A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第14話
余計な金銭の紛失やトラブルを避ける為に、目の届く所に置いてはおくものの外出時以外には
なるべく持ち歩かないと言う事をアイヴォスは徹底している為か、そのコートのポケットの中に
財布を入れっ放しだったのである。
財布が無いと言う事はつまり、今の彼は所持金がゼロの状態。
持ち物は本当に今の自分が身に着けているこの軍服、それからアーシアが一緒に持って来てくれた
刀2本しか無い状況だと理解した。
「ううむ……働き口って言うのは何がある? 私としては体力に関しては自信がある方なのだが」
エリートと言ってもそれは軍人としてでの話で、民間企業で働いた事の無いアイヴォスにとっては
その頭脳が民間企業で通用するかどうかと言うのは分からなかった。
だけど体力に関しては毎日軍人として、将校になった今でも身体を鍛える事はもはや
日課の一部になっているので自信がある。
その事をアーシアに話してみるが、やはり魔力が無い事自体がネックになってしまうらしい。
「そう言われても貴方の体質だと厳しいわね。魔力が無い事を余り周囲にベラベラと大っぴらに
話す訳にも行かないし、かと言って確かに貴方の言う通りお金を稼がないと旅の費用は捻出
出来ないか……。でも私も援助出来る程余裕がある訳じゃ無いから、どうしようも無いわね」
これがもし、まだ侵略が進んでいない部分の町や村だったらまだチャンスはあったかも知れないと
アーシアは述べる。
しかしここは既に侵略されている場所。それもその中心地の王都なのだから尚更だ。
だからここに居る事自体が既に目を付けられる原因になってしまっているので、こうなればさっさと
このヴァーンイレス王国から出てエスヴァリーク帝国に入ってから色々とやっても遅くは
無いだろうと言う結論に達した。
アーシアにその考えをアイヴォスが話すと、彼女も頷いて同意する。
「うん、そうね……それが良いと思う。この世界を楽しんで……とは私からも言えない状況だし、王都を
出るだけなら別に問題は無いと思うけど、その青い服にその剣はなかなか目立つから……ちょっと待っててね」
さっきと同じ様にそう言って再び部屋の外へと出て行ったアーシアは、今度は2分位してから戻って来た。
その手には茶色の、所々擦り切れている様な長い布が握られている。
「何だ、それは」
「これは私の彼氏が使っていたローブなんだけど、もうその彼氏とは別れててね。返そうと思ったけど
その彼氏は今忙しいみたいだし、取りにも来てくれないし……だからこのまま物置に入れてホコリを
被っちゃうよりかは誰かに着て貰った方が良いだろうと思ってね」
何だか複雑な事情と思い出が詰まっているローブの様なので、1度はアイヴォスも受け取りを拒否する。
「ん……その元の彼氏のローブならその彼氏が取りに来る可能性もあるだろう。だからまだ持っていた方が
良いと思う。だから気持ちだけ今回は……」
「良いのよ別に。最近その彼氏はおかしくなってるんだから……」
「え?」
アイヴォスの申し出を遮り、アーシアはやや強引にそのローブを突き出して来た。
だけどアイヴォスは、そのアーシアの彼氏がおかしくなってしまっていると言う事の方が気に掛かってしまう。
「おかしくなってる……?」
「そうなの。最近その彼氏が変なのよ」
「……どんな風にだ?」
余り個人の事情に首を突っ込むべきでは無いのは分かっている。
しかしそれでも、その彼氏が変だと言う思わせぶりな発言をしている事やその彼氏の物であるローブを
わざわざ自分に着させてくれると言う事は、どうもその彼氏の事をアーシアが嫌っている様な素振りにしか
見えないとアイヴォスは思った。
だから話してくれるかどうかは一種の賭けでもあったが、意外にもアーシアはあっさりと話してくれた。
「何か焦ってるみたいで。詳しくは知らないんだけど。そもそも彼氏……って言うか、もう今の私にとっては
元の彼氏だけど仕事関係で会う事が多いのよ。その彼氏って言うのが私の所属している
ヴァーンイレス解放軍の軍人なのよ。そして私はその医療部隊で働いてるの」
「となればその彼氏は私と同じ軍人と言う訳か。そして君も……」
納得する様子のアイヴォスを見て、アーシアは彼が前に言っていた事を思い出した。
「そう言えば貴方も、そっちの世界では帝国軍の軍人だったかしら?」
「ああ、そうだ。そして所属しているのがヴァーンイレス解放軍と言う事は、名前の通りこのヴァーンイレス王国を
そのカシュラーゼの支配から解放する為に活動しているのだろう?」
アーシアは頷く。
「うん。でもやっぱり圧倒的な戦力差がある訳だし……その解放運動もなかなか進まない状態が続いていてね。
むしろ私達の方がどんどん追い込まれて、私達はこの王都に追い込まれている感じ。そしてここはもう既に
カシュラーゼの領地になっているから、もう諦めちゃっている感じなのよね」
「……」
アーシアの声色と表情からも、その諦めの感情は十分に伝わって来た。
話を聞く限りではもう殆ど負けが決定した様なものだし、このまま侵略され尽くすのも時間の問題だろう。
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