A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第6話


今はとりあえず、この林から抜け出して自分以外の人間を探さなければここが何処だか

分からないのでアルジェントは再び歩き出す。さっきの様な異形の生き物が生息している地帯であるのも

分かった上では、周りの気配に気をつけつつ進んで行った方が良いだろうと考えた。

(相当ヤバイ事になってるのは間違い無いみたいだが、かと言ってこの状況は俺だけじゃどうにもならなそうだぜ……)

こんな経験は今までの人生の中で全くの未経験である。

だからこそ、普段は直情的な行動に出やすいと自分で分かっているアルジェントも今ばかりは心にブレーキを

幾度もかけつつ進んで行く事を最優先に考える。

しかし、この時のアルジェントは思いもしていなかった。

あの異形の生き物のインパクトよりも、それからスマートフォンが何の役にも立たないショックよりも更に

大きなショックが襲い掛かる事になろうとは……。


スマートフォンが使えないと分かったら今は別に使い道も無いので、遠目に見えるさっきの異形の生き物の

写真をカメラ機能を駆使して撮影だけしておく。神話やファンタジーの世界に疎いアルジェントもやはり人間で

あると言うべきか、未知の生物に出会えたインパクトは大きなものである。

もしかしたら、まだこの世界が地球じゃ無いんじゃないかと言う疑問を打ち消したい故の行動か?

それとも逆に、もしかするとこの世界は地球じゃ無いのではないかと言う疑問を確信に変えて受け入れる為に

覚悟した上での写真撮影か?

(何かもう、色々と考え過ぎて頭がおかしくなってんじゃねーのかな……俺)

自分でも何でこんな事をしているのかが分からない。

もうこうなったらシンプルに、興味本位からの行動だったって事で良いか……と考えるのが苦手な名ばかり少佐が

シャッターを切ったその瞬間だった。


「……へっ?」

何処からか飛来した1本の矢が、その異形の生き物の顔面に突き刺さるのが見えた。

それと同時に生き物の物凄い絶叫が林の中に響き渡り、思わずアルジェントは顔をしかめて耳を塞ぐ。

チラッと遠目に見えた限りでは、恐らく目の部分に矢がダイレクトヒットしたのでは無いかと思いつつ

林の木々の間に身を隠して様子を見る。

(一体何が起こっているんだ!?)

突然の矢の飛来と生き物の絶叫に、その場から逃げるよりも野次馬根性の精神が勝ったアルジェントは

しばらくその様子を見てみる事にする。

生き物のそばに生えている、一際大きな木の上から矢を飛ばして来たと思わしき人間が上手く着地する。

遠目の位置なので良く分からないが、髪の毛が赤い事と体格からすると男っぽい事、それから背中には

弓を背負って腰には2本の剣を携えている事位しか分からない。


その2本の剣を引き抜いた男がその男の2.5倍程の高さ、横には遠目でしかも動き回っている為に分かりにくいものの、

男の身長からする大体地面に寝て3人分位の長さじゃないか? とアルジェントが予想する大きさのボディを持っている

その生き物とたった1人で対等に渡り合い始めるのが確認出来た。

フェイントも織り交ぜながらの素早い動きで明らかに体格で勝っている生き物を翻弄しつつ、その生き物の胴体や

足目掛けて斬り付け攻撃を行っていく。

(なかなかやるじゃねーかよ、あいつ……)

プンチャック・シラットのインストラクター資格を持つレベルのアルジェントから見ても、男の実力はかなりレベルが

高いものであると認識させるには十分な動きであり思わず見入ってしまう程に洗練された動きでもあった。

シラットは流派にもよるが、演武であれば型の綺麗さも求められる。

しかし実戦であれば型の綺麗さなんかに構ってはいられない。

むしろ地面に引きずり倒されようが、押し倒されて圧し掛かられようがそこから幾らでも脱出する為のテクニックを

持っているシラットは泥臭くなりがちなのもある。

これはシラットに限らず他の格闘技においてもそうだと思っているアルジェントは、あれだけの綺麗な戦い方であっても

的確にそして素早くターゲットを仕留める事が出来る男のテクニックに素直に称賛の気持ちを抱かずにはいられなかった。


でも、そこで同時に1つの疑問が湧き出て来る。

(そういや、あいつは何であの怪物みたいな奴に襲い掛かってんだ?)

男のテクニックに見入ってしまって今までその疑問がすっかり頭の中から抜け落ちていたアルジェントだったが、その点について

考え始めるとまた色々と可能性が見えて来る。

この辺りをあの怪物が荒らし回っていて、その怪物を退治しに来た人間かも知れない。

ただ単純に、あの生き物を今晩の食事にする為に狩りをしに来たのかも知れない。

あるいは自分よりも強い相手と戦いたいが為にわざわざここまでやって来た挙句、あの様にして自分からバトルを

挑んで行ったのかも知れない。

どれもこれも自分の勝手なイメージでしか無いので、せっかく見つける事が出来た初めての人間でもあるし

バトルが終わり次第話しかけてみようと考えたアルジェントはそのタイミングを待つ事にした。


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