A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第38話


「ああ……ちょっと休ませてくれないか……」

酔った。

ワイバーンと言う未知の生き物の背中に乗って、快適な空の旅を満喫する……と言う事には

ならなかった様である。

車の運転なら何となく2人は良し悪しが分からない訳では無いのだが、流石にワイバーンと言う

生き物の事までは全然知らない以上荒っぽいコントロールなのかどうかと言うのは判別がつき難かった。

飛行機とは違って空中で自分達の身体が剥き出しの為、風だの臭いだのをダイレクトに受けてしまう結果となった。

しかもバッサバッサと翼を動かして移動する上に、もしかしたらセスナと同じ位のボディサイズで

ありながら急激な方向転換が可能な様なのでエイヴィリンとウォルシャンは背中で

そのクイックターンを3回程経験する事になった。

その度に思いっ切り内臓を持って行かれる様な感覚に陥った事もあって、なるべくならこの先

ワイバーンには乗りたくないとまで思ってしまう程だった。


しかしせっかく移動手段として村長が用意してくれた上に、このワイバーンに乗っているあの因縁の

獣人と一緒に旅をする事がワイバーンを動かせる条件の1つでもある。

知らない場所に放り出されて金も無い、仲間もお互い1人だけなんて状況は今の所真面目に

勘弁して欲しいものである。

そんなワイバーンの背中に揺られておよそ30分。

酔いを醒ました2人は、エレデラム公国の東側にある遺跡の前にあの獣人と一緒にやって来た。

今更ながら獣人の名前はガレディ・トールスと言うらしい。

そのガレディは相変わらず無口なままであり、話し掛けても適当に頷くか無視を決め込むかだった。

なので自然と2人も段々と話し掛ける事はせず、ただガレディのコントロールに任せていたのである。

そんなガレディは獣人族の戦士でもある様で、獣人のシルエットに妙に似合う両手サイズの斧を武器にしている。


その斧を持っているガレディを先頭にして遺跡の入口へと向かう3人だが、その遺跡は「遺跡」と

呼ぶにはかなりの広さがある。

遺跡と言うよりもむしろ、大昔に滅びてしまった「古代都市」と言えそうな雰囲気だ。

「何かここって、遺跡って言うより1つの街みたいだが……本当にこんな所に欠片があるのか?」

エイヴィリンが前を歩くガレディにそう効いてみるが、ガレディはポツリと一言だけ呟くに留まった。

「……知らん」

「はぁ?」

心当たりがあるかも知れないから、このワイバーンをコントロールしてここまで自分達を連れて来たのでは無いのか?

この獣人の考えている事がイマイチ読めないが、それでもここまで来てしまった以上は探索を進めて行くしか無いらしい。

初っ端からこんなに広い場所だとは思わなかった2人だが、今はバウンティハンターでは無く

トレジャーハンターにでもなった気分で遺跡の調査をスタートするのだった。


しかし、その目的のパズルの欠片は意外と早く見つかってしまった。

何故なら、滅びた町の建物の階数が全て1階建ての平屋だった中で唯一3階建ての建物がある事に

エイヴィリンとウォルシャンは気が付いた。

だったらあのでかい建物から調べてみようぜ、と言うウォルシャンの提案でその建物に向かったのだが、

オフィスが入る小さなビルの様なその建物の屋上で何かが点滅して光り輝いているのが2人に見えた。

なのでそこに向かってみると、黄色く輝くあのジグソーパズルの欠片がすぐに回収出来てしまったからだ。

「……もっと苦労するかと思ったが、意外とあっけ無いものだったな」

「ああそうだな。でもこうして見つかったんだから良いじゃないの」


しかし、何故2人がその光り輝くカケラを見つけられたのか獣人のガレディには良く分からなかった。

(何であの欠片の場所が分かったんだ……?)

彼には「見えて」いなかった。

エイヴィリンとウォルシャンの2人には欠片の輝きが見えていたのに、ガレディだけには輝きが全然見えていなかったのである。

(面白くねぇなぁ……ムカつくぜ!!)

「外からあの屋上に輝きが見えたじゃん?」等とあのビルの屋上に向かう時にウォルシャンから言われたりしていたのだが、

見えないものは見えないのだから幾らそう言われても「見えん」だの「知らん」だのとしかリアクションが出来なかったのだ。


嫉妬の様な感情をガレディが抱いているとは夢にも思わないまま、エイヴィリンとウォルシャンはワイバーンが置いてある方向に向かって行く。

その後ろではそんなガレディがゴソゴソとポケットに手を突っ込み、2人に気が付かれない様に小型の通信用魔道具を

取り出して耳に入れて通話スタート。

「……ガレディです。1つ目の欠片を回収しました。……はい、そうです。次はルリスウェン公国に向かいます」

小声でもしっかりと音声を拾ってくれるその魔道具のおかげで、前を歩く2人には気が付かれる事無く現状の報告を

自分の上司に報告する事が出来ていた。

(まあ良い……どうせこの2人はこの世界の人間じゃ無いんだ。知らないって言うのがどれだけ愚かなものかと言う事を、

これから先の旅でたっぷり思い知るが良いさ)


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