A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第18話
いきなりとんでもない事になったなとアイベルクは考えながら、セバクターに部屋まで案内して貰う事になった。
割り当てられた部屋は王城の中にある客間の1つ。
簡素なベッドにテーブルセット、それから絨毯の敷かれている床と採光を考えられている窓しか無い。
必要最低限のワンルームと言った感じの部屋であるが、これはガラダイン王国の軍の寮にも似た様な
部屋があるのをアイベルクは知っているのでさして驚きもしなかった。
「それじゃあ俺はもう行く。食事は下の食堂で摂っても良いし、ここに持って来させても良い。
そこは貴様の判断に任せておく。もし俺に用事があるなら俺は上の階にある執務室に居るから呼んでくれ。
ただし、重要な用事で無ければ忙しいから呼ばないでくれ。以上だ」
要点だけを言い残して、セバクターは自分の職務に戻って行った。
残されたアイベルクは一先ず、堅苦しいこの礼服の上着を脱いでワイシャツ姿になる。
(何か色々と疲れたな……)
考えてみれば、あの倉庫のそばで謎の強い光に包まれてから色々な事があった。
訳の分からない洞窟の最深部の様な場所に倒れていた事。
そこから出ようとして歩いていてセバクターに出会い、あれよあれよと言う間に拘束されて事情聴取された事。
馬で3日程度かけてこの帝都に護送される途中、いきなり盗賊? らしき団体に襲撃された事。
その団体のメンバーの中には人間の身体に動物の頭や翼を持っている生物……地球では全く見た事が
無い生物に出会った事。
団体のリーダー格らしい女から恨み言を呟かれた事。
その後は帝都の城まで連れて来られて、セバクターの部下から事情聴取を受けた事。
事情聴取後に、帝国内の至る場所に爆弾が仕掛けられたとの情報がもたらされて今の帝国内は
騒然となっている事。そしてここまで自分が送り届けられて、今に至る事……。
この3日間で怒涛の勢いで様々な出来事が自分の身にあったんだなと思い返していたアイベルクは、
その思考が身体に伝わって疲労として現れる。幾ら名ばかり大佐と言うデスクワークの多くなる地位であっても、
今もトレーニングを出来る時に出来るだけしているアイベルクもやっぱり人間。
今年で38歳になるので若い時よりも疲れない訳が無いし、そもそもこの礼服は動き難いので余計に疲れる原因となっていた。
後はこの城に連れて来られてから事情聴取が終わるまで何も食べていないのにも気が付いた。
(食事を摂らせて貰って、今日はもう寝るとしよう)
睡眠と食事は人間の3つの欲求の内の2つに当たる。
アイベルクも当然人間であるが故にその欲求を持ち合わせているので、エネルギーを蓄える為に必要な食事と
身体のあちこちを修理する為に必要な睡眠を得る為に部屋の外に居る衛兵に話し掛けて食事が欲しい旨を伝えた。
そして食事がやって来るまでの間に、セバクターに馬車の中で聞いた事を思い返してみる。
(私が確かあの馬車に居る時に聞いたのは……この世界についての事を色々と質問させて貰ったのだったな)
馬車の中では質問をされる立場であると同時に、セバクターへの質問をする立場でもあったアイベルクはこの世界の
名前や地理等を出来る限り教えて貰ったのである。
この世界はエンヴィルーク・アンフェレイアと言う名前の世界で色々な国がひしめき合っている事。
その中でも特に権力を持っている、もしくはネームバリューが大きな国は9つである事。
わざわざ地図まで用意してくれて、そこに色々とペンでセバクターが書き込んでくれた物があるのでアイベルクは
それをズボンのポケットから引っ張り出した。
(今私が居るのがここだったな)
世界地図の右下、ペンの枠で区切られたその枠内。
アイベルクはテーブルセットの椅子に腰かけ、そこを指差してトントンと白い手袋をはめたままの指でつついてみる。
そのままスーッと人差し指を動かし、帝都の位置を確認してエスヴァリーク帝国の広さを自分の頭の中に入れようとする。
(その隣にあるのがもう既に滅んだ王国で、エスヴァリーク帝国の上に海を隔てて位置しているのが、面積はこの世界でも1、2を
争うほど小さいけど魔術のテクノロジーでは世界でもトップクラスだと言われている王国だったな)
この他にも色々と国があるらしいが、この9か国の内の何処かの領土として管理されている為にそれを全てひっくるめて、
「余り多くなっても全て覚えられないだろうから」と言う理由もあってセバクターは1つの国として書き分けてくれたのである。
事実、このエスヴァリーク帝国も領土内に小さな国や都市国家があるらしい。
(地球でのオーストラリアとかニュージーランドみたいなイギリス連邦と同じ様なものか)
世界が変わっても人間の考える事はどうやら変わらないらしい、とアイベルクは妙に感心してしまう。
そこまで考えた時に、ふと地図を滑っていたアイベルクの指が止まる。
そして1つの疑問が彼の頭に浮かび上がるのだった。
(そう言えば私は何故この世界の文字が読めて、しかも言葉まで通じているのだ?)
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