A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第18話
(あー、何だか最悪な気分だぜ……)
さっき自分で「多少腹が立ったり落ち込みそうな事であっても、そこはスルー出来る事ならばスルーする」と
決めた筈なのに、今のこんな状況であればため息も出そうになる。
でも馬に乗れない自分が文句を言えたり、そう言う態度を取れる様な立場では無い事も同時に
理解しているアルジェントは、今はラニサヴに抱きかかえられる形で馬に乗せられて進んでいた。
その状態で名ばかり少佐は非常に複雑な気分になっている。
(乗せてくれるのはありがたいが、流石に男に抱きかかえられるなんてあんまり嬉しいもんじゃねえよ。
これが胸の大きな若いお姉ちゃんとかだったら俺も嬉しいのによぉ)
心からの本音をその心の中で呟いてみるが、だからと言ってこの状況は変わらない。
これからその公都に着くまではずっとこの状況なのか……とげんなりしつつも、諦めて馬とラニサヴに身を委ねる事にした。
その途中で、ふとラニサヴがアルジェントの後ろから声を掛けて来た。
「そう言えば、俺達はこんな噂を聞いた事がある」
「噂?」
「ああ。少し前だったか……貴様がこの世界にやって来たのと同じ様に、突然現れて大きな出来事をこの世界で
引き起こした魔力を持たない人間が現れたと言う情報だ。それも2か国でな」
「ええっ!?」
おいちょっと待て、そう言った話は真っ先に自分にするべきなんじゃ無いのかと言う気持ちが抑えられないアルジェントは、
その噂について少しでも多く聞き出すべく、顔だけ限界まで後ろに振り返ってラニサヴに続きを促す。
「その噂、もっと詳しく聞かせて貰って良いか!?」
必死な様子のアルジェントの顔つきと口調にラニサヴは引き気味になりつつも、貴様ならそう言うだろうと思ったと
前置きした上で続きを話し始める。
「あくまでこれは俺の知り合いの騎士がその方面に旅行に行っている時に聞いたって言うだけの噂でしか無いし、
俺も実際にその「魔力を持たない人間」と会った事は無いからその人間の詳しい事までは知らんがな。
その魔力を持たない人間の目撃場所は2か所。1つはソルイール帝国と呼ばれる、このエレデラム公国の
北東に存在している国だ」
ラニサヴはまず、1回目の目撃情報があったと言われているソルイール帝国での話をアルジェントにし始めた。
「ソルイール帝国は色々ときな臭い事をしているって話だったんだが、それ以上の情報については今まで何も
入って来ていなかった。何故なら我がエレデラム公国は基本的にどの他国に対しても中立の立場を保っている
国だからだ。しかし、その魔力を持たない人間がきな臭い噂を他国に知らしめる大きな事をしでかしたのだ」
「大きな事って……?」
きな臭い話だとか、大きな事だとか言われてもこの世界の事すらまだまだ良く分かっていないアルジェントに
とっては、さっぱり話が見えて来なかった。
だから具体的な説明を求めてみると、そこにはアルジェントの予想をはるかに超える「大きな出来事」が確かに存在していたのだ。
「結論から言ってしまえば、そのソルイール帝国の帝国騎士団の団長が殺された。その魔力を持たない人間が
殺したと言う可能性が高いらしい。
「え!?」
そろそろ首も痛くなって来ていたので再び前を向きながらも、耳はしっかりと後ろのラニサヴからもたらされている話に傾けていた
アルジェントは目を見開いた。
だが、この話にはまだ続きがある様だ。
「しかもそれだけでは無い。この世界には傭兵や冒険者達が個人的に登録をして所属をする「ギルド」と言う組織が世界各国に
存在しているのだが、そのギルドではランク付けがされていてな。勿論上に行けば行く程難しい任務を任されるが、
それだけ名前が売れていて腕も立つ傭兵や冒険者と言う事になる。そのギルドに所属していた、ソルイール帝国の
英雄とも呼ばれるべき実力を持っていた男も一緒にその騎士団長と殺されたって言う話だ」
「……それ、噂って言うにしてはかなり大事(おおごと)じゃねーのか?」
「だから俺は「大きな出来事」だと言っただろう」
色々と聞きたい事があるが、逆に今はショックが大き過ぎて何から聞いて良いか分からない位アルジェントはパニック状態になっていた。
「え、ええとあの……山程聞きてえ事はあるんだけど、とりあえず俺はあんたの話を全部聞いてからにするわ。
で、その騎士団長とギルドの英雄……だっけ?」
「ソルイール帝国の英雄だ」
「そうそうそれそれ。その帝国の英雄って言うのが一緒に殺されたんじゃないかって話なんだろ? って事は、殺されるだけの事を
そいつ等がしでかしてたって話になるんだな?」
後方部隊所属とは言えども軍人であるアルジェントからしてみれば、自分の様な名ばかり少佐等では無くてそれこそ
軍のトップである元帥や将軍が殺されてしまった事になるのか……と驚きを隠せなかった。
(もしかして、これ以上に驚きの話が俺を待ち受けているんじゃ?)
異世界にやって来て全然時間が経っていないのに、こんなヘビーな話を聞かされて良いのだろうかと疑問に思いつつ、
アルジェントはラニサヴの話の続きを待った。
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