A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第22話


そのまま馬に揺られ続ける事ラニサヴの言う通り1時間。

「あー……ケツがいてぇ。ちょっと休憩させてくれよ」

「軟弱だな」

嘲る様なラニサヴの呟きにも反応出来ない程、乗り慣れない馬に長時間揺られ続けていた

アルジェントは馬から降りてすぐ近くの岩場に向かってダッシュ。

その内の1つの大きな岩に座り込み、ひんやりとした感触にはぁーっと息を吐き出す。

(飛行機とかヘリならわからねーでもねーけど、流石に馬にこんな長時間乗ったのなんて初めてだぜ」

元々シラットで身体を鍛える前からガキ大将的な存在だったアルジェントは、ボーっとしているよりも

身体を動かす方が好きなタイプなので何時間も座りっ放しって言うのは肉体的にも精神的にも

良いものでは無かったのだ。


そんなアルジェントを始めとした一行は、洞窟があると言われている森の入り口に辿り着いていた。

(確かにこう言った場所の雰囲気からしてみりゃあ、洞窟の1つや2つあったって変じゃねーよな)

自然の中の洞窟と言えば観光スポットとなる事もあるが、この世界では地球の常識は色々と

通用しないので洞窟に着くまでも気は抜けそうに無いな、とアルジェントは目の前で打ち合わせを

している騎士団の面々を見ながら思う。

恐らく洞窟に着いた後の打ち合わせをしているのだろう。

洞窟には自分は入らずに雑用をしてもらうと言う事だったので、自分に関しての話で無ければ

聞く必要も無いだろうとアルジェントは身体を休める事に専念した。


そうして座って休んでいると、馬に長い時間揺られていた事もあってポツポツとこの世界に関しての不満が出て来る。

(今思えば、本当地球のテクノロジーって進んでたんだなー)

当たり前の様に子供の時から自動車が存在して、当たり前の様に子供の時から電話が存在して、

当たり前の様に子供の時から調理設備が存在して、当たり前の様に子供の時から飛行機が存在して。

ワイバーンがどうのこうのと言うラニサヴの話を除けば、今の段階では正直に言ってこの世界の方が

地球のテクノロジーと比べて遅れていると言わざるを得ない。

でも、今の段階で決め付けてしまうのは何か違う気がするともアルジェントは思う。

(ここって、地球とは違う世界なんだよなぁ)

もしかしたら自動車よりも早く移動出来る手段があるのかも知れない。

もしかしたら電話よりも早く自分の言葉を相手に伝えられる物があるのかも知れない。

もしかしたらパッと素早く料理が出来てしまう様な設備や器具があるのかも知れない。

もしかしたらワイバーンは飛行機よりも速いスピードで飛べるのかも知れない。

そう考えてみると、未知のテクノロジーに出会えると言う経験がもしかしたらこの世界では出来るかも

知れないと言うちょっとしたワクワク感がアルジェントの中に生まれて来た。


そのワクワク感が出て来たアルジェントの目の前に、話し合いを終えてスタスタとラニサヴが近付いて来た。

「休憩は終わりだ。先に進むぞ」

「あれ、話し合いは終わったのか?」

「終わった。10分位歩いたこの先にその洞窟がある。洞窟の手前にはちょっとした広場もあるからそこで

野営地を作り、騎士団は洞窟の中に探索に向かう」

「分かった。それじゃ俺は野営地を作るのを手伝ったりすれば良いんだな?」

「そうだ。分かったならさっさと立って歩くんだ」

10分位ならそこまで遠くは無いかと若干安心したアルジェントは、騎士団の後ろにくっつくスタイルで歩き始めた。

何事も起きなければ良い。それだけを願って。


結論から言えば、洞窟に辿り着くまでの10分間は何も起こる事が無かった。

だからこうして今、アルジェントと騎士団は簡単な野営地を設営しているのだ。

「おーい、そっち持ってくれ!」

「おう、分かった!」

ラニサヴは性格に難がある様だが、部下として一緒に行動している騎士団員は特に悪い人間でも無い様なので

異世界の人間もやっぱり人それぞれなんだろうとアルジェントは思いつつ作業に励む。

(何だか、久しぶりにこうやって身体を動かした気がする)

それもそうなのだが、それ以上にこうして色々と準備をしていると帝国軍で後方支援部隊に居た頃の自分を思い出して

自然と懐かしく感じる。


その懐かしい感覚を忘れない内に地球に帰りたいのは山々なのだが、それはどうやらまだまだ叶いそうに無い。

地球に帰る為のヒントだったり情報だったりと言うのが、今現在でアルジェントの元には人体実験を行っていた帝国で

騎士団長と英雄を殺したと言う男の情報と、もう1つの帝国の武術大会溺死団長を打ち負かして以降行方不明と

なっている茶髪の中年の男の話しか無かったからである。

しかしこの2つの情報を聞いていたアルジェントは、おぼろげながらも将来的にこの世界で自分が向かうべき場所が

分かって来た様な気がしていた。

(人体実験の帝国は、俺と同じ魔力を持たない人間が問題を起こしたって言うから行くのはまずいかもな。

そうとなったら、やっぱりこの先で俺が行く場所は……)


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