A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第24話
エヴェデスは男に礼を言った。
「どうも感謝する。これで色々な場所を見て回れそうだ」
世界地図は無いけれど、これで行くべき町の目途はついた。
「いーよ別に。……で、後は働く所だっけ?」
「ああ、盗賊に金まで盗られちまって。だから先立つ物が色々と必要でな」
そのエヴェデスの一言に、つい男は疑問を口に出してしまう。
「……金を盗られた割には荷物が結構あるみたいだけど」
「え、ああこれ? 特に金目の物なんか入ってないよ。服とかそれ位しか無いし、何よりも汚れてるから
要らねーっつって金とかそれこそ地図とかが売れそうだからっつって逃げてった」
「そうか」
(自分でも良くこんなにペラペラ嘘がつけるなー、どうしたんだろうなー……俺の口は)
自分の口の回り方に心の中で苦笑いを浮かべつつも、何とかその理由で納得はして貰えたらしい。
それに前半部分に関しては別に嘘はついていない。服は現代のドイツ軍の軍服とナチスの制服の
上着が入っている訳だし、普段着ている軍の制服はあの大掃除でホコリで汚れているから本当の事だった。
「働き口だったらゴリソニーかサーヴォスしか無えな。ギルドには属してるんだろ?」
「へっ?」
また自分の知らない単語が出て来てエヴェデスはキョトンとしてしまう。
(どうする……素直に属して無いって言うかそれとも嘘をついて誤魔化すか……)
さっきは自分の直感を信じて雑貨屋で大失敗の結末に終わってしまったエヴェデスだったが、今もまた自分の
直感に頼るしか無いらしい。
どっちに転ぶかは分からないが、それでも答えなければならないエヴェデスの出した答えは……。
「いや、俺は所属して無いな」
「えっ、そうなのか!?」
(うわ、まずい!?)
明らかにビックリした顔つきをした男に、エヴェデスも内心でビックリしてしまうと同時にデジャブを感じた。
「冒険者だったら普通はギルドに所属してねえと仕事貰えないぞ。あんた、どうやってここまで旅をして来たんだ?」
ドンドン強くなる疑いの視線。
またやらかしちまったかとエヴェデスは苦虫を噛み潰した様な顔になりかけるが、ここで諦める訳にはいかないので
何とか口を開いた。
「俺の生まれ育った町には風習があるんだ。大人になったら人生で1回は自分の力だけで金を持って世界中を
旅してまた戻るって。だから俺もそれをやってるんだよ」
「そんな風習、聞いた事も無いがな」
「そりゃそーさ。だって俺は元々この国の人間じゃ無えしな。別の国の町の風習だから知ってる方が
珍しいんじゃ無えのかな。って事で、ギルドには頼らずに何処かで働けねえか?」
物凄く無理がありそうな設定だったが、これしか今のエヴェデスは思いつかなかった。
「……ギルドに所属してないってなるとかなり難しいな。少なくともこの村じゃ無理だ。ギルドはこの世界の就職の
感情の大多数を担っているからな。ギルドを通して依頼を受けるのが当たり前だし……」
とりあえずその説明で納得してくれた様な素振りの男は、エヴェデスに対して難色が強く示された表情で腕を組んで唸る。
「まぁ、地道に聞き込みとかすれば日雇いの仕事とかあるんじゃねえか? 俺からはそれ位しか言えねえよ」
「そっか。それだったら俺は先にその……何だっけほら、1つ目の町……」
「ゴリソニーか?」
「そうそうそっち。さっきも言ったけど荒くれ者の少ないって言うそっちに行ってみる。色々ありがとな」
「ああ、気をつけろよ。ここから出てまっすぐ歩いたら街道に出るし、立て看板があるからそれ見て進むんだな」
「分かった、どうもありがとう」
これ以上怪しまれる前に離れた方が良いと考え、エヴェデスはそばの出口から足早に村の外に出て街道へと向かった。
エヴェデスのそんな様子を見ていた男は、彼が自分の視界から消えるまで黙ってその背中を見つめていた。
「……西か」
ぽつりとそう呟いて、男は自分の家へと向かって戻って行った。
やはりあの男は怪しい。
そもそも魔力が全く感じられない時点で、今までの話が全て嘘だと言う証拠だろう……としか思えなかった。
だからさっさと何処かに行って欲しいと言う思いで道案内をしたのであるが、男にとってこのエヴェデスとの出会いが
後に大いに役立ってくれる事となった。
それは男がエヴェデスと別れた翌々日、つまり2日後まで時間は経過する。
バタバタと朝早くから村の中が騒がしくなり、何事かと村人達が外に出てみればそこには完全武装して馬に乗って
やって来た王国騎士団や魔術師軍団の姿があった。
「王国騎士団だ、全員広場に集まれ!!」
「罪人を捜索中である!! これからこの村の一斉捜索と聞き込みを行う!!」
一体何なんだとその男も思いつつ村の広場に集められ、自分の家が捜索されているのを見ながらエヴェデスの事を思い出していた。
(やっぱり話しておくべきだよな)
昨日自分が道案内をしたあの男こそ、騎士団の分隊で隊長格を務めているらしい男が言っている罪人とやらなのだろうと
直感で思い当たった男は、下手に隠すと自分まで投獄されかねないので全てを騎士団に話す事にしたのだった。
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