A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第22話


そんな帰りたい気持ちを持ったまま、日課の朝のトレーニングを始めるアイベルク。

とは言っても寝起きの覚醒しきっていない頭を目覚めさせる為の軽い運動レベルのものであるから、

激しい運動はしないと決めている。

それからこの割り当てられている部屋も広く無いので、余計にダイナミックな動き等は無理な話だった。

最初は軽いスクワットからスタートし、次に床に座って左右に180度の開脚をして寝起きの身体に

柔軟性を取り戻して行く。この様に下半身のトレーニングをメインにストレッチする事によって、

上半身のストレッチオンリーのストレッチよりもずっと身体が温まるし身体が良く動く様になるのである。

特にテコンドーを習得しているのであればそれこそ足の動きがメインになるので、一層足のストレッチは重要なポイントだ。


今度は開脚をしたまま地面に向かって上半身をゆっくり倒して行き、腕もそこから前に向かって伸ばして上半身もストレッチ。

「よっ……」

その声と共に手と腕に力を込めて下半身を浮かせ、逆立ちの姿勢に持って行く事でバランス感覚もトレーニング。

更に逆立ちの姿勢から体幹を上手く使ってバランスを取りつつ、腕の力だけで倒立腕立て伏せ。

アイベルクにとっては文字通り朝飯前の運動にしか過ぎない。

これもまた、長年のテコンドーのトレーニングで身に着ける事が出来たバランス感覚や体幹の強靭さの成せる業である。

倒立腕立て伏せを30回カウントしたアイベルクはゆっくりと身体を地面に下ろし、今度は立ったまま足を真上に

蹴り上げる形でゆっくりと開いて上下の開脚。

先ほど逆立ちの前にやっていたのは「左右」の開脚で、今度は「上下」の開脚をする事で相手を蹴り上げる事を

イメージしたものになる。


テコンドーの場合では、相手を蹴り上げると言うよりもネリチャギ(ネリチョギ)と呼ばれている、空手の踵落としの様な

テクニックの為に上下開脚をトレーニングする。

自分の足の甲が目線よりも高い位置に見えるまで足をまっすぐに天高く上げ、そのまま壁に足から寄りかかる形で

体重をかけてグッグっと股関節のストレッチ。

反対側の足も同様に同じ体勢で壁を使って柔らかくしておき、身体が鈍らない様にしておく。

だけど、少し……ほんの少しではあるものの、馬車の中で縛られたまま満足にストレッチも出来ない状態のままだった事が

アイベルクの身体を鈍らせてしまう事に繋がってしまったのだった。

他人の目から見てみると分からない様なレベルでも、長年に渡ってその朝の運動を欠かしていなかったアイベルク本人から

してみればやはり分かってしまうレベルである。


(少し鈍ったかな……)

一瞬の判断の遅れがそれこそ命取りになる戦場では、身体がとっさに素早く動いてくれないのは文字通り致命的だ。

コンマ1秒の判断の遅れで生か死かが分かれると言っても言い過ぎでは無いのが戦場であり、前線で活動している

兵士達にとっては何よりも考えなければならない事の1つでもある。

だからこそ本来であればトレーニングはアイベルクの様に毎日欠かさずやっておかなければならないし、

ガラダイン王国軍でもアイベルクは日ごろのトレーニングの大切さを強く訴えている。

情報や通信の部署、それから人事や会計と言う様なデスクワークが主体の部署もあるし、後方支援で装備品の

整備をしたり衛生兵等の様にそれぞれ身体の使い方が違う部隊だって勿論存在しているが、そう言った部署にだって

何時そうした危険が訪れるかは分からない。

確かに普段の職務では身体を動かさない部署はそれで良いかも知れないが、有事の際に少しでも身体が動いてくれれば

敵に立ち向かうだけで無く、危機的状況から逃げ出す事だって可能になる確率が高くなる。


その考えで、前線に立った経験も持っているアイベルクは「無理にとは言わないけど、出来る限りであればトレーニングを

しておいた方が良い」と周囲に言う事があるのだ。

勿論言い出しっぺの自分がそのトレーニングを毎日欠かさず行っていない様であれば説得力も何もあったものでは

無くなってしまうので、3日分の遅れを取り戻すべく何時もの30分よりも長い時間のトレーニングにいそしんでいた。

そうしてトレーニングを続けることおよそ1時間。

良い感じに汗をかいた所で、外の衛兵に朝食が摂れる場所を案内して貰う事にした。

(あのセバクタ―と言う男の話であれば、確か食堂があると言っていたな)

下に食堂があるから部屋に持って来させても良いし食堂で食事をしても良い、との通達が確かに出たのを

昨日のアイベルクは聞いていた。

だったら今日は気分を変えて、城の見物も兼ねて食堂で朝食を摂らせて貰う事にしようと考えた。


食堂に着いてみると朝の何時なのかは分からないが、朝食を摂る騎士団員や配膳をするメイド等でそこそこの

賑わいを見せている。案内してくれた騎士団員の話によれば、この時間帯であれば本来ならもう少し多くの人間が

居るのだが、現在はあの例の爆弾がどうのこうのと言う事件がきっかけで騎士団員達は外で食事をしつつ爆弾探しに

行ってしまったらしいのだと言う。

騎士団の食堂で食事をしても良いし、外で食事をしても良いので特にその辺りのルールは決まってはいないと言う事も

この時に聞いたアイベルクだったが、アイベルクの事はセバクタ―から知らされている通り「重要参考人」と言う扱いらしいので、

城の外を出歩くのは許さないと言う事もその案内役の騎士団員から聞かされたのだった。


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