A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第40話


それでもまだ生き残っている1人のその侵入者は、体勢を立て直して再びアイヴォスに襲い掛かって来る。

こうした見え難い状況下でも、常に自分のパフォーマンスを引き出せる様に訓練した経験もあるアイヴォスは有利だ。

だからこそここでくたばる訳には行かないと思い、全力でその侵入者に対抗する。

本当は日本刀を武器にしたい所なのだが、鞘から引き抜いている暇が無いので仕方無しに素手で勝負する。

「ふっ!」

侵入者の気合いと共に振り被られた斧を左手でブロックし、カウンターで腹に正拳突き。

「おぐぅ!?」

そのまま怯んだ侵入者に対して、先程の短剣の侵入者を組み伏せた時と同じ様に右手で

侵入者の右手首を掴み、左手で侵入者の右肩の関節を押さえて足払いを掛け、地面に組み伏せる。


「おい、貴様等は何者だ。どうして私の命を狙った!?」

アイヴォスとしてはここで殺しても構わなかったのだが、そのまま殺してしまったら何故この侵入者達が

ここにやって来て自分の命を狙ったのかが分からずじまいになってしまう。

だからこうして地面に押さえ込んだのだが、侵入者は頑なに黙秘権を行使している状態だ。

「……おい、答えろ!」

「ぐぅあああっ!?」

肩の関節を逆方向に押し込み、その逆方向に曲がってしまう寸前まで力を込めてやると

侵入者の口から激痛に苦しむ声が響き渡る。声の低さからすると男らしい。

2人の傍らにはその侵入者が痛みで手放した斧が転がっているが、もしまた手に取られでもしたら

厄介なのでアイヴォスは肩の関節の上に膝を乗せて固定しながらその斧を手に取った……瞬間!!


バチィィィィッ!!

「ぐぉっ!?」

「なっ……」

そんな音がして部屋の中が一瞬明るく光り輝いたかと思うと、アイヴォスの腕に痛みと痺れが伝わって来た。

アイヴォスは思わず斧の柄から手を放し、反射的に後ろに飛び退いてしまった。

つまりそれは侵入者の背中から降りてしまうと言う事になるので、その隙を突いて侵入者の男は

武器の斧を回収して窓から飛び下りて行った。

「あっ、おい待て……っ!!」

我に返ったアイヴォスはその侵入者を追いかけようとしたが、侵入者は窓から外に出て逃走者へと

変化し闇に紛れて姿を消してしまった。


「ちっ……」

舌打ちをしてその侵入者を逃がしてしまった事を悔やむアイヴォスだが、それ以上にビックリした事があった。

(さっきの現象は一体……)

自分が斧を触った時にいきなり強い音と光が現われて、そしてその2つと共に自分の腕にも痛みが襲って来た。

何故あの様な事態が起こったのかアイヴォスには全く分からない。

(何だったんだ、あの光と音と痛みは……)

もう1度確かめてみようと思っても、さっきの斧は侵入者が回収して持って行ってしまったのでもう確かめ様が無い。

仕方が無いのでこの死体3つをどうしようかと考えていると、バタバタと部屋の外から慌ただしい足音が

複数人分聞こえて来た。

(……また敵か!?)

思わず身構えたアイヴォスだったがこれ以上襲撃されるのはごめんだと思い日本刀と上着を回収し、

死体をそのままにして自分も窓から脱出。

このまま夜が明け切る前に出発してしまおうと思い立って、教会へと向かうアイヴォス。


しかし、そこでアイヴォスは2度目の驚愕の光景を目の当たりにする。

「……なっ……」

彼が思わず絶句してしまうのも無理は無かった。

何故ならその教会の中には血溜まりが幾つも出来ており、血溜まりの上ではあの依頼をして来た

男の死体を含めて何人もの死体が転がっていたからだ。

(これは酷い……)

絶句した状態のままではあったが、アイヴォスは更に重要な事に気がついた。

(あれ、そう言えば依頼される筈だった金が無いな?)

そう、あの金がドッサリ入っている袋が無いのだ。

教会の何処を探してもそんな金の入っている袋は見つからないので、アイヴォスは止む無く教会を

後にして馬を預けた場所に向かう。


依頼はこれで中止となってしまった訳だが、かと言って行く当てが無くなってしまった訳でも無い。

(とりあえず、あの教会の男が言っていた捻くれた配達先へと向かってみるか)

配達先となる筈だった町のその捻くれた人間に色々と聞いてみれば、この惨状の原因も分かるかも知れない。

漠然とした考えではあるが、今のアイヴォスにはそれしか本当に行く場所の考えが無いのである。

ただでさえこの町では自分が殺人犯として追われるかも知れない状況が作り出される可能性が窮めて高いので、

行く場所の当ても無しにフラフラと逃走劇を続けるよりは、あの教会の男の関係者を当たってみる事で

何か分かるかも知れないと考えたのだった。

(あそこの部屋に私が泊まっていた事は宿の関係者の証言からすぐに分かってしまうだろう。

となればあの部屋の惨状もすぐに分かるだろうし、結果的に私は指名手配されてしまうのでは無いか?)

ヴァーンイレス王国軍に自首しようとも考えたが、ややこしい事になりそうだったのでアイヴォスは

その選択肢を頭から消し去り馬の預け場所へと早足で町中を駆け抜けて行った。


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