A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第55話


セバクターとの、武器を使った相手に対するシミュレーションから2日後。

窓の外では灰色の雲が空を覆い尽くし、土砂降りの雨が降っている為にアイベルクは気分が沈みがちになっていた。

(この世界の雨も地球と同じ様な振り方なんだな……)

別に雨の降り方に世界での違いがあるのかどうかは分からなかったが、何となくそんな風に思ってしまう

アイベルクは頭の中で色々とシミュレーションを繰り返していた。

勿論セバクターと2日前に戦った時の事を忘れない様に、そして何時武器を持った相手が

襲い掛かって来ても良い様に。

セバクターは爆弾テロ事件の情報が何時やって来ても良い様に、今日も騎士団長の執務室で大忙しとの

話を聞いていたので、流石にそんな状態の彼をまたシミュレーションに付き合わせる訳にも行かないだろうと

自分でこうして頭の中でシミュレーションをするしか無いアイベルク。

もう少ししたらまた鍛錬場を使わせて貰って身体を動かしに行こうと考えていたが、その前に腹の虫が鳴ったので

先に食堂へと向かった。


身体を動かすシミュレーションをするだけでも身体が反応して腹が減るのだろうか? と人間の身体の不思議さに

アイベルクは若干困惑しつつ昼食を済ませる。

(食べたばかりで動くのもきついな)

だったらこの所バタバタしていたのでなかなか出来なかった事……まだ余り進んでいない、地球への帰り方を調べる事も

そう言えばあったなとアイベルクはここで思い出して、一旦バトルのシミュレーションから離れる事にする。

元々格闘家出身の軍人のアイベルクだって、別に24時間365日バトルの事ばかり考えている訳では無いのだから。

(余り戦いの事ばかり考えていても疲れるからな。気分転換と言う訳では無いが、私にとっては絶対に

必要な事もやらなければ)

身体を使う事ばかりでは無く、頭も使わなければ人間は上手く生きて行けない生き物だ。

なのでその頭を使うべくアイベルクは図書館の使用許可をセバクターに貰って、ついでにその後に鍛錬場も

使わせて貰うと言ってから図書館に向かった。


(ええと……前は何のジャンルの本を何処まで調べたんだったか……?)

それなりに記憶力には自信があったものの、流石に自分が拉致されてしまうと言う生涯初の経験をした為に

アイベルクは前回この図書館で何の本を何処まで読んだのかを忘れてしまっていた。

仕方が無いので、とりあえず気になる本をまたこの膨大な本の量の中から探して読んでみるか……とアイベルクは

無意識にため息を吐きつつ本を探す為に図書館の中を歩き出した。

だがその地球に帰る方法を調べる行動がまたもや邪魔される事になってしまう未来を、再び図書館で本を探し始めた

アイベルクは知る由も無かった。

その未来を知らないアイベルクが調べ物をする為に色々な本を読みふけっていたのだが、ふと顔を上げて1つの

疑問が頭に湧いて来る。

(……んん、今は何時なんだ?)

晴れている日は太陽の沈み具合でどれだけ時間が経ったのかが分かっていたアイベルクだが、今日の様に

土砂降りの雨の日では太陽も出ていないので今何時なのかが分かりづらい。

仕方が無いので司書に自分がここに来て何時なのかを聞いてみた所、大体3時間位経っているとの返答があった。

(もうそんなに経つのか)

地球に帰りたい一心で読み進めていた本は何時しか4冊目に突入していたが、座りっ放しで本を読んでいた為に

身体の節々が鈍っているのが分かる。

今日はここまでにしておくかと思い、身体を動かしてから夕食を取りに行くべくアイベルクは本を本棚に返して図書館を後にする。


肩の傷もなかなか良くなり、礼服とワイシャツも縫って貰った上にクリーニングまでしてくれたので、再び黒のガラダイン王国軍の

礼服姿でアイベルクは城の中を歩く。

(少し遅くなったが、屋内の鍛錬場もあるからそちらに向かうとしよう)

以前使用した鍛錬場の他にも、こうした悪天候の時の為に造られた鍛錬場が幾つか城の中に存在している。

図書館に来る前、その内の1つをセバクターに紹介して貰ったのでアイベルクは迷わずそこに向かって地図を見ながら歩いていた。

(えーと、次の角を右に曲がって……)

行き先を確認したアイベルクが地図から目を上げたその瞬間、ふ……と一瞬だけだが騎士団では無い人間が突き当たりの

T字路を自分から見て左に歩いて行った様に見えた。

(……今、誰か居た様な……)

そう考え始めると何だか気になってしまう。

近くには騎士団員の姿もあいにく見当たらないので、確認するだけしておこうと思いながらアイベルクはT字路を鍛錬場に

向かう方向の右では無く左に曲がってその人間の後を追いかけ始める。

(誰か不審人物が居るのか?)

自分が拉致される発端になった、この城へのメイベル盗賊団の襲撃事件はまだまだ記憶に新し過ぎる程だ。

自分も部外者みたいなものだが、もし部外者がこの城の中をウロウロしているのであれば確認してセバクターに

報告する必要があるだろうと思ったアイベルクは迷い無く廊下を進んだ。


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