A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第56話
賊の男は自分の逃走ルートをあらかじめ計画していた様で、そのルート上に居る騎士団員達は全員ノックアウト状態である。
事前に男が倒していたのだろうか、逃走ルートは騎士団員の邪魔が入る事無く城の裏口から抜け出せるものらしい。
裏口を抜け、城下町の一角へと続く細い道を駆け抜ける。
この裏口はアンリから聞いていた話によれば、もし王城が襲撃される様な事態になった場合に王族やその他の
重要人物をすぐに逃がす事が出来るルートとの話であった。
このルートも事前にあの賊の男はリサーチしていたのだろうかと思いつつ、レナードも男に続いて走り抜ける。
逃がす事が出来る「だけ」のルート故に地面は整備されていない荒れっぱなしの場所だし、しかも人が2人横に
並んですれ違うのがやっとな程の細い道。
ダッシュでその細い道を駆け抜けるレナード。この時ばかりは軍服と一緒に何時も身に着けている黒いブーツのおかげで
荒れた道でも走るのに苦労しなかったのが救いであった。
気のせいではあるが、身体が重いにも関わらず少しずつ男との距離が詰まって来ている気がする。
このまま距離のアドバンテージを少しでも無くして行き、最終的には何としてでも捕まえて色々と事情を聞かせて
貰わなければレナードは城に戻る事は出来ない。
(何処まででも追いかけてやる!)
アドバンテージが無くなって来た事で精神的に若干余裕が出来、身体の重さも忘れつつあった頃に裏口から続く
ルートを抜けて城下町……の裏路地の一角に男とレナードは出る。
裏路地に入っても、レナードの目の前を走り抜ける男の足は止まる気配を見せない。
(くっ、体力が……)
軍人になる前から身体を鍛えて来ているとは言え、何時までも息切れをせずに走り続ける事の出来る人間なんて
地球上に存在する訳は無い。
もしそんな人間が居るならば、それは最早人間では無くてロボットかサイボーグの類であると思って良いだろう。
しかし、ここは地球とはまるで違う常識が通用する異世界である。
スタミナ切れの心配をしなくても済む様な魔術があったとしても不思議では無いと思えるのが怖いのだ。
せっかく縮まって来た距離がまた開いて行くのが感覚でレナードには分かる位なので、もうこれ以上のチェイスは
自分の身体が持ってくれないと判断してスピードダウンする。
(これ以上は無理だ、もう息が続かない……)
残念だが、この時点でレナードは男に振り切られる結果になってしまった。
刑事物のテレビドラマやアクション映画等ではかなり長い距離を走ってチェイスシーンを撮影しているが、結局あれ等の
シーンも編集で幾らでもどうにでもなってしまう。
フィクションはフィクション、現実は現実。異世界でもやっぱり世の中は甘くは無い。
男を追いかけて来たとは言え、勝手に城を抜け出して来てしまった訳なので少し休憩してからレナードは城に戻ろうと判断。
(しかし、一体あの男はどうしてまた私の前に姿を現したのだ?)
そんな疑問を誰に問うでも無く心の中で問いかけてみたレナードだったが、当然返事は無い……筈だった。
しかし、その疑問に答えを返してくれる人物がレナードの元に歩いてやって来たのである。
「何だ、地球人って言うのも案外大した事無いんだな」
「……えっ!?」
思わずレナードが声を上げて視線を向けたその先には、さっき自分を振り切って逃げて行った筈のあの賊の男が
自分の方に向かって歩いて来る姿があった。
何故戻って来たのか? そもそも捕まえてみろとか言ったのはそっちの方じゃないのか、とレナードでもこの男の
考えている事を理解出来なくて頭が混乱している。
途中でレナードが自分について来なくなって、期待外れだったと言う気持ちがにじみ出ている口調でそう呟く男に対し、
驚きを隠せないレナードは自分が今聞きたい事をストレートに聞いてみた。
「なぜわざわざ私の元にやって来た? しかも2度目だぞ?」
それを聞き、男はさも当然と言う素振りで答える。
「決まってるじゃないか、君に俺は会いに来たんだよ」
「私に?」
自分に一体これ以上何の用があるのだろうかと疑問に思うレナードに対して、男は首を縦に振って肯定の返事をする。
「ああそうだ。わざわざあの料理屋から後を尾けて来て、夜まで待った甲斐があった」
「なっ……」
「どうやって俺があんたの居場所を掴んで、ピンポイントでこうやって会いに来られたのか知りたいか?」
「……なら、教えて貰おう」
あの厳重な警備態勢をどうやって抜けて来たのか、と言う事についてはレナードも少なからず興味があるのでここは大人しく
賊の男の話を聞く事にした。
「幾ら警備態勢を強化した所で、隙は完全に消えた訳じゃ無い。交代の時なんかは特に気が緩む瞬間だから、その時間を
狙って城に姿を消して忍び込めばそれで良い。あんな程度の結界で俺の魔術を破ろうなんて甘いんだよ。
それに人影を探すだけなら透視魔術だって幾らでも使えるし、城の窓から漏れる室内の明かりで人間が居る部屋を探すのは苦労しなかったしな」
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