A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第28話


「待て待て、何か言ってる事がおかしくねえか?」

「何がだ?」

「だからお前の言ってる事そのものがおかしいだろ。風を起こして落ち葉が舞い上がるのは当たり前の事じゃねえかよ」

「ああ、そうだな。だから私も変だと言っているんだ」

やっぱり話がかみ合っていない様なので、ここで落ち着いてもう1度お互いに説明して貰う。

「良いか? 俺はウィンドストームって言う風の嵐を起こす魔術を使ったんだ。それで落ち葉が舞い上がった」

「ああ。その落ち葉が舞い上がったのは私にも分かった。しかし落ち葉が舞い上がった時に、

私は風を感じる事が出来なかったんだ」

「……ええ?」


どうにもこうにもさっぱりアイヴォスの言っている事が理解出来ない、とアーシアもコルネールも頭を抱える。

「お前、馬鹿なのか?」

「馬鹿とは失敬だな。私は見た通りの事、そして感じたままの事を話しているだけなのだが」

ムッとした表情と口調になるアイヴォスに対して、それなら……とアーシアは別の角度からアプローチして

アイヴォスの感想を聞いてみる。

「ちょ、ちょっとこの話は一旦置いておきましょうよ。その前に私とコルネールが魔術を使ったわよね。

それは貴方には見えていたのかしら?」

アイヴォスの答えは首を横に振る事だった。

「全く見えなかった。アーシアが何かから逃れる様に腕で自分の身体を庇っていたりしたから、魔術を使っているのだろうと

言う事は分かったが、どれ位の威力だとか、どの様な現象が起こる魔術を使っていたのかと言うのは全く見えなかったし

感じる事も出来なかった」

「真面目に言ってんのかよ、そんな事……」

「ああ、私は真面目だ」


呆然とするコルネールの頭がどんどんこんがらがって来る。

「じゃ……じゃあロックスピアもフレイムバーストもそれからウィンドストームも、最初に俺がやったアクアウェーブも

全部見えなかったのか!?」

迷い無くアイヴォスはコルネールの疑問に頷いた。

「ああ。名前からある程度はどんな魔術なのか、と言うのは予想が出来たのだがな……魔術に色とかが

付いていればまた話は変わって来るのだが」

「付いてるさ!! 例えばアクアウェーブの様な水属性だったら水が出るから青っぽいし、炎系統の

フレイムバーストだったら赤くて、ウィンドストームの様に風属性だったら色は無いけど空気が震えているのが

見える筈だし、さっきやった土のロックスピアだったら色は無いけど突き出た岩が見える筈なんだが……」

それでもアイヴォスは「見えない」の一点張りだった。


「それじゃ俺達はどうすりゃ良いんだ?」

どうにかして魔術の存在をアイヴォスに知らせたいとコルネールは考えていたが、その張本人であるアイヴォスが

考えた結果としてこんな提案がもたらされた。

「……なら、こんな実験はどうだ?」

「どんな事をするのかしら?」

「私に実際に魔術を当ててみれば、私は自分の身を持って体感出来るだろう」

「えっ、貴方に当てるの?」

アーシアはその予想外の提案に絶句する。

それでも魔術の効果や威力を証明出来る方法は、今の状態であればこれしか無いとアイヴォスは

思っていたからこその提案だ。


勿論リスクの面に関しても、2人が納得する様にアイヴォスは説明する。

「最小限の威力の魔法であれば、身体へのダメージは余り心配しなくても良さそうだと私は思っている。

それにこのまま色々と話し合った所でお互いに平行線のまま答えは出ない訳だし、だったらいっその事私が

自分の身体で実感した方が早いだろう?」

日本のKOTOWAZAに「論より証拠」と言うものがあるのをアイヴォスは知っている。

ああだこうだと話し合うよりも、実際に証拠を出した方が早く結論が出ると言うものだった。

「でも、怪我のリスクを考えると……」

アーシアはその提案に乗り気では無いが、コルネールはどうやら違う様だ。

「おーし、だったら後悔すんじゃねえぞ!」

「こ、コルネール……!!」

慌ててアーシアがコルネールを止めようとしたが、コルネールはやる気満々だ。

「お前に魔術をお見せしようと思って俺とアーシアは散々やったんだ。なのにこのままお前の言い分が通るのは

ムカついて仕方がねえんだよ」

「私も同じ理由だ。意見が食い違ったままと言うのはもやもやするからな」


男2人の意見は纏まったものの、アーシアはその実験に対して条件を出す。

「ま……待ってよ。とりあえずやるのは水の魔術だけにしておきましょうよ。炎は危ないし土も風もこの林が

大変な事になったら困るでしょ?」

「分かったよ」

身構えるアイヴォスに対して、それじゃ……とコルネールが再び呪文を唱える。

「じゃあ行くぜ。偉大なる神エンヴィルークの力よ、我の手に水の弾を!!ウォーターボール!!」

まるで野球選手の様なフォームでウォーターボールをアイヴォスに向かって投げるコルネールだが、アイヴォスは

身構えた姿勢のままで驚くべき事を口にした。

「……まだか?」

「は、はあっ!?」

明らかに演技では無い表情のコルネールを見て、アイヴォスも困惑するばかりだ。

「何でだよ、どう言う事だよぉ!?」

「わ、分からないわよ! 確かに服はビショビショの筈なんだけど……何故なのかしら?」


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