A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第58話


そもそも「コルネールの部下がそのメモを持っていた」と言うだけでも重大な手掛かりになる。

もしかしたら肝心のメモの内容は、コルネールの行き先には全く関係の無い場所なのかも知れない。

でも今の所の手掛かりがこのメモしか無い以上はそこに向かうしかあるまいと思いつつ、アイヴォスは

メモに書いてあるカブラークの町への行き方を聞いてみる。

転送装置等は使えないので、あくまでも「馬に乗って行きたい」と言うスタンスは絶対に

崩せないのがもどかしいのだが。

それでも馬で色々な場所に行く事は、地球で言えば車でドライブに行く事の様に当たり前の

話らしいのでイースディスの町の住人は普通に教えてくれた。

「馬で行くならそこの西の出入り口を出て、右側の街道を道なりに進んで行けば2時間位で辿り着く筈だ」


西方面と言っても、自分の走って来たルートをそのまま逆戻りするのでは無く、やや北西方面に向かって

進むルートがあるらしい。

その情報を聞いたアイヴォスは、自分があの6人組のバトルやコルネールの部下達と

バトルしている間にじっくり休んでいた、そのコルネールから譲り受けた馬……全身真っ黒のボディをしている

黒馬に乗ってその街道をひた走り始めた。

真面目な性格であるアイヴォスだが、この世界の戦争には別に首を突っ込む気なんて更々無かった。

この世界に来てからは現状の把握やこの世界の成り立ちを覚えたりする等、自分の事だけで頭の中が一杯の

状態でその戦争云々にまで関わっていられる状態では無かったからだ。

と言うよりも今もその状況である事に変わりは無い。

早くエスヴァリーク帝国に向かいたい気持ちで頭の中が埋め尽くされていたのだが、それはコルネールにアーシアが

捕まってしまう前までの話。

幾らこの世界の戦争に関わる義理も何も無いとは言え、流石に目の前で1人の人間……それも自分の命の恩人が

連れ去られてしまう光景を直にその目で見てしまったら、アイヴォスも動かざるを得ないのであった。


連れ去られたアーシアを追い掛けて馬を走らせる。

あのコルネールの部下3人と戦っていた事や、コルネールの行き先を調べる為にメモを見つけるまでの時間や

町の住人達に手掛かりを聞いていた事を含めるとかなりの距離のアドバンテージを取られている事になるだろう、と

アイヴォスは馬を走らせながらギリッと歯軋りをした。

でもそれは仕方が無い。コルネールの足取りを追い掛ける為に聞き込みをするのは当たり前の話だし、

地元の住人で無い以上は自分が今向かっている町への行き方も分からないのだ。

だから闇雲にアーシアを探し回るよりは、こっちの方が今は間違い無く最適な行動だと彼自身は考えている。

(急がば回れ、とは良く言ったものだ)


日本のことわざを勉強している時に覚えたもので、英語でも同じ言い回しとして「Haste makes waste.」と言う。

つまり「急いでいる時には近道をしたり、リスクの高い行動をして失敗するよりも自分に合っている

確実な方法やルートを、それが例え遠回りになったとしても選ぶ方が結局は成功する確率が高い」と言う意味だそうだ。

何か物事にチャレンジする時にも、「慌ててチャレンジするとそれだけ失敗する確率が高くなってしまう。余裕を持って

物事に取り組むのが成功のカギ」との意味もあるそうだ。

今の自分の状態がまさにそれだ、と「急がば回れ」の意味を知った時の事を思い出しながらアイヴォスは目的地に向かう。

アーシアは今頃どうなっているのだろうか?

コルネールはこれから更に何をしようとしているのか?

アーシアをカシュラーゼに売り飛ばす事は確定だとしても、ヴァーンイレスを裏切ってカシュラーゼに寝返った

コルネールが考えている事までは分からない。

人間の頭の中まではアイヴォスも読めないからだ。


だったら何としてでもコルネールに追いついて直接聞くしか無い。

追い付けるかどうかは分からないが、アドバンテージ分としては数十分かそこ等と言うレベルだろうと推測している。

(別に1時間も2時間もアドバンテージがある訳では無い。イースディスの町の人間に聞いたらすぐにカブラークの町への

行き方を教えてくれたし、あの3人の部下達との戦いも長い時間戦ってはいなかった)

だからまだまだ追い付ける筈だ。

いや、何としてでも追い付かなければいけない。

追い付いて、少なくともアーシアの安否確認だけはしなければならないだろう。

カブラークの町はいわゆるウォーターフロントの町だそうで、ヴァーンイレス国内の地図で見てみると大きな湖……それこそ

ミシガン湖の南西部先端に位置している、アメリカのシカゴ市と一緒だとアイヴォスはイメージ出来た。

イースディスの町の人間と一緒に地図で確認して貰った所、船を使ってそのまま湖を超えてしまえば何と

王都のイレイデンまで戻ってしまうらしい。

そうなったらカシュラーゼ陣営の中に舞い戻る結果になるので、もしそのルートでコルネールが移動を考えているのなら

自分にとっては非常にまずいだろう、とアイヴォスは自分で予想していた。


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