A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第23話


この異世界エンヴィルーク・アンフェレイアにやって来て、いよいよグレリスの初ミッションが幕を開ける。

(良く良く考えてみりゃあ、ミッションをこなして報酬を得るって事はこれもバウンティハンターみたいなもんだろうな)

仕事をこなしてお金を貰う。

これは人間の当たり前の働き方となっているが、グレリスの収入は出来高制で不安定。

それはこのギルドからのミッションも同じで、失敗すれば当然報酬は貰えない。

これが会社勤めをしているサラリーマンであれば、多少の失敗があってサラリーが減額されると言う事は無いがグレリスはそうはいかない。

成功して報酬を貰う事が出来るか、それとも失敗して苦労だけして帰る破目になるのかの2つに1つである。

勿論成功する方が良いに決まっている。

そうで無ければ金は稼げない。

この生き方は自分で選んだのだから、今更後戻りは出来ないのがグレリスの生き方だ。

この世界にやって来てからのファーストミッションだからこそ、しっかり成功させて自分をリスペクトして貰わなければ

この先の仕事を受けるのは難しくなってしまうだろうとグレリスは考えていた。

(気が抜けねえな。難しいミッションなら当たり前だが、今もそう。簡単なミッションだからこそなんだ)


最初が肝心。

最初で失敗するか、出来が余り良くなくても最終的に成功するかと言う事でその後の展開が変わるだろう。

たかが荷物配達、されど荷物配達。

シンプルな薬草の材料採集、だけど材料間違いは許されない材料採集。

グレリスはバウンティハンターとしては割と長くやって来ている以上、今では若手ながらそれなりにリスペクトされている立場でもある。

しかし、この異世界においてはバウンティハンターの肩書きなんてまるで役に立たない……そもそも住所不定無職の状況で

ある為に、リスペクト以前の問題である。

つまり、この世界でグレリスは全く無名の存在なので1から実績を積み上げてリスペクトされる様にならねばいけない。

魔力が無いから、受ける事の出来るミッションがこの世界で生まれ育った他の冒険者達よりも格段に少ないのが欠点だが、

そう言われた所で自分でもぼやいていた様にグレリスは26年間この身体でこうして生きて来た訳なのだから今更どうする事も出来ない。

配られたカードで勝負をするしか無いと言うのは、それこそカードゲームに限った話では無いとグレリスは実感している。


だからこのファーストミッションを失敗する訳にはいかないと意気込んで、アニータの説明を受けながら歩くグレリス。

「はい、これがこの町の地図。私の分はあるから貴方にあげるわ」

「サンキュー。それじゃまずは1つ目の荷物配達からだな」

「その依頼から取り掛かるのね。じゃあこれが依頼書よ」

契約書となっている依頼書を実際に見せられたグレリスは、嫌でもテンションがアップして来るのを感じていた。

少し黄ばみがち……恐らく紙の材質もあるのだろう依頼書には、このミッションを依頼して来た者の名前と受諾したアニータの名前、

それからミッション成功時の報酬やミッション達成の条件、幾つかの注意事項と依頼主のサインがあった。

それに一通り目を通したグレリスは内容を把握して頷く。

「うっしゃ、内容は分かったぜ」

「なら大丈夫ね。早く行きましょう」


依頼された荷物は酒の配達の依頼内容通りワインのセットなので、急ぎたい所ではあるものの急ぎ過ぎて転んで中身が台無しに

なるのだけは絶対避けなければならない。

只でさえ地理は全然分からないし、少しでも失敗のリスクを避ける為にグレリスは逐一地図を見ながら配達先の場所を確認して進む。

本人としては追っ手が居るかもしれないと言う思いから急ぎたい気持ちの方が大きかったのだが、失敗するリスクを考えるとここは

焦らない方が得策だと考えた。

丁寧に、そして外部からのショックを受けたとしてもなかなか中身のビンが壊れてしまわない様に梱包されているワインのセットが入った木箱を

両腕で抱え込むスタイルで持ち、その木箱の上に地図と依頼書を紐でくくりつけておけばいちいち行き先の確認で荷物を降ろさなくても済む。

その途中で、グレリスはアニータに気になった事を聞いてみる。

「君は結構ギルドでは名の知れている存在みたいだけど、冒険者稼業は長そうだな。どれ位やってるんだ?」

アニータの返答を待ってみるが、返って来たのはムッとする答え方である。

「別に私が何年冒険者をやっていようが、貴方に関係無いじゃない。それよりも今はこの依頼に集中してよ。無駄口叩く暇があったら足を動かしてよね」

冷たい物の言い方にグレリスは一瞬ポカンとなった後、頭に血が上りそうになるのをぐっとこらえた。

「……まぁ、話したくないなら別に良いけどよぉ」

過去の事に踏み入るのは無しにしても、どれ位の期間冒険者をやっているのかと言う事位は別に聞いてもお咎めは無いと思っているグレリス。

(クールそうな女だと思ってたが、それ以上にきつそうな性格だな。気の強い女は嫌いじゃねえけど、好きでも無い女と一緒に居るのは結構苦痛だぜ)

人生における新たな発見をしたグレリスは、今はとにかくワインの入った木箱を落とさない様に足元に集中するのだった。


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