A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第20話
大分話がそれてしまったので、ここでアルジェントは元の話題に会話の路線を戻す。
「あー……そうそう、その魔力を持たない人間の話に戻るけど、ソルイール帝国のそいつの話はそれで終わりか?」
「ああ、俺が聞いた限りではこれで全部だ。ちなみに、その魔力を持たない人間の詳細については
男だと言う情報と、現在もまだ行方不明だって言う話以外には何も聞いていない」
「そうか。だけど行方不明のままだってんならまだこの世界の何処かに居る可能性もあるよな」
「そうかもな。……さて、もう1つの目撃情報のエスヴァリーク帝国の話をさせて貰う。こちらはその旅行に
行っていた奴が直にその姿を見たらしいから、こっちの方が詳しく話せるだろう」
「本当か!?」
今度は顔だけでは無く身体までラニサヴの方に向けられるだけ向けつつ食いつくアルジェントに、
食いつかれたラニサヴは再び引き気味になりつつももう1つの目撃情報について話し始める。
「エスヴァリーク帝国の武術大会に参加して来た男の話なんだが、ソルイール帝国の話とはまた違った意味での
大きな事を仕出かした。エスヴァリークはこのエレデラムの西側から海を渡って行けばすぐに着けるから、
出発する場所によってはソルイールに行くよりも近いだろう。そんなエスヴァリーク帝国では毎年季節の変わり目ごとに
武術大会を開いているのだが、1年の内で全部で4回ある3回目の武術大会にその男は参加して来た。
それも、毎年多くの参加者が集まる中でその男は何も武器を使わずに素手だけで予選を突破して来たとの話もある」
「素手だけで……って、まさかそれって!?」
情報が詳しければ詳しい程、その魔力を持たない人物にアルジェントが出会える可能性が高い訳でもある。
「じゃあ是非、詳しく俺にも教えてくれ!!」
相変わらずの食いつきっぷりにまたもや引き気味になりつつ、ラニサヴはその素手で勝ち上がったと言う男の話を
前置きをしてから話し始めた。
「繰り返し言っておくが、あくまでも人づてに聞いたものだから食い違いがあるかも知れん。その男の年齢はおよそ
40代中頃か……いや、もう少し上位だと言っていたな。服装は白い上着を着ていて茶色のズボン。それから茶髪だった」
だが、ここでアルジェントは違和感を覚える。
「おいおいちょっと待て。その聞いた人間って言うのは何でそこまで分かるんだよ? もしかしてその男と戦ったのか?
年齢なんて顔立ち位からしか分からないだろうに、そこまで詳しいってなりゃあ……」
「確かに俺がその男の情報を聞いた知り合いは大会に参加したそうだ。だが戦ってはいない。
だけど選手の控え室でその男を間近で見たらしい。余りにも軽装過ぎて目立っていたそうだからな」
「あ、そうなの……じゃあ続き頼むよ」
だったらそこまで詳しく覚えていても別に変じゃ無いかと言う事で、アルジェントはその男についての説明をもっと求める。
「その男の戦い方は独特だったと噂になっていたらしい。素手で戦う技術は確かにこの世界にも存在するが、
あくまでそれは補助的なものでしか無い。基本的にこの世界の人間は武器を持って戦うか、魔術を使って戦ったり
回復や防御に専念するかだからな。だがその男は全く、素手だけで数々の挑戦者を倒して戦い抜いたと聞く」
「素手だけねぇ……。でもよ、武器があれば防具もあるだろ。防具着けてる相手に対して素手だけじゃ幾ら何でも
不利過ぎじゃねえか?」
パンチやキックだけで与えられるダメージは、そのダメージを与える部位によって大小の差はあれど
武器を使った時に比べれば小さなものである。
アルジェントのそんな疑問に対して、ラニサヴはその知り合いが見たと言うその男の戦い方を思い出せる範囲で
思い出してからアルジェントに伝える。
「これも知り合いが言っていたんだが、知り合いはその男と戦う前に別の人間に負けたから結局戦えなかったらしい。
しかし、負けてしまって出番が無くなった後にその男の試合を観戦していた知り合い曰く、男は驚異的な
ジャンプ力と肘と膝の打撃を駆使して的確に相手を潰して行ったそうだ」
「肘と膝の打撃……」
それを聞いてアルジェントの心の中に幾つかのマーシャルアーツの候補が浮かんで来た。
(肘と膝っつったら真っ先に思いつくのはムエタイだな。でも確か空手とかでも肘や膝使うって聞いた事があるし、
それこそシラットだって肘や膝を使う事もある。どう言う膝の入れ方とか、肘の打ち方とかだったのかを知らなきゃ
特定のしようも無いか……)
例えばムエタイの膝での攻撃と空手での膝の攻撃は、打つ時の膝の角度等が微妙に違ったりする。
とは言えども言われないと気がつかないレベルだったりもするので、話を聞く限りではその男が何の格闘技の
使い手だったのかをこの時点でアルジェントは決め付ける事は出来なかった。
(もう少し詳しく話を聞けるだけ聞いておく必要があるかも知れねえな。その男が結局どうなったかだって
まだ分かってねーんだし……)
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