A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第37話


「厳密に言えば攻め込んだのは魔術王国カシュラーゼを筆頭に、カシュラーゼの軍事関係の武器や

物資の支援を商工に秀でているイーディクト帝国がしていた。それから農耕に秀でた南国のアイクアル王国が、

その連合軍の兵士達の食事を材料提供等でバックアップをして、なかなか決着のつかない戦争に止めを刺す為に

ソルイール帝国が騎士団を送り込み、ヴァーンイレス王国は壊滅してしまった」

一気に色々な国の名前が出て来たが、この世界の事を良く分かっていないアルジェントが色々教えられても

位置関係すら分からないので何とも言えない。

その事をアルジェントが伝えた所、大公はわざわざ部屋の外に居る騎士団員に世界地図とペンを持って来させて

そこに色々と描き込みながら説明を始めた。

「ここが我がエレデラムだ。その戦争に関係していないのは我がエレデラム、それから北にあるこのルリスウェン公国、更に北の

リーフォセリア王国もそうだし、そして我が国と西の海を挟んだエスヴァリーク帝国……この地図だと1番南東のこの場所になるか」


ペンで印をつけたり国名を囲ったりして地図にマークをして行くのを見て、アルジェントはようやく戦争の規模を知った。

つまりこの世界にあるメインの国家9か国の内、半分以上の5か国がその戦争に関与していた事になる。

「もしかして、その負けた国のヴァ―……ええと……」

「ヴァーンイレス王国だ」

「そうそうそれです。そのヴァーンイレス王国の人達が野盗になって世界中に散らばったって言う事ですよね、今の話だと」

「そうだ。王国騎士団にそれから腕の立つ国民、中には王族関係者に近い所の人物も居るって噂だ。そうした敗戦国の

人間の何割かは国外に逃亡し、野盗になって人々を襲う者も居れば傭兵となってギルドで働く者も居る」

「ギルド……傭兵の仕事場みたいな?」

流石にギルドと言う単語位はアルジェントにも聞き覚えがあった。

「ああ。そこならば国籍を問わず他国で働く事も出来るが、人間は考える事が皆同じでは無いからな」


しんみりとした空気がこの部屋全体に流れたが、だんだん本題から離れて行ってしまっているのに気が付いたアルジェントは

ここでその本題に話を戻す。

「……その野盗連中と騎士団長が繋がってるらしいってのは分かったんですけど、そろそろその騎士団長の話を何で

俺にしたのかって事を教えて貰えませんかね?」

「あ、ああそう言えばそうだったな、すまない。その大規模な戦争で敗戦したヴァーンイレス王国の国民が野盗と化し、

我がエレデラム公国にも乗り込んで来た。ここまで話したんだったな。それで、その野盗の群れが1つの町を襲撃した。

それなりに大きな町だったが、夜も更けた警備の気が緩みやすい時間帯に突然襲われたものだから、成す術も無く

町は壊滅させられた」

そこで一旦言葉を切って、大公はラニサヴにまつわるエピソードをいよいよ口に出す。

「その町には、騎士団長が将来を誓い合った恋人が住んでいたのだ。それから騎士団長の家族もその町に移住していて、

恋人だったその女性とも顔見知りだったらしい」


そこまで聞いて、まさか……とアルジェントの脳がその先の話を予測した。

「もしかしてその騎士団長の恋人と家族が、さっき大公さんが最初に言ってた……」

その先のセリフを言う事をためらうアルジェントの目の前で、力無く大公の首が横に振られた。

「その通り、知り合いはその恋人と家族だ。家族になる予定だった人間と自分の家族が住んでいたその町を野盗に殺された

騎士団長は、その知らせを聞いた時に文字通り発狂してしまった。私の判断で彼をこの城の地下にある牢獄に閉じ込めつつ

自害をしない様に監視させ、3ヶ月経ってようやく騎士団長が復職したのだ」

自分の家族は帝国内の地方都市で全員無事に暮らしているが、もしそのラニサヴと同じ様な事が自分の身に起こったら……と

考えた時の彼の苦しみはアルジェントにもイメージ出来た。


そう考えると、頭を使う事が苦手なアルジェントでも大体この先の話が予想出来た。

「もしかして、その騎士団長の傷ってまだ癒えてないんじゃないですか? だってきな臭い動きをしてるんでしょ? それがその、

自分に降りかかった大きな傷が原因でこの世界を憎んでいるって言う事だとしたらきな臭い動きをしているって事のつじつまも

合いますし、野盗と手を組んで何かをしようとしているんじゃないかって俺は思いますよ」

それはどうやら大公も考えている事は一緒だった様だ。

「ここまで説明すればやはりそなたでもそう思うか。確かに家族や恋人を失ったショックは大きいものだろう。

だが、だからと言ってきな臭い動きをしたり野盗と手を組んで良いと言う理由にはならん。気持ちは分からんでも無いがな」

そしてここまでの話の流れで、ぽっと現れた部外者の自分にこんなエピソードをわざわざ2人きりの場所で大公が話す理由も

その部外者のアルジェントは勘づく事が出来た。

「もしかして、俺にそのラニサヴ騎士団長をどうにかしろって頼みに来たんですか?」

ストレートにそう聞いた異世界からの来訪者に、エレデラム公国の大公は首を縦に振った。


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