A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第30話
「魔術は体内にある魔力を消費してエネルギーに変える事で発動出来る。
だが御前達には魔力が無いから魔術は使えないだろう」
「そうかぁ? ずーっとそれ言われてるけどもしかしたら出来るかも知れないぞ?」
食い下がってみるウォルシャンに対し、村長は獣人の1人に顎で何かを命じる。
その獣人は近くの民家へと入って行き、少ししてそこから戻って来た。
手には透明な水晶玉を持っている。
「……これは?」
「魔力を測定する玉だ。ギルドに登録するならこれで体内の魔力を測定し、その量で受けられる依頼も変わって来るんだ」
ちなみにこれも魔道具の類らしい。
「御前達もこれで測定してみるか? さっきみたいな事になるかも知れんがな」
さっきみたいな事とは、あの魔道具を身に着けた時に起こった出来事だろう。
それでもウォルシャンは引き下がらない。
「よぉし、ならやってやるよ!」
こうなりゃもうやるだけやってやる、と決断したウォルシャンの目の前に獣人達が木のテーブルを持って来て
その上に水晶玉を置いたのを見て覚悟を決める。
「ここに手を置けば良いのか?」
「ああ、置いてくれ」
さっきみたいな事になっても構わない。
もしかしたら魔術が自分達にも使えるかも知れない、と言う期待の方がウォルシャンには大きかったので、
エイヴィリンが呆れた様な表情で自分を見るのもお構い無しに水晶玉の上に手を置いてみる。
「……」
「……」
「……」
「……あれ?」
「何も起こらんな」
魔道具の筈なのに、触れても何も起こらない。
そして、本当に驚くべきポイントはそこでは無かった。
魔力が無い、魔力が無いとさっきから散々言われて来ていたウォルシャンがその魔道具の上に手を置いても、
水晶玉には何の反応も無い。
驚くべきポイントと言うのは確かにそうなのだが、村長を始めとした獣人達にはある程度この結果が
予測出来ていた事でもある。
「やはりか……」
「え?」
「この水晶玉は、手をかざしたり置いたりするだけでその手の持ち主の身体の中にある魔力量を
測定してくれるのだ。しかし何の反応も見られないと言う事は、すなわちその水晶玉に魔力が
反応しなかったと言う事になる。となればやはり御前の身体の中には魔力が無いと言う結論しか無い訳だ」
しかし諦めが悪いウォルシャンは、今度はエイヴィリンを指差した。
「じゃ、じゃあこいつもやってみてくれよ!!」
「……俺がやっても同じだと思うけどなー……」
そう呟いては見たものの、もしかしたらウォルシャンとは違う結果が出る可能性も否定出来ない。
なのでここはウォルシャンの言う通り、1度自分もやるだけやってみるかと思いつつエイヴィリンは
黄色い手袋をはめたまま水晶玉の上に手を置く……筈が。
「ああ待て、手袋は外してくれ」
「え? 駄目なのか?」
「ああ、素手の状態で水晶玉に触れなければ上手く測定出来ない事があるんだ。だから手袋を外して貰おう」
「……分かった」
とは言うものの、何だか手袋を外す事にエイヴィリンは抵抗があるらしい。
それを見ていたウォルシャンが、前々から疑問に思っていた事を口に出した。
「なぁ、前からずっと気になってたんだが……御前は何で手袋を外したがらないんだ? 俺とグレリスと居る時は
絶対に手袋外さないし。せいぜい手袋外すのはシャワーを浴びる時とか食器洗ったりする時位だろ?」
水回り関係の事をしない限りは、何時でも何処でも黄色い手袋を外さないエイヴィリンを前からウォルシャンは不思議に思っていた。
「潔癖症……って訳でも無いし、手に傷があってそれを隠したいからって訳でも無さそうだしな。グレリスは
黒の手袋してるけど外す時は外すし……何でだ?」
一気に理由を聞く為にまくし立てて来るウォルシャンに対して、エイヴィリンは実に簡潔なその理由を述べた。
「手の感触が変わるのが気に入らない」
「感触……って、もしかして仕事の時の?」
「ああそうだ。武器を持つ時に手の感触が変わるのが俺は嫌いなんでね」
「そうなのか」
気持ちは分からなくも無いが、そう考えてみるとあんまり大した理由でも無さそうな感じに思える。
実際、デトロイトで殺されかけた時になかなか見事な腕前で自分を銃撃したのはまだウォルシャンの記憶にも新しかったのだが。
と言う訳で手袋を外したエイヴィリンがもう1度水晶玉に手を乗せてみるものの……やっぱり何も起こらなかった。
「ほら、何も起こらないだろう?」
「うー……やっぱり駄目なのかよ」
明らかにガックリするウォルシャンだが、水晶玉は何の変化も起こらない。
それが自分達の体内に魔力が無いのだ、と言う事をまざまざと現実として見せつけて来ているので、ここまでされてしまったら
もう素直に魔術が使えるのか否かと言う事については「使えない」と言う結論で諦めるしか無かった。
別に望んでこう言う世界に来た訳では無いし、地球へと帰りたい気持ちの方が強いのだがそれでも実際に
魔術を使ってみたかった……と言う気持ちはウォルシャンは大きかった。
しかし、そのウォルシャンの頭に1つのアイディアが浮かぶ。
「そうだ、だったら俺達にその魔術って奴を見せてくれないか?」
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