A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第19話
「そなたが、異世界から来て早々に我が国で問題を起こしてくれた人間か」
ルリスウェン公国の大公の低い荘厳な声が、城の謁見の間に響き渡った。
どちらかと言えば問題に巻き込まれた方じゃ無いのかな……とロシェルは思ったが、実際にあの爆発物を配達したのは
自分だからやっぱり俺が悪い事になるのは当然かもなーと言う結論に達した。
「え、ええと……そうなります……か。しかしこれには色々と事情がございまして……」
すると、ロシェルの左斜め後ろに立っている黒髪の若い騎士の男がロシェルの脇腹を鎧の着いている肘で小突く。
「貴様、最初に名を名乗れ。無礼だぞ」
「あ、は、はい!! 俺……私はロシェル・バルトダインと申します。すでに報告がされております様に、
この世界とは違う世界からやってまいりました」
「違う世界、か」
まさかそんな物が存在しているのか? と未だに大公は疑問の色が強い。
「私もまだこの世界の事を受け止めきれていませんが、これは事実だと認めなければいけないと思います」
「確かに、そなたは今回の大火事の犯人としてこうして私の元にまで来る事になったのだ。それは重々承知しているのだろう?」
「はい」
ロシェルはこれ以上たどたどしくなっても仕方無いので、あえて少しだけ開き直ってみる事にした。
「しかし今回の爆発事故、それから火事につきましては私は荷物を届けただけでございます。荷物の中身も知らされておりませんでした」
だが、次の大公のセリフからロシェルの今後の活動方針が定まって行く事になる。
「その事に関してなのだが、そなたの身体からは魔力を感じ取る事が出来ないと言う話だった。事件の事を調べる前に、
まずはそなたの身体の事を調べたいと思う。そこから何か、今回の事件に関しての重要な手がかりが掴めるかも知れんからな」
「えっ? 俺の身体をですか?」
一人称が「私」から「俺」に戻ってしまった事で、眉をひそめた黒髪の騎士が再び肘でロシェルを小突く。
「あてっ!」
「まぁまぁ、騎士団長もその辺りにしておけ。私としても今回の爆発事件に関しては非常に頭に来ているのでね。
もしそなたが犯人だったなら、この場で私自らの手で殺しても良い位だ」
「えっ……」
コラードの言っていた通り、この大公は熱血な性格である事に間違い無さそうだとロシェルは確信する。
そして、後ろを振り向けないがそこから伝わって来る気配がまさに猛者の気配である黒髪の騎士に対しても思う所があった。
(さっきから自分の事を肘で小突いて来るこいつが騎士団の団長かよ……真面目な奴なのか?)
そんなロシェルの心中は露知らずとばかりに、大公が再び口を開いた。
「あの館は孤児院だったんだが、余り経営状況が良くなかった様でね。そこに爆発物が配達され、あの孤児院の中に住んでいる
孤児達や職員が全員焼け死んでしまったと言う報告だ。これは明らかに許される事では無い。そなたの身体の事を調べてから、
またじっくりと事情を私自身が直々に聞かせて貰うとしよう」
「は……はい……」
自分も頭に血が上りやすいタイプなだけあって、何だかこの大公と自分は似ているなーとその熱の篭った大公の宣言を聞いた
ロシェルは若干唖然としつつも返事をした。
「ここ……?」
「そうだ。服を脱いでそこに寝るんだ」
案内されたのは城の敷地内に存在している魔術研究所。他の国にもどうやら同じ様な施設があるらしいのだが、その名前の通り
魔術の研究所を魔術師達が行っている場所らしいとロシェルは説明を受ける。
そして黒髪の騎士に指示された場所に寝る為に服をいそいそと脱ぎつつ、ここで健康診断の様に自分の身体をこれから
調べられるのか……とロシェルは思っていた。
「それじゃ始めるとしよう」
黒髪の騎士の指示で、ロシェルの身体の事をチェックする作業が始まる。
だがこの作業の中で、とんでもない事実が明らかになる!!
「生体反応が無い……?」
色々な訳の分からない装置が置かれたその部屋でいよいよ検査がスタートした……筈だったのだが、スタートしてすぐに
魔術師の1人がそんな驚きの声を上げた。
騎士団長や他の検査員の魔術師達はその様子を呆然としながら見るしか無かった。
「え……えっ?」
しかし、その台詞を聞いていたこの部屋の中に居る人間達の中で最も困惑していたのはやはりロシェルだった。
生体反応が無いと言われても、今の自分はこうして現に生きている。その証拠に心臓の鼓動だって感じられるし、息だって
きちんと吸ったり吐いたり出来ているし、自分が寝かされている鉄製の寝台から伝わって来る鉄の冷たさだって感じる限りでは本物だからだ。
だから生体反応がどうのこうのと言われた所で、実際に生きている自分がどう反応すれば良いのだろう? とロシェルの頭の中は
軽いパニック状態に陥っていた。
(まさか俺はこの世界に来た時、いわゆるその……転生とかって言う奴か?)
そこまで考えてみたものの、この身体もこの性格も紛れも無く自分が地球に居た時のままだと思い直して
馬鹿馬鹿しいとロシェルは首を小さく横に振るのだった。
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