A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第33話
「1つお聞きしたいのですが」
「何だ?」
「アンリさんはその傭兵のユイシェルさんに憧れていたんですよね?」
「そうだ。そのユイシェルに憧れて、俺は騎士団に入ったんだ」
騎士団に入団した理由を再確認して、レナードは自分の心に引っかかっていた疑問をアンリにぶつけてみる。
「その方はフリーの傭兵だったと今お聞きしたんですけど、それでしたら何故フリーの傭兵としてアンリさんは
活動されていないのです?」
フリーの傭兵として世界中を駆け回り、武勲の数もあいまってその実力を世界中に知らしめたと言われている
英雄ユイシェルに憧れていると言うのであれば、何故アンリは今の騎士団に所属している立場なのだろうかと
レナードには非常に疑問だったのである。
だが、アンリはそれに関しては渋い顔を見せる。
「別に言いたくないのであれば、私はこれ以上追及は致しません」
「いや、大丈夫」
レナードにそう言われたのだが、アンリは頭をブルブルと横に振ってこれも話す事を決意する。
「一言で言えば、家柄だろうな」
「家柄……」
「ああ。俺の家はリーフォセリア王国に長年根付いている貴族の家柄だからな。貴族も貴族で大変なんだ。世継ぎだ
社交だ礼儀作法だなんだってな。そして騎士団に入るってなったのも、実は政略結婚の一環としてでの話からスタートしたんだ」
「え?」
政略結婚と騎士団がどう結びつくのか、いまいちレナードには考え付かない。
例えばこれが医者の家柄で大病院を経営している様な家の息子と、その取り引き相手の娘と結婚すると言うのであれば
話が分からないでも無い。
地球の常識にそうやって当てはめてみると、考え付かなかった理由が少しずつではあるが考え付く様になって来た様な気がしていた。
そして、その理由自体はアンリの口からこの後語られる事になる。
「俺には3つ下の妹が居るんだけど、10年前に他の貴族の家に嫁ぐ事になってな。その時は俺、傭兵として旅に出る事を
もう決意してた時だったから関係無いと思ってた。でも……」
一旦言葉を切って、何処か悔しそうな面持ちの顔をアンリはレナードに向ける。
「相手側の貴族が、傭兵と言う不安定で危ない職業に就く様な家族が居る人間とは結婚させられないって話を持ち出して来たのさ」
「ああ……」
それなら納得出来るとレナードは頷きながらアンリの話の続きを聞く事にする。
「すでにギルドへの登録も済ませて武器とかも準備が終わって、後はもう旅立つ時を決めるだけだった俺の耳にそんな話が
飛び込んで来たからな。はっきり言って最初からつまずいてしまった感じだった。俺も貴族同士の交流では良い事も悪い事も
全部ひっくるめて、これがまた色々とドロドロした世界を見て来たから断るに断れなかった……」
「だから、そこでアンリさんは傭兵の道を諦めて、騎士団に入る事にした……と」
確認する様なレナードのセリフに、アンリは苦笑いを浮かべつつ頷く。
「そうさ。俺はその後に騎士団に入団し、そして今この地位に居る。だけど最初は傭兵になれなかった分、
俺は国外での遠征任務を強く希望していたんだ」
しかし……と言葉を濁してしまったアンリに、レナードはもしかしてと自分の予想をぶつけてみる。
「その希望が通らなかった?」
「そうだ。貴族の子弟だろうが何だろうが、この国の騎士団は実力でのし上がらなければならないからそんなものは関係無いって
前に話したと思う。確かに俺は実力でこの地位まで這いあがって来た。だが、配属先までは決められなかった……」
レナードはそれを聞いていて、アンリに対して自分と重なる部分が多々あると思わずにはいられない。
良い家柄の出身である事。
騎士団と帝国軍と言う、世界も入った理由もそれぞれ違うけれど同じ軍人である事。
入隊後に配属先の希望が通らず、非常にもやもやとしている気持ちを今も抱えている事
世界が違うだけで、自分と同じ様な人生を歩んで来た人間は何処にでも居るのかと今の話を聞いていてレナードは
チクリと胸が痛んだ気がした。
「貴族の絡みって言うのは騎士団じゃなくて、どちらかと言えば王族関係の方が大きかったりするんだよ、この国ではな。
だから俺が国外での任務を中心に活動出来ない様にしたのは、おそらく妹の婚約相手の貴族が王族関係者に掛け合ったからだろうな」
「それ程までの影響が?」
「ああ、そうだ。実際に聞いた訳じゃ無いから俺の推測でしか無いんだけどな。王城勤務と言う事にしておけば、王都から離れずに
済むだろうとも考えたんだろう。その相手方の貴族は野蛮な事を嫌うタイプだから、俺は王城の中で警備でもしてろって話だったんじゃ無いか。
王族に対しての発言力がある地位だから、そこまで出来たんだろう」
「……あれ、でも今のアンリさんは辺境の守備隊長ですよね?」
王城で勤務していた筈の人間が何故ここに居る?
「あー……ちょっとそこは色々あってな。俺の話はもう良いだろ」
しかし、どうやらアンリはこれ以上の事を話してはくれそうに無かった。
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