A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第37話
女はまだまだ攻撃の手を緩める気は更々無い様で、ジェイヴァスに向けて素早い魔法の詠唱を駆使して
なかなか彼を寄せ付けようとしない。
「くぅ……っ!!」
接近格闘術に持ち込む事が出来ればジェイヴァスにも勝機が見えて来るのだが、詠唱の隙を突いて女に
近付こうにもその隙が見出だせないのでどうしようも無い。
(こ、こいつは……厳しい……ぜ!!)
地球ではフィクションの中でしか見る事の出来ない魔法と言うテクノロジーが、今はこうして現実に
自分が体感している現象としてジェイヴァスに襲い掛かっている。
勿論、ジェイヴァスは魔法を相手に地球で戦った事なんて1度も無いので未知の経験だ。
しかも、女の使う魔法は火を出す種類に限定したものでは無いと言うのが対峙する中でジェイヴァスに身を持って理解させる。
火の種類ではファイヤーボールが。
水の種類では平原なのに何故か推定高さ2メートルはあるだろう特大の鉄砲水が。
土の種類では地面から岩のトゲが突き出て来て地面を抉ってジェイヴァスを追いかけて来たり。
風の種類では周囲の小さい石や砂、小枝等を風で浮かせてジェイヴァスにぶつけにかかったり。
間違い無く強敵と言えるこの魔法使いの女。
あの山道で追いかけ回されたケルベロスとはベクトルは違えど、非常に強い事に変わりは無い。
誰か仲間でも居れば自分が注意を引き付けている間に死角から女を仕留めて貰えるかも知れないのだが、
ジェイヴァスにはあいにくそう言う仲間が居ない。
彼を連行していた騎士団員達も全員やられてしまったので、戦えるのは自分1人だけなのだと歯ぎしりをしながら
何とか反撃のチャンスをジェイヴァスは窺っていた。
(魔法を知らない俺でも分かる。あいつだけは別格だ!!)
ジェイヴァスでさえもそう思ってしまう位の実力者だと認識させ、その考えがジェイヴァスのリズムを乱しにかかる。
「うお……っ!!」
そのリズムの乱れがミスを呼び込み、ジェイヴァスの体力と気力を消耗させて行く!
「ちぃっ!!」
風の魔法で巻き上げられた砂によって目潰しをくらい、その間に今度はジェイヴァスに大きなファイヤーボールが襲い掛かって来た。
目つぶしを食らっていたジェイヴァスは、そのファイヤーボールに気が付くのが遅れてしまう。
(しまっ……!!)
一瞬の判断も間に合わない。
横っ飛びで避けようが、地べたに伏せようが間に合わない。
迫り来る火炎の球。
ジェイヴァスの瞳に映し出される、地獄の業火。
(終わった……)
人間は、死の直前に走馬灯の様に自分の一生を見ると言う。
誰が言い出したかは知らないが、死の直前に記憶がフラッシュバックされてそう言う現象が起こるらしい。
(ここまでか……)
ジェイヴァスも見た。
地球に生まれてから40年。約半世紀弱の短い人生の中で、生まれてから今までの様々な出来事が目の前に浮かんでは
次々に消えて行く様な気がした。
そして、特大のファイヤーボールがジェイヴァスに直撃して辺りに閃光と炎の残骸を撒き散らして弾け散った。
(なかなか手こずらせてくれたみたいだけど、これで終わりね)
ジェイヴァスと対峙していたその魔法使いの女は、しっかりと最後まで自分の放った業火に焼かれて行くジェイヴァスを見届けようと
確認作業を怠らない。
だが、次の瞬間その確認作業が女の目に信じられない光景を映し出す事になる!!
「……えっ!?」
シュウウ……と炎が収まり、その中からは黒焦げの死体が生まれて來る筈だった。
そう、その中から生まれて来たのは……。
「……ぉおおおおおおお……って、あ、あれっ?」
確かに直撃した筈の金髪の男の身体は、黒焦げになるどころか火傷1つ負っていなかったのだ。
「なっ、何でよ!?」
魔法使いの中でも盗掘団トップと言われていた女は、目の前で起こったあり得ない光景に愕然とする。
そして、ジェイヴァスは自分の身に起こった出来事に呆然とする。
状況が全く呑み込めない。
「え、あ、は、あれ? こ、ここは……秘密の花園?」
周りを見渡してアホな事を呟くジェイヴァスだが、どうやら自分はまだ生きているのだと黒手袋に包まれた手を握ったり開いたり、
顔を自分でペチペチ叩いたりして確かめてみる。
確かに自分はあの巨大なファイヤーボールに飲み込まれた筈だ。
なのに一体どうして?
そして、同じく目の前で呆然としている女に向かって問いかけてみた。
「お、俺……生きてんのか?」
「そう……らしいわね……って、そうじゃなくて!!」
ハッとそこで我に返った女は、何があったのか分からない頭で混乱しながらも今度こそジェイヴァスをしとめるべく再び魔法の詠唱を開始。
だが、もうそれはジェイヴァスには通用しない。
呆然としているその時間から行動を起こすまでは女の方が早かったのだが、ジェイヴァスの方が女に接近するまでの時間が短かったのだ。
「ちょあっ!!」
全力のダッシュからドロップキックを女にかまし、そこから自分の手首を拘束している手かせを使って女の首を鎖の部分で絞め上げた!
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