁ……読めても書けないけど。だから書庫の書物を色々と読んでみたいんです、お願いします」

そのロシェルの申し出に、クリスピンは別にそれなら良いぞと言う事であっさり許可が下りた。

「なら後で書庫の使用許可を出しておこう。ただし監視がお前にはついている事を忘れるなよ」

「どうもありがとうございます!」

これで地球への情報が少しでも掴めると良いんだけど……と思いながら、一先ずその日は疲れたのでロシェルは

城の中でコラードと一緒に寝る事にする。

「ああ〜、何か物凄く疲れたぜ……」

城の中に与えられている自分の部屋のベッドに、どさっと音を立てて勢い良く息を吐きながら横になるロシェル。

「確かにな……良く考えてみれば、気味はまだこの世界にやって来て1ヶ月も経っていないんだったな」

「そうなんですよね。あー、俺ってこんなにトラブルメーカーな体質だったかな?」


1人の軍人として活動して来た自分ではあるのだが、ここまで色々とバタバタしている日々は生まれて初めてかも

知れないとロシェルは少しシミのついた天井を見上げながら心の底から思っている。

「早く地球に帰りたいですよ。何かこっちに来てからトラブル続きですから」

心底うんざりした口調でそう呟く若き軍人に、カチャカチャと自分の身につけている防具を外しながらコラードも同意した。

「帰れると良いな。ここの書庫なら恐らくは色々な情報があると思うが、前に騎士団の知り合いに聞いた話が

正しければ立ち入りに関しては色々と制限がかかっている筈だ」

「あ、もしかして一般開放ってされていないんですか?」

「それはそうだ。ここは大公が住んでいる場所だし、国家の厳重機密書物だってここの書庫にはあるのだぞ。

そこの区域には幾ら君でもあの騎士団長は入れさせてはくれないだろうな」


「厳重機密書物……?」

「先に言っておくが、幾ら私でもそこまでは知らん。私は普通の人間に過ぎんからな」

いや別に何も言ってないけど……と言うセリフをギリギリで飲み込みながら、ロシェルはコラードの

言っている「厳重機密書物」のワードが引っかかっていた。

(まさかそこに地球への帰り方のヒントがあったりして……でも俺も部外者だからな、やっぱりコラードさんの

言っている通り、幾ら異世界からやって来た特異体質の人間だからっつっても、国家の機密情報を扱っている様な

区域までは入れてくれる訳が無いよな、やっぱ……)


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