A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第42話
翌朝も、起きてブレックファーストの後にすぐ馬を駆けさせるグレリスと騎士団員達。
馬に負担をなるべくかけさせない様にとの配慮を騎士団員から教えられたグレリスは、険しい山道を避ける為に
遠回りをするルートを選んでいる。
なので、帝都に到着するまでには予定の3日よりもう少し時間が掛かりそうである。
アニータは一体今何処でどんな目に遭っているのだろうか?
そう考えるだけでも、グレリスの気持ちと表情に焦りの色が生み出されてしまう。
(まっ、まさかあいつ等のおもちゃにされてんじゃねーだろうなぁ!?)
普段はポジティブなグレリスでも人間。
命の恩人でもあるアニータを、目の前でまんまと誘拐されてしまったのは彼女を守り切れなかった俺の責任も
あるのだ、と自分を責めながら必死に馬を走らせる。
(待ってろよ……俺が必ず、今まで習って来たガンシューティングと器械体操とエスクリマを駆使して君を助け出す!!)
そんな決意をするグレリスが器械体操を習い始めたのは、26歳の現在からずいぶん遡った10歳からになる。
今年で16年目になるその器械体操は、実を言うとグレリスにとっては不利なスポーツであるのだ。
と言うのも、器械体操では小柄な選手の方が活躍出来る。182cmのグレリスの様に背の高い人間の場合、
回転力が落ちてしまうからなのだ。
男では160cm台、女では140cm台と言う選手も当たり前に存在している世界の中で、グレリスはその大柄な体躯で
ありながら器械体操を続けている。
オリンピックの大会等で見られる器械体操の競技種目としては、男と女で微妙に種類が違う。
男は床運動、鞍馬、吊り輪、跳馬、平行棒、鉄棒の6種目で競技を行うのだが、女の場合では2種目マイナスされて跳馬、
普通の平行棒の代わりに段違い平行棒、それから平均台、最後に男の場合と同じく床運動ではあるが、男と違って音楽が
使われるものの4種目となっている。
それから器械体操と言う名前で使われる道具に関しては実は定義が広いものであり、平均台や吊り輪等の他にも公園に
設置されている雲梯(うんてい)やジャングルジム、更にはブランコも器械運動、器械体操の1つとして含める事が可能なのだ。
大会としては最も有名なのはやはりオリンピック。それから世界体操競技選手権、2年に1度開催されるアメリカや
日本、中国、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド等の環太平洋地域の国々が競い合う「環太平洋体操競技選手権」等もある。
これ等の大会の中で強豪国とされているのは、グレリスの地元であるアメリカから始まって中国と日本等が男の部門でトップ争いを毎回繰り広げる。
女の場合では同じくアメリカや中国、それからルーマニア等が強豪国として知られている。
半面、そのダイナミックかつアクロバティックな動きからトレーニング中の事故もかなり多い危険なスポーツとして知られており、
死亡事故に至る事も少なくない。死亡までとはいかずとも頸椎を損傷してしまったりして大きな後遺症を残す事もあるので、
しっかりとしたトレーニング環境でのトレーニングが何よりも必要なのである。
元々1811年にドイツはベルリンの郊外にあるハーゼンハイデで、ヤーンと言う人物が若者を集めて小さな体育場を開設したのが始まりだ。
そこには木や棒、平行棒やあん馬等が設置されており、若者達がそれ等の道具を使ってそこで色々なテクニックを編み出したり
競い合ったりした事が、今日(こんにち)の体操競技の原型になったのだ。
そんな器械体操の世界で既に16年活動しているグレリスではあるが、自分の体躯を考えると現状維持が精一杯と言うのが本音である。
(好きで身長が伸びた訳じゃねーんだけどよー)
身長が伸びる伸びないと言うのは個人差があるので仕方が無い。
アメリカはタダでさえ1回の食事量が多い上に、ジャンクフードを好むグレリスはカロリーの摂取量も多めである。
それでも筋肉質な今の体躯を維持出来ているのは、やはり器械体操のトレーニングで栄養の摂取と消費のバランスを
取って来ているからだろうと個人的に思っている。
オリンピックや環太平洋大会なんてのは夢のまた夢であり、別にそこまで目指していた訳でも無いグレリスでも大会に参加した
経験は全部で30回位ある。
だけど、その大柄な身体つきが逆にウィークポイントとなってしまい足を引っ張る結果で、小柄な他の選手達に比べればテクニックでは
負けていない筈だったが、いかんせんスピードではその小柄な選手達には敵わなかった。
なのでグレリスが大会に参加するのは「自分がアメリカでどれ位の順位に居るのか」と言う事を確かめるのでは無く
「自分がどれだけ成長出来て、どれだけのテクニックを身につける事が出来たのか」を確認する為……言ってしまえば自分自身への
今までのテストの意味合いでの参加に過ぎなかった。
事実、大会後のコーチや審判からの評価は「演技やテクニックではまだまだ伸び代がある筈だけど、スピードが他の選手達に
比べて劣っている」と言うものだったからだ。
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