A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第7話


(まさか、いや……そんな事は現実に考えたらあり得ないだろう)

これは夢なんじゃ無いか? そんな事は信じたくない。

しかし今自分が座っている椅子の感触、靴の裏から伝わって来る床の感触、

目で見ているこの地図のリアルさ、目の前に座っているアーシアのその顔。

そのどれもこれもが、今までの34年間生きて来た自分の人生の中で夢にしては感触も

リアル過ぎるし視界もクリア過ぎる。

何よりも声をしっかりここまで聞き取れている事が、アイヴォスの脳に対して嫌でもこの状況は

「現実」なのであると伝えて来るのだ。


(そうだとしたら、今の私が居るこのエンヴィルーク・アンフェレイアとは……地球とは違う世界!?)

首の後ろに流れる冷や汗が、軍服の襟とその下のワイシャツの襟を濡らすのが分かった。

それでもまだこれを現実とは受け止めたくない。

もしかしたら、これは誰かが仕組んだ壮大なイタズラかも知れないと言う可能性をアイヴォスは考えていたからだ。

スッと立ち上がり、アイヴォスはベッドの下や天井の木目の間、それから窓の外等を色々とチェックし始める。

「……何してるの?」

いきなりのその行動にアーシアは疑問の声を上げずにはいられない。

それすらももしかしたら演技かも知れないとアイヴォスは思いながら色々と調べ回ってみたものの、

結局撮影用のカメラや隠しカメラ、撮影の為のスタッフの姿も見当たらない。


それが分かるにつれて、冷や汗の量も段々と増えて行くのが感触で分かるアイヴォス。

認めたくは無いけど、認めるしか無いのかも知れない。

(こんな状況では流石に……)

もう認めるしか無いだろう。

明らかに落胆の色が見えるその立ち振る舞いで、アイヴォスは再びアーシアの向かいに座った。

そして意を決して口を開く。

「……アーシアだったか」

「ええ、私はアーシアよ。何?」

「その、信じて貰えるかどうかまでは分からないのだが……いや、正直に言えば私だって未だに信じられない気持ちだ。

しかし、それでもこれだけは聞いておかなければならない。この世界の名前は、エンヴィルーク・アンフェレイアで

間違い無いのだな?」


頼むから、その口から「地球」と言う単語が出て来て欲しい。

アイヴォスの頭の中はその願いで埋め尽くされていたが、彼女の口から出て来たのは……。

「ええ、それで間違っていないわよ。こうしてこの地図にも書いてあるし」

エンヴィルーク・アンフェレイアの表記が間違っていないと言う彼女のその答えが、アイヴォスの頭の中から

最後の希望を残酷にも消してしまった。

彼女のその答えにアイヴォスは目を閉じ、ふっと息を吐き出して椅子にもたれ掛かりそのまま天井を見つめて押し黙る。

「ねえちょっと……さっきから貴方おかしいわよ? 急にうろうろしたり、

黙り込んじゃったり……一体何がどうしたって言うのよ?」

本当に分からない、と言うのがありありと分かる口調でアーシアが宙を見上げたままのアイヴォスに問い掛ける。


そのセリフにアイヴォスがスッと目を開け、何かを決意した表情で両肘をテーブルに着き、そして手を組んで

顎をその上に乗せた体勢で口を開いた。

「……もう1度同じ事を聞くが、本当にエンヴィルーク・アンフェレイアなのだな?」

「だからそうだって! 一体何なのよ?」

若干イライラした口調で返答するアーシアに、アイヴォスは自分の考えを述べ始める。

「やっぱり私も信じられないし信じたくない気持ちで沢山なのだが、今までのやり取りとこの世界地図を

見ていて思った事がある」

「え?」

「この国……いや、このエンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界そのものが、どうやら私の住んでいる世界とは

まるで違う世界なんじゃないか……とな」


2人の間に沈黙が流れる。

「……は?」

アーシアはアイヴォスの予想していたリアクションを取る。

「やはり信じられないか?」

「そ、そりゃそうでしょ。貴方は一体何を言ってるのよ。それにさっきから色々不自然な行動したり、挙動不審なのも

良い加減にして欲しいと思ってたらいきなり今度はそれ? 違う世界かも知れないって言われたって、

そんな事信じられる訳が無いじゃない!!」

「ああ、だから私も未だに信じられないとさっき言ったんだ」

自分の脳がこの現実を受け入れる態勢になって来たのか、アイヴォスは普段通りの冷静な口調に戻りつつあった。


しかしアーシアの方が今度はパニック状態になって来ているらしい。

「いやいやいやいや、そう言われてもこの世界にそんな違う世界からやって来た人間が居る……なんて話は

聞いた事が無いのよ。え、何これ……新手のイタズラ?」

アーシアが目の前でさっきの自分と同じ事を言っていると分かり、アイヴォスは「ふっ」鼻で笑ってしまった。

「何がおかしいのよぉ!! おかしいのはそっちでしょぉ!?」

自分の言動を鼻で笑ったその態度のアイヴォスに対し、ますますヒートアップするアーシア。

アイヴォスはそんな彼女に、冷静に一言こう告げた。

「私の身体から魔力とやらが感じられない、と分かった時から君も何かがおかしいと感じていたんじゃないか?」


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