A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第32話


まずは攻撃魔術からだ。

獣人2人がそれぞれエイヴィリンとウォルシャンの前に立ち、呪文を唱える。

「偉大なる神エンヴィルークの力よ、水の力で敵を貫け! ウォーターランス!!」

「偉大なる神アンフェレイアの力よ、敵を燃やせ! アタックファイア!」

それぞれ水属性の魔術と火属性の魔術を繰り出してみた……その結果は!?

「……何かしたのか?」

「あれ、何も起こらねーぞ?」

「何だってぇ!?」

「そ、そんな馬鹿な……」

獣人達の間にざわめきが広がる。


そして動揺を隠し切れないまま、魔術を当てて来た獣人の1人がエイヴィリンとウォルシャンに質問する。

「ちょっと待ってくれ、本当に何も起こっていないのか?」

「あ、ああ。特に何も変化は無いけど……」

「う、嘘だろ!? だってあんたは服がビショビショに濡れているし、こっちの銀髪の男は服が少し焦げているんだぞ!?」

「へ?」

「えっ、焦げてるのか?」

そう言われても、ウォルシャンは服や身体が濡れた感触は感じられないしエイヴィリンも火の熱さなんて全く感じなかった。


だけど目の前の獣人を始めとした獣人達の動揺っぷりを見る限り、どうやらこの獣人達が

嘘をついている様にはエイヴィリンもウォルシャンも思えない。

「ちょ、ちょっと待て。他の魔術も試してみて良いか?」

「ああ……なるべく痛くない奴な」

エイヴィリンから許可を貰い、今度は土属性と風属性の魔術を当ててみる。

「偉大なる神エンヴィルークの力よ、我に大地の力を……ロックボム!!」

「偉大なる神アンフェレイアよ、切り刻め! ウィンドカッター!」

魔力のエネルギーによって爆発する岩を撃ち出し、敵に当たると同時に爆発する魔術がロックボム。

風が起こすエネルギーで敵の身体まで切り裂く初級魔術のウィンドカッター。


その結果は……。

「あれ、やっぱり今度も何も起こらないぞ?」

「本当に魔術やってるのか?」

「……」

「……信じられない」

獣人達のリアクションは驚きを通り越し、恐怖心が明らかにその表情に出ていた。

「魔術の効果は無いらしいな。魔術が効かない理由は分からんが、魔術師相手だと敵は無いと見える」

村長が納得した表情で2人に歩み寄るが、まだ試していない魔術が。

「……それじゃあ、今度は防御魔術と回復魔術も試してみよう。本当に効果が無いのなら

この2つの魔術も効果が無い筈だからな」


しかし問題はそれをどうやってやるかだ。

獣人達で話し合った結果、まずは防御魔術を2人に掛けて獣人チームが魔術を掛けた2人を殴る。

「もし魔術の効果があるのなら、その物理攻撃は御前達には効かない筈だ」

そこまで言うなら……と残りの魔術の実験にも協力する2人。

先にエイヴィリンが魔術を掛けて貰い、相手の獣人にも魔術を掛けて貰う。

「……んん、何してるんだ?」

「少し内容を変える。今この者の身体に同じく防御魔術を掛けた。そして御前達が最初にこの者の攻撃を受ける。

次に攻撃を御前達がこの者に出す。魔術が効かないなら攻撃が魔術の防御をお互いに貫通する筈だ」

「ああ、そうか」

村長の説明にエイヴィリンもウォルシャンも納得した。

自分達だけで無く、この先で敵として出会った相手が「自分に防御魔術を掛けている」可能性も充分にあり得る。

なので防御魔術を掛けて貰ったエイヴィリンと獣人の男が向かい合う。

お互いに若者同士の実験だ。

「始めて良いのか?」

「ああ、何時でもこちらは構わない」

「じゃあ行くぜ……うらっ!!」


クマ頭の獣人の若者は、自分にとっては軽めのパンチをエイヴィリンに出してみたつもりだった。

しかし人と同じく2足歩行をするとは言え元々は人間と違う動物。しかもクマ。

体重が軽い部類に入るエイヴィリンは、みぞおちに食い込んだボディブローに一瞬意識が遠のいたかと

思うと思いっ切り後ろに吹っ飛ばされた。

「ぐおわっ……!?」

「え、エイヴィリン!?」

後ろに吹き飛ばされてゴロゴロと転がったエイヴィリンは、みぞおちにパンチを食らった事もあって

ゼエゼエと息をしながら何とか立ち上がった。

「お、俺には防御魔術は効かないみたいだ……。だが次は俺の番か……」

「おいおいエイヴィリン、無茶すんなよ!!」

「大丈夫だ……今までの人生はこれ以上の痛みを受ける事もあったからな……」


ウォルシャンの制止も聞かず、今度は自分の番だと言って構えを取るエイヴィリン。

「それじゃ俺のパンチを受けてみろ……ふっ!!」

息を吐いて体重の乗ったパンチをクマの腹に繰り出したが、クマの腹に少し食い込んだだけで全くと

言って良い程にダメージが無い様である。

何のリアクションも見られないまま少しの沈黙がエイヴィリンとクマ獣人の間に流れる。

そんな沈黙を先に破ったのはエイヴィリンだった。

「……効いたのか?」

「……ああ。人間にしちゃあ悪くねーパンチだ」

その感想は防御魔術を貫通した事になる証拠であり、そしてエイヴィリンの実力は

「獣人の世界では話にならないレベル」だと言う事が証明される一言にもなるのだった。


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