A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第5話


組織と言うものは、大きくなればなる程その末端まではなかなか命令が届きにくくなってしまう。

それはこのエイヴィリンが所属している組織でも同じ事であり、末端のメンバーに関しては

ボスと直接面識が無いと言う人間も大多数である。

世界に名だたる大企業であろうが、こうした裏の世界の組織であろうが命令が届き難かったり

1人1人の行動を24時間365日何時でも何処でも監視し続ける事は不可能である。

だからどんなにボスやその部下の責任ある立場の人間が命令遵守を徹底していたり制裁を

加えていたりしていたとしても、必ず「人間の黒い部分」が何処かで出て来てしまう。

それがエイヴィリンが組織を抜ける切っ掛けになった、今から2年前の21歳の時に起こった事件であった。


エイヴィリンが殺人をし続けて、殺した人数はアシスタント業務の時からも全て数えてみると150人を超えていた。

その次のミッションも、何時もと同じ様にアメリカを離れて遠征したヨーロッパでターゲットを手に掛けて

戻って来る「何時もの」パターンだった。

しかし、その「何時もの」事であるのは手慣れていると言う意味であると同時に油断が生じる原因にもなる。

慣れているからこそ気を引き締めなければならないのだが、若いエイヴィリンにはその事が

まだ理解しきれていないと言う事をその身を持って理解させられる事になる。

(今回の目的地は……)

国内外で飛行機を使う際に、組織が用意した偽造の身分証明で手に入れたチケットを利用して

エイヴィリンは飛行機の中で資料を確認する。


今回の目的地はヨーロッパのポーランド。そしてその首都のワルシャワである。

ワルシャワに滞在している、エイヴィリンの組織の金を持ち逃げしてそのヨーロッパ中を転々として

のうのうと暮らしている裏切り者を始末する為に向かっていた。

今までも組織を裏切った人間を何人も手に掛けて来たエイヴィリンは、正直「またか……」と言う

感情しか湧かなかった。

ただでさえ規模が拡大して仕事が沢山増えていると言うのに、組織の中からも敵になる人間が出て来ると

なればそれだけで仕事が増えてしまうから面倒臭かったのだが、これもボスの命令とあれば仕方が無かった。

ワルシャワでのホテルに滞在していると言う情報を掴んでいた組織は、今がチャンスとばかりにエイヴィリンを

こうしてこのミッションに向かわせていたのだが、エイヴィリンもこのミッションが

自分の人生の転機になるとは思ってもいなかった。


アメリカから長い時間を掛けて、その日の夜にワルシャワに辿り着いたエイヴィリンは、空港に降り立って

すぐにターゲットの居るホテルへと向かい始める。

指導役の組織のベテランに導かれ、エイヴィリンは懐のコンバットナイフとリボルバーを確認する。

潜入ミッション故に、武器の携帯に関しては事前にヨーロッパの支部から受け取る現地調達方式になっている。

今回は運良くポーランドにも組織の支部があり、そこでこのリボルバーとコンバットナイフを手に入れておいたのだった。

(さぁ、行くか)

武器のチェックも怠らず、エイヴィリンは自分の指導役のベテランと一緒にターゲットの居る部屋に乗り込んだ。

素早く仕留めて素早く撤退。ターゲットの死体と長く一緒に居ると良い事は無い。

むしろ、異常に気付いたターゲットの仲間に追われる事になったり警察に追われたりする事に繋がってしまう。

だからさっさとターゲットを始末して逃げる事は当たり前だ。


しかし、その始末されるターゲットがエイヴィリンに襲い掛かって来た。

そしてエイヴィリンはターゲットと、それから彼一緒にここまでやって来た指導役のベテランに2人掛かりで

ホテルの中を戦場に変えつつ追われていた。

エイヴィリンがヘマをした訳では無い。

どちらかと言えば、事前の作戦立案やシミュレートに関しては若手の組織メンバーとしてはそこそこ上手く出来ていた方である。

ホテルの部屋に飛び込んだ時、そこには既にターゲットが待っていた。

しかし、ベテランのメンバーが部屋に飛び込んだ時にはターゲットは妙に落ち着いているのがエイヴィリンには気になった。

(……何だ?)

その態度に妙な違和感を覚えたエイヴィリンは、リボルバーのトリガーを引くのを一瞬躊躇してしまう。

それはそのターゲットに対しての戸惑いもあったのだが、それ以上に戸惑っていたのはベテランのメンバーの態度だったからだ。

ベテランメンバーが、丁度絶妙な位置で自分の後ろに居るエイヴィリンがトリガーを引けない位置に立って妨害していたのだ。

「おい、あんた何してるんだ。さっさとそのターゲットを始末してここからずらかるぞ!!」

エイヴィリンのそのセリフに対して、ベテランメンバーは当たり前だとでも言うかの様にエイヴィリンにオートマチックのハンドガンの銃口を向けた。

長い事この組織のメンバーとして世話になっていた事もあり、事前のシミュレートの中には大事な項目が抜け落ちてしまっていた。

「味方が裏切る」可能性が……。


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