A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第43話


そもそも「功夫(カンフー)」と言うのは、広東省を始めとする中国の地方での中国武術の別の呼び方である。

武術に限らず、何か物事を鍛錬した時間や労力やスキルの高さを表現する時に

「貴方にはカンフーが足りている」等として何かの例えとして「カンフー」の単語が用いられる事もある。

この様に武術に限らず広い意味で使用される単語なのだが、カンフー自体の意味は中国古代から

現代に至るまでの長い時間で培われて来た武術や武芸のトレーニング、そして健康法の総称と

されると同時に中国の「国術」でもある。

現代のカンフーには400から600とも言われる位の流派があり、素手での格闘戦と武器術が

大体の流派ではトレーニングの基本的なものになる。

武器術に関しては青龍刀等の刀や剣、それから槍や棒と言った長い武器も扱うので近距離でも

遠距離でもオールマイティな武器術を身に着ける事が可能だ。


中国武術の起源は紀元前にまでさかのぼる。

黄河沿いに住んだ人々が自分達の身を守る為に戦う為の術を身に着け始めたのが始まりとされており、

健康法の1つや娯楽的な要素としても見られる様になる。

それから2000年以上経った今でも中国武術は勿論中国で愛されているが、中国には13億人以上

住んでいる事からも分かる通り多種多様な民族が居るので、それに比例して流派も一説では

600以上と言われているが実際には数え切れない程のものがあると言える。

中国武術で有名なのは少林拳。それからウォルシャンの習っている太極拳も有名な中国武術の1つである。

そして中国武術は大きく分けると北派と南派に分かれており、全ての流派を網羅するのは不可能。

それに明確な分類もされていない事が更に流派の正確な数を特定出来ない原因でもある。


少林拳で言えばその起源は、インドから菩提達磨(ぼだいだるま)が少林寺に来た時に僧侶達が

体力が無くて精神の修行が出来ない事に驚いて嘆いたのだと言う。

その僧侶達に、インドで培われた体力作りのトレーニングメニューを授けた事が

少林寺の始まりと言われている。

その少林拳は北派のカンフーだが、少林拳の他にもウォルシャンの習っている太極拳もそうだし

カマキリの型をイメージしている蟷螂拳(とうろうけん)もそうである。

南派は洪家拳(こうかけん)が最も有名であり、詠春拳(えいしゅんけん)も南派の中では

かなり有名なものである。


もっと言ってしまえば北派のカンフーは「外家拳(がいかけん)」と「内家拳(ないかけん)」に大きく分けられる。

外家拳は鍛え抜かれた身体を活かして、その筋力でパワーを生み出す技法だ。

いわばプロレス等と同じであり、筋肉や骨や皮膚を集中で気に鍛える為に上達への道のりが

ある程度の段階までは早いとされている。

一方の内家拳は身体の内側の力を重視するもので、身体の中に「気」を起こして戦う流派だ。

呼吸に合わせてリラックスし、身体の力を抜いて柔らかく動く。

他人の目から見れば非常にゆったりとした動作に見えるのが特徴で、ウォルシャンが習っている

太極拳の他に形意拳(けいいけん)八卦掌(はっけしょう)が内家拳の3大武術として代表される。


簡単に言ってしまえば「外に向かうパワー重視」なのが外家拳で、「テクニックとしなやかさ重視で

内側から力を引き出す」のが内家拳と言える。

ただし、外家拳と内家拳に大きな違いは無い。

武術をやる上である程度のパワーは必要になるので、内家拳でも筋肉を鍛える

トレーニングは勿論存在している。

外家拳を学ぶ者も、気功や内功と言う気のトレーニングをする事もある。

トレーニングの重点を気に置くか、肉体トレーニングに置くかどうかの違いがあるのだ。

ウォルシャンが習っているのは太極拳だが、エイヴィリンが習っているカンフーは少林寺拳法。

組織に所属していた頃、その組織の一員であった少林寺拳のマスターである中国人武術家に

身体を鍛える事を目的に少林寺を仕込まれ、最終的にはその武術家がインストラクター資格も

持っていた為に昇段試験も実施され、見事テストに合格したエイヴィリンは少林寺拳法の黒帯を持っている。

裏世界の組織ではあるもののテストの内容は実際の少林寺拳法の規定に基づくものなので、

組織が壊滅した今でもエイヴィリンが「少林寺拳法の黒帯」と言う事実は揺るがない。


中国武術を習っているそんな2人の話を真剣に聞き入っていたガレディは、エイヴィリンとウォルシャンの

話を聞き終わって何かを考え込む仕草を見せ始める。

「……どうした?」

訝しげな顔つきでエイヴィリンがそう聞くと、ガレディは自分が座っている椅子の後ろに立て掛けている

自分の両手斧をチラリと見る。

「そう言えば、この世界に御前達が来てからそのクラヴマガだの中国武術を披露した事はあったのか?」

「いや、無いな」

「ああー……そう言えばエイヴィリンの言う通りそれは無いな。そもそも俺等、今日この世界に来たばっかりだし」

「そうか。だったら遺跡探索が全て終了したら俺と手合わせしてくれたりするか?」

「ああ、時間があればだな」


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