A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第53話


「隊長、本当にこっちの道で合っているんですか?」

「ああ間違い無い、発信機はこっちを示しているからな」

手元に握られている発信機の位置を示している魔石を見て、帝国特殊部隊隊長のクローディルは

副隊長のニーヴァス、それから騎士団員のシーディトにカヴィルドやルディスにライウンと言った騎士団の

部下4人も引き連れてあの爆弾テロ事件の主犯の行方を追い求めていた。

魔石が示す位置によればかなり遠い所まで短時間で行った事が分かったので、騎士団の面々も

馬では無くワイバーンでの移動でここまでやって来た。

今彼等が居る場所は帝都から遠く離れた、それこそ帝都から南に向かってずっと飛んで来た場所にある

深いエムノザ山脈の中である。


そのエムノザ山脈の方に向かって発信機の光が示されているその状況で、迷い無く騎士団員達が

そこに向かう以外の選択肢は無かった。

特にクローディルは自分があの主犯のメイベルを逃がした事もあり、その負い目を感じて自分が何としても

メイベルをこの手で捕まえてやると言う気持ちで一杯だった。

カヴィルドは「熱くなり過ぎない様に」と釘を刺しておいたのだが、クローディルはその忠告を聞いているのか居ないのかが

分からない表情をしていたのがカヴィルドには引っかかっていたのだ。

(隊長、大丈夫なのか?)

その気持ちを抱えていたのはカヴィルドだけでは無く、サポート役として一緒に来ていた4人の騎士団員達も同じだった。

「思い詰めた顔だな……クローディル隊長」

「いざと言う時は俺達が止めないと」

「その前にあの女がどんな事を企んでいるか分からないから、俺達が全力でサポートだ」

「僕等がついてても心配だねぇ」


そんな騎士団員達の心配を背中に聞きつつ、クローディルは山道を歩いて発信機が示している場所に向かって進む。

この先に居る事は間違い無い。

ワイバーンですら入れない様な狭い山道を足元に注意しながら進む一行の前に、横に広い敷地を持つ古びた2階建ての

建物……さながら何かの研究施設の様な雰囲気が漂って来る、この山の雰囲気に似合っている様で似合っていない

微妙なラインの施設が姿を見せた。

白い壁は汚れで至る所がドス黒く変色しており、長い間手入れがされていない事が見て取れた。

でも、この山の中だからどちらかと言えば手入れしても追いつかないのだろうと思いつつクローディルは背負っている大剣に手を掛ける。

「着いたぞ。武器の用意は良いか?」

後ろを振り向いてそう尋ねたクローディルの目には、無言でそれぞれの武器を構えた男達の姿が映った。

それを見て1つ頷いたクローディルは、用心するに越した事は無いと音を立てない様に心掛けながら建物に向かって進む。

発信機の位置は先程からこの建物の中で止まったままなので、やはりこの中にメイベルが居ると確信した。


その施設の入り口の大きな両開きのドアにクローディルとニーヴァスが張り付き、騎士団員4人組はそれぞれ二手に分かれて

左右からまず建物の様子を伺う。

特に中に変わった様子は見当たらないので、1度正面の入り口の前に全員集合してからゆっくりそのドアを開けて中へと踏み込む。

発信機ではこの建物の「何処」にメイベルが居るかまでは分からないが、それでもこの建物の中に発信機があるのは確実だ。

踏み込んだ一団はそれぞれ2人ずつに分かれて、3チームで建物の中を回って行く。

「な、何だお前等!?」

踏み込んだ騎士団員を発見した獣人が現れ、武器のハルバードを構えて向かって来るもののしっかりとクローディルが大剣で撃退。

その後も建物のあちこちで武装した人間や獣人達に遭遇したものの、帝国騎士団員達の敵にはならずに

メイベル捜索続行を許してしまう。

「そっちはどうだった?」

「こっちは襲い掛かって来た奴等は全員始末しました。そっちは?」

「こちらも多少襲われたが特に問題は無かった。残るは上の階だけだな」


合流した騎士団員は2階建ての上の階へと階段を上って進んで行く。

その2階でも何度か獣人と人間に襲われはしたものの、1階と同じ様に大した相手でも無かったので無事に騎士団は

探索を続ける事が出来た。

その探索を続けて、ようやく残るは所長室らしい一際大きな扉の前である。

「……準備は良いか?」

クローディルの問いかけに部下の5人全員が頷き、その扉をクローディルとシーディトで同時に蹴り破って中に飛び込んだ。

……が。

そこにあったのは人間では無く、無人となった部屋のデスクの上に放置されている1つの物体。

その物体はクローディルには見覚えのある物だった。

「こ、これは俺があの女につけた発信機!?」


困惑するクローディルのそばで、後ろに居るシーディトがデスクの上に置いてあるもう1つの物体に気がついた。

「何だこれ?」

四角くて小さなそれは、粗末な素材の紙に書かれているメモ。

そのメモにはこう記されていた。

「お馬鹿さん」

その一文を見た瞬間、デスクのそばに大きな魔法陣が突然描かれ始めた。

それを見て騎士団員達が揃って顔を見合わせ、みるみる表情が変わる。

「ぜ、全員逃げろーっ!!」

ルディスの大声と共に走り出した騎士団員達は、そのデスクの後ろにあった大きな窓を全員一緒に突き破って1階へとジャンプ。

次の瞬間騎士団員達の後ろの建物全体が一瞬光ったかと思うと、間髪入れずに大きな衝撃と爆発音が響き渡った。


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